三時間目 理科
第一話 先生の作戦!
「最近生徒の態度には、目に余るものがあります」
職員室で校長先生が言う。
「このままでは我が学校が掲げる、完璧絶対授業が成り立ちません。誰か何か、策はありませんか」
火野先生と水谷先生は顔を上げられなかった。今生徒たちが思い上がっているのは、自分たちの失敗のせいだからだ。
「校長先生、俺に任せてくれませんか?」
名乗りを上げたのは理科の
「金沢先生。あなたは確か大学時代に、学生運動に参加していましたよね?」
普通の人なら汚点と見るべき。しかし金沢先生は違った。
「ええそうです。ですから大組織に歯向かう反逆分子がどんなことを企むか、俺なら容易に想像できますし? 対処もしやすいでしょう。校長先生の悩みの種の、劉葉とその仲間たちを必ずや黙らせてみせますよ」
「本当にできますか? 例えばあの二人」
校長先生は火野先生と水谷先生の方を向いた。
「お二人も実際にしてやられるまで、あなたと同じ意気込みでしたよ? それがご覧の有り様」
「寿命待ちとエセ女王と、俺を一緒にしないで下さい? それと校長先生にお願いがあるんですよ」
「と言いますと?」
「準備して欲しいものがあるんですよ。それを使えば黙らせるなんて楽勝ですよ」
金沢先生の要求を聞いた。
「…それは中学生にはまだ早いですよ? 完璧性が損なわれます」
「それは百も承知ですよ。まずは教師陣の絶対性を取り戻します。片方ずつ失ったんですから、やはり片方ずつ奪い返すのが定石。そして絶対性を取り戻したら、すぐに生徒を完璧にしてみせましょう」
「そうですか。では、急いで手配しましょう」
朝の会議は終わった。
「なあ劉葉」
「何だい氷威?」
「そろそろ俺たちだけで戦っていくってのも、ちょっと難しいんじゃねかな?」
ちょうど僕もそう思っていたところだ。でも、協力してくれる人がいるか…。他のクラスも学年も、先生たちに歯向かうことをとっくにやめてしまったのだから。
「私も人員は欲しいわ。今のままだと、私のクラスだけ、不良って言われても不思議じゃない」
「完璧絶対授業には学校全体が一丸となって反対するべき!」
鈴茄と祈裡の言うことももっともだ。
「僕だってわかってる。だけど」
視線の先には正忠。彼のようなスパイ他にいてもおかしくないのだ。戦争の勝敗は武力と作戦と情報、この三つで左右される。一つでもかけたら、戦況はガラリと変わる。
「確かに生徒の中には、先生に協力しちゃうって人もいるとは思う。だけど、人員が多いことに越したことはないよ」
織姫が言う。
「なら決まりだ!」
僕は決めた。多少のリスクを負ってでも、この戦争は勝たなければいけない。
「具体的な方法は、後で考えておく。とりあえず今は、今日の戦争に備えよう!」
三時間目が始まる。金沢先生がやって来る。冷静沈着な先生だ。
「日直さん、挨拶して下さい?」
「起立! 礼! 着席!」
さあ今日も戦争の始まりだ!
先生はどんな作戦で来るのか? いやそれがどんなものであっても、迎え撃つ!
「では、この問題を…。正忠君、答えられますか? 炭水化物は、何に分解されますか?」
「え、えっと、デンプン…?」
先生はワザとらしく首を傾げた。
「正忠君? ふざけないで下さいよ? それとも何ですか、理科の授業なんて予習も復習も必要ないって言いたいんですか?」
「ち、違います! わからなかっただけです!」
「おかしいですね。君は教科書を開いているはずですよね? それなのにどうして、わからないんですか?」
正忠は答えられなかった。
「仕方ありませんね。では代わりに織姫さん、わかりますか?」
「はい。ブドウ糖です!」
織姫がそう答えると、金沢先生は拍手した。
「素晴らしい! いやあ見事な回答ですよ。日頃の努力があってこそ、即答できるってことですね! さあみんな、織姫さんに拍手しましょう」
言われた通りに拍手した。もちろん僕も手を叩いた。
でも何で、たかが一問、それも先生の言うように教科書を見ればすぐにわかる問題に正解しただけで、こんな大げさに?
ある程度授業が進むと、先生は教科書を進めるのをやめた。
「ではみなさん。教科書とノートはしまって下さい? プリントを配りますよ。貰った人から始めて下さい」
そこまで難しくはない。僕でもすぐに解き終わった。
先生が時計を見た。
「おややや、もう授業終了時刻ですか。仕方ありませんね。織姫さん? プリントを昼休みまでに俺の所にみんなの分を集めて持ってきてもらえますか?」
先生が頼みごと? 時間がオーバーするのを余程警戒しているのか…。まあ水谷先生の一件もあったんだし、無理ないか。
「わかりました」
プリントはすぐに集め終わった。そして二時間目が始まるまで時間に余裕があったので、織姫は職員室に向かうことにした。
「敵陣に行くんだ、気を付けて!」
僕はそれが心配だ。でも、
「大丈夫だよ、劉葉。ただプリントを届けに行くだけだもん」
そう言って織姫は教室を出た。
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