第五話 同盟完成!
「織姫…さんだよね? さっきはごめん」
「いいよ。わたしは気にしてないから…」
僕たち八人は輪になってお弁当を食べた。
「ここにいるみんなは、君の仲間だよ。学校や先生に何か不満があるなら、何でも言ってよ!」
「……実は僕たち三組は、劉葉君と同じ様に最初は立ち向かったんです」
栄治郎の言うことに氷威は驚いた。
「そうなのか? でも全然そんな雰囲気じゃないぞ?」
「劉葉君みたいな人が実際に四月の半ばまではいました」
今度は祈裡が発言する。
「と言うと…。不登校になっちゃったの?」
「そうでもありません。親が転勤になっちゃって、転校してしまいました。そして彼女がいなくなると、先生たちは待ってましたと言わんばかりに…」
「威張り散らしてきたってワケね!」
「そうです。それで僕たちは完全に牙を抜かれました…。リーダーが、
鈴茄の言ったことに栄治郎が頷く。
「正直僕は、もう抵抗したくないです…」
「いきなり弱腰かよ? たかが一回負けたぐらいで…」
「そうではないです。じゃあもし仮に、劉葉君がいなくなったらみんなはどうしますか?」
「へ?」
栄治郎の問いかけに、僕たちは凍りついた。
「その時は…」
「劉葉君は答えないで下さい。由香里さんは何も言い残さずに学校を去っていったんです! リーダーの劉葉君には、実際にそうなると発言の機会はありません」
僕は黙った。確かに氷威も祈裡も鈴茄も、織姫も、凌牙も須美ちゃんも、僕が言い出して初めて団結した戦友。僕がいなくなる――その可能性は限りなくゼロだけれど――その時に仲間は、どう出るんだろう?
答えは無言だった。六人は考え込んでるだけで、何も言わない。
「僕たちのクラスも、こんな状況になりましたよ。そこで先生が言うんです。君たち生徒は、我々先生の言うことをただ、聞いていればいいって。考えても何も言えない人なんて、悔しいですが怖くもなんともないんです。そしてそれが、僕たち三組だったんです…」
なるほど。僕ら四組にも、訪れたかもしれない未来。それが三組だ。
「僕だって説得力はないけど、本当はみんなと一緒に戦いたい。その気持ちはあるんです! でも、またリーダーがいなくなってしまったら…と、どうしても考えてしまうんです。そして考え始めると、もう自分でも止められないんです」
僕がいなくなるようなことはない。だけどそんな事は今言っても意味がないし、どうしてはっきりと言えるんだってなってしまう。そもそも今、僕には発言権はない。
「そして不安をなくすには、先生に黙って従うしかないんです」
栄治郎の言葉はとても重かった。
「そんなことはないよ」
後ろから声がした。僕は振り返った。
「お前は…正忠じゃないか!」
「氷威、知ってる奴か?」
「私のクラスのスパイよ」
正忠に対する仲間の評価は散々である。実際に彼は、水谷先生に誤解答作戦を密告した。
でも、金沢先生に酷い仕打ちを受けたのも事実。
「みんなは僕のこと、そう思ってるだろうね。確かにそれが正しかったんだから。でも、もう僕は先生の味方なんてしない。やめたよ」
そう言っても氷威たちは威嚇をやめない。
昨日の朝、僕は正忠の思いを聞いた。正忠は先生に裏切られたんだ。
「…」
僕は無言だった。ここは、正忠に任せよう。それは正忠が僕たちの本当の仲間であることを彼自身が証明するチャンスでもあり、実際に裏切られた経験を持つ正忠が先生に従っても意味がないことを栄治郎に伝えるチャンスでもある。
「僕も最初は、先生に従うことを選んだ。小学校の時から成績が良くなくて、何度もお父さんやお母さんを悲しませたり心配させたり…。悲しむ親の顔が見たくなかった。だから成績を約束してくれるって先生が僕に言った時、もう悲しむ姿を見なくていいって思ったんだ」
正忠は続ける。
「でも僕は、都合のいいスパイでしかなかった。先生側の事情や作戦は教えてくれなかったし、ある日突然一方的に解任させられたんだ。しかも見返りもくれずに。だから先生の言うこと聞いてても、成績は上がらない。むしろ先生の態度はますます大きくなるし理不尽も増える。だったら見返してやろうって思ったんだ。僕を切り捨てたことを後悔させてやろうって!」
正忠は言い終えた。彼の言葉がみんなにどう、響き渡るか…。
「…クラスメイトが本当は苦しがってたなんて、初めて知ったよ。どうして気付けなかったんだろう俺は」
氷威が言う。すると、
「そうよね。正忠にも事情はあるわ。それを理解してあげないと」
「私、正忠君が金沢先生に裏切られるところを目で見たし耳で聞いたよ!」
鈴茄と祈裡が続く。
「正忠君は言わば、先生に黙って従い続ける三組の未来の姿なんですね…。僕たちはそうはなりたくありません。ここは、反旗を翻すしかないですね。僕は協力します! 三組のメンバーに、新しいリーダーが誕生したことを伝えておきます!」
栄治郎がついに協力してくれると言った!
「しかし、いきなり元スパイが仲間ですって言ってきてもな…」
「やっぱり説得力にかける…」
凌牙と須美ちゃんがどうしても頷けなかった。だけど、
「わたしは信じるよ! だって劉葉も信じるんでしょう?」
織姫がそう言った。
「もちろん!」
僕は沈黙を破った。そしてその一言で、
「なら俺も、信じてやるか!」
「もしスパイ続けてたら、緑色のプールに突き落とすからね」
二人は納得してくれた。
今度のは、大成功! 同盟が成立したし、正忠も真の戦友にできた!
今日の目的は、無事達成できた! 後は午後の平和の礎に行って、課題に答えるだけだ!
午後、平和祈念公園を九人で回った。先生に僕たち違うクラスの人たちが仲良くしているのを見せつけるためだ!
今日はお父さんは早く帰って来た。
「見たぞ劉葉。他のクラスに友達ができたんだな?」
「うん。友達と言うよりは、戦友かな? 一緒に完璧絶対授業に立ち向かってくれるって!」
一緒に夜ご飯を食べた。今日は同盟が成立して嬉しかったけど、みんなが正忠を信じてくれたのも嬉しかった。
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