第四話 何か事情が?

「あとは、三組か…」

 ここまで順調だったのには、理由がある。一組と二組は、実行にこそ移せなかったけれども、学校に対して不満を抱き、完璧絶対授業に嫌気がさしていた。でも三組は、違う。かなり早い段階で、先生に逆らうことを諦め、ただ黙って従うことを選んだクラス。きっとそう簡単には僕たちに協力してくれないだろう…。

「アイツだぜ、水無月みなづき栄治郎えいじろう。幼稚園が俺と同じだった」

 氷威が指さす先には、猫背でいかにも性格が暗そうな子がいる。

「ちょっと話してくるよ」

「正気かよ? アイツは協力してくれないと思うぜ…」

 その可能性も十分ある。でも、やってみなければ、わからない!

「こんにちは!」

 僕が話しかけると、栄治郎は振り向く…いや、向かなかった。

「ねえ、一人? 一緒にあっちの展示を見てみない?」

「一緒に見学した方がいいって!」

 織姫も話しかけるが、全然反応しない。

「ねえどうしたの?」

 織姫が肩を叩いた。すると、

「うわあああ!」

 いきなり織姫を突き飛ばして去ってしまった。

「…何だったんだ今のは?」

 僕も理解ができなかった。


「そんな奴が?」

 お昼を食べる前に、バスで移動だ。凌牙と午前中の話をした。

「須美ちゃんは協力してくれるって言うんだけど。三組は難しいかもしれない…」

 僕は少し弱気になった。凌牙、須美ちゃんと着実に仲間を増やしたのに、最後の一人は失敗してしまった…。

「俺が協力するぜ。昼は一緒に飯食おうぜ」

 平和祈念公園に着いた。そして広場に移動する。ビニールシートを広げて、お弁当をリュックから取り出した。僕は織姫、氷威、祈裡、鈴茄と一緒に食べようとした。

「私も一緒に、いい?」

 須美ちゃんも加わった。

 さあいただきますというまさにその時、僕の目の前に凌牙が現れた。

「全くチョコマカと逃げやがって…。劉葉、連れてきたぜ? コイツが栄治郎だろ?」

 凌牙に腕を掴まれているのは確かに栄治郎だけど、まさか文字通りに捕まえてくるなんて。

「放せよ、僕は…」

 逃げようとする栄治郎を凌牙は掴んで離さない。

「逃げる前にお前、やるべきことがあるだろう?」

「え?」

 凌牙は織姫の方を見た。

「女子をいきなり突き飛ばすなんて何事だ? 先生にそうしろって言われたのか? まさか学校が目指す完璧な生徒はそんな事しないよな?」

 凌牙の言うことを聞いた栄治郎は抵抗をやめた。

「いきなりごめんね。凌牙も僕も、本当は君と同じで逃げ出したいんだよ。でも、頑張ろうよ!」

 渋々栄治郎はビニールシートを広げた。

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