第三話 黙っちゃいられない!
しかし疑惑が確信に変わってしまう日が来てしまった…。
この日、織姫は理科の教科書を忘れてきてしまった。
「すみません、先生…」
先生は笑って優しく、
「いいんですよ、一回ぐらい。人間誰だってミスはあります。乙姫さん? 君が水谷先生に証明してみせたことではないですか?」
「それは、そうですけど…」
同じく正忠も忘れ物をしてきたのだ。
「ごめんなさい、先生…」
正忠の方を向いた先生の表情はとても冷たい。
「君、やる気がないんじゃないですか? 忘れ物? どうして未然に防ごうとしないんですか? 努力はしましたか? してませんよね、してないから忘れるんですから! ごめんなさい? ちょっと言っている意味がわかりませんね。許されるとでも、本気で考えてるんですか? 全く拍子抜けです。君みたいな生徒がこの学校にいると思うと、情けない限りですよ。何点減点しましょうかね? え?」
これについに、正忠がキレた。
「この織姫…売国奴が!」
先生は一瞬、ニヤリと笑った。
「正忠君。何ですかその汚い言葉は? 織姫さんが売国奴? 君、意味知ってて言ってるんですか? 君に織姫さんを非難する権利、ないですよね?」
先生のこの説教は、誰も聞いてなかった。正忠の発言が、みんなの頭に残っていた。
この時間の理科は、酷いものだった。生徒が指名されて間違えると、先生の人格攻撃が待っている。対して織姫が間違えても、何も文句を言われない。
逆に、生徒が指名されて当てても、それは当然だと言わんばかりに適当に流される。これが織姫の場合、絶賛される。
この温度差は、僕たちと織姫との間に大きな溝を作った…。
「金沢先生。実験の方はどうですか?」
「校長先生。明日、しますよ。こちらも準備が整いましたから」
今日、正忠は良くやってくれた。アイツが忘れ物をしてくれたおかげで、劉葉率いる一年四組と織姫を完全に分断できた。このためにワザと正忠を叱っておいたんだから。それも誰よりも裏切ることに対して、説得力のあることを言ってくれる人間を。
そして生徒を一人味方に付ければ生徒隊なんて簡単に内部崩壊していく。今頃裏切り者をどう処罰するか考えてるんじゃないのか?
僕はこの日の放課後、織姫に教室に残るように言った。
「…」
戦友を信じられない自分が悔しい。
「劉葉は、わたしが本当に裏切ったって、思ってる?」
「思いたくない! だけど…」
だけど今のクラスでは、自分の言葉で織姫が裏切り者ではないと完全には説得できない。悔しいことに、今の僕が何を言っても、氷威たちは疑いの目を向けるだろう。
「だけど僕には、どうすることもできない…。何をしても文句を言われる。逆に織姫が何をしても、先生は褒める…」
僕がそう言うと、織姫は泣き出した。
「どうして、どうしてなの…。わたしはみんなのこと、信じてるのに…」
劉葉は織姫の頭を撫でた。何かをすれば叱られる僕たち、何をしても褒められる織姫。
待てよ? そうか、その手があった!
「きっと大丈夫。僕を信じて! 織姫は、何もしなくていい!」
劉葉は、織姫が泣き止むまで一緒に教室に残った。
先生。ここまで織姫を傷つけた罪は重い。
織姫の傷は、僕の判断ミスだ。様子見は良い作戦ではなかった。でも先生の思い通りにはさせない。報復攻撃だ!
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