第二話 裏切り者?

 ドアをノックして開ける。

「…失礼します…」

 織姫は恐る恐る職員室に入った。

「すぐに来てくれましたか! いやあ助かりますね~君がこうも真面目だと。他の生徒にも見習って欲しいものですよ」

 先生はやけに自分を褒める。

「時間があったので…」

「わざわざ時間を食ってまで、来てくれたんですか! 今学期の君の内申点は、上げずにはいられませんね!」

 先生は丁寧に接してくれるが、周りの他の先生の視線が気になる。

「二時間目が始まっちゃうので、失礼します!」

 そう言って職員室を出た。先生は笑顔で手を振った。

「…それが君の作戦なのかい? 金沢先生?」

「ええそうですよ火野先生。ターゲットは彼女。俺は彼女だけ、贔屓すればいいんですよ。そうすれば、必ず内輪もめに発展しますからね。だってそうでしょ? 敵と仲良くする奴なんて、仲間って言えないですから!」


 まだ作戦が思いつかない。両方を崩すには、一体どうしたらいい? 普通の授業では難しいか。いやだからこそ、理科を選んだんだ! 理科には実験がある。次の実験はいつになるかはわからないけれど、その時がXデーだ。その日のために考えなくては!


「金沢先生、準備ができましたよ」

「校長先生、ありがとうございます。これさえあれば、俺の作戦は完璧ですよ!」

「ちょっと待って! これって…。透析?」

 水谷先生が言う。

「ええそうですよ。透析のためのセロハン。実際の実験では、コロイド現象についてもレクチャーする予定ですよ」

「でも、これは中学生には全くわからないわよ?」

「でしょうね。でもそれが良いんですよ。中学生の教科書には、どこにも載っていない。ならば生徒は、先生を頼るしかない。そんな状態では、生徒は先生に逆らえやしないんですよ」

「なら、もうすぐにでも?」

「いいやまだですね。もう少し待って下さい? もう一方の準備ができてないんですよ。それができ次第、やってみせますよ」


 今日も教室での授業だ。まだ作戦が決まってないから、実験じゃないのは良いが、タイミングが敵に依存してしまうのはよろしくない。

「おっと今日は日直さん、休みですか。こんな時期に風邪を引くなんて、健康管理がおろそかになっている証拠ですよ。情けないですね全く! …仕方ありませんね、織姫さん? 代わりに挨拶お願いできますか?」

「わかりました。起立! 礼! 着席!」

「相変わらず元気があっていいですね! みんなも織姫さんを見習って下さいよ?」

 元気なのは何も、織姫だけじゃない! 僕たちだっていつでも戦えるように、常に元気にしているのに。

「では教科書を開いて下さい? そうですね、織姫さん? 五行目から読んでくれますか?」

 織姫はできるだけ教科書を見ないようにしている。先生が開かせたページには、虫の写真が載っている。織姫は虫が苦手なのだ。

「せ、先生…。ちょっと…」

 すると先生は、

「人間好き苦手はありますからね。多少は目を瞑りましょう。代わりに劉葉君? 読んで下さい」

「はい」

 僕は読み始めた。と同時に、お腹が痛くなった。

「う、いてて」

「どうしました?」

 僕はお腹を押さえて先生に言った。

「先生、お腹が痛いです…。トイレに行ってもいいですか?」

 先生は呆れ顔で、

「駄目ですよ? さっきまで休み時間でしたよねえ? 君、何してたんですか? まさか遊んでたんですか? 休み時間は今の君みたいにならないようにするために、トイレ等を事前に済ませておくための時間ですよ? 君はそれを怠った。ただの自己責任ですよ。さ、音読を続けて下さい?」

「そ、そんな…」

「おやおや今度は私語ですか? 減点ですね、記録しますよ」

 くそ! 久しぶりに被弾した!

「先生! いくらなんでもかわいそうです!」

 織姫が僕をかばって言った。手を挙げなかった。これでは織姫も被弾してしまう!

「…ならしょうがないですね。行ってもいいですよ、劉葉君。ただし、この時間は欠席にしますからね!」

 お腹を押さえた。我慢できそうにない。仕方なく僕は今日の授業を諦めて、トイレに向かった。

「では授業を再開しましょう。鈴茄さん? 音読して下さい」

「わかりました」


 理科の時間が終わると、給食。そして昼休み。今日は晴れているから、普通はみんな外に行く。

 でも僕たちは行かなかった。作戦会議をしなければ。しかし、

「金沢先生、なんなんだよ! 織姫ばっかり贔屓しやがって!」

「と言うと?」

 僕は氷威が何を言っているのかよくわからなかった。

「劉葉はあの場にいなかったからわからないわよね。さっきあんたがトイレに行ったとき、織姫も喋ったのに、減点されなかったのよ? 対してあんたは欠席扱い。おかしいと思わないの?」

 鈴茄が解説してくれた。

「そ、それは本当?」

「そう言えば、日直の代わりも織姫に頼んでた…。普通は学級委員が代わるのに」

 祈裡が付け加える。

 みんな、浮かない顔だ。

「でも敵のスパイだったら、正忠がいるよな?」

 氷威が正忠を睨んだ。

「ぼ、僕だって! 先生のためにあれこれやって来たのに、金沢先生は僕の味方をしてくれない…」

「売国奴はお前じゃ役不足だ」

「じゃあ織姫なら務まるってのかよ!」

 そんなことは考えたくない! でも現状、金沢先生の織姫に対する贔屓には目を瞑れない…。

「待ってみんな! まだ、様子を見てみよう。織姫が裏切るとは、僕は思えない!」

 何とかみんなをなだめた。織姫が裏切るなんて、そんなはずない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る