第四話 織姫の決意!
「生徒に集団カンニングをさせていたとは…」
校長室で水谷先生が、校長に説教される。
「わ、私は、生徒みんなが完璧でいられるように努力しようとしただけ、です…」
校長は成績の書かれた紙を叩く。
「こんな紙の上だけで完璧であっては、意味がないでしょうに。生徒たちに真の学力を身に付けさせるための完璧絶対授業のはずです。その根底を君が揺るがしてどうするんですか?」
校長の言葉に何一つ言い返せない。
「水谷先生。君の気持はわからなくもありませんが、これは減給ものですよ。私の達成せんとする崇高なる思考を、まさか君が邪魔するとは…」
水谷先生はその場ですぐに土下座した。
「すみません! 本当にすみません!」
「まあいいでしょう。顔を上げて下さいよ」
恐る恐る顔を上げる。
「ところで…。君の不正を暴いたのは誰ですか?」
放課後。織姫と二人で帰る。
「今日はありがとう! 織姫ちゃんがいなかったら、今日も敗戦だった。今日の勝利は、織姫ちゃんが掴み取った勝利だ!」
僕は織姫に何度も頭を下げた。
「劉葉君! わたしも、何かできないかなって思っただけなの。劉葉君たちが頑張ってるなら、わたしも頑張らなきゃって」
たくましい子だ。僕はそう思う。何せ僕ら四人が手も足も出なかった先生に、たった一人で立ち向かって、勝利したんだから。
「それにわたし、劉葉君の悲しむ顔なんてみたくないもん!」
「僕は悲しまないさ。悔しさをバネに、頑張って反撃するだけだ!」
「ならわたしも、悲しんでいられないや!」
織姫の顔は明るい笑顔だった。
「僕も負けていられない! 次は頑張らなくては!」
「劉葉君! 劉葉君だけが頑張る必要なないよ?」
「と、言うと?」
「わたしも協力する!」
僕は彼女を止めた。
「それは駄目だ! 民間人は戦争に巻き込めない!」
しかし織姫は、
「わたしも戦うの! わたしだって参戦する。わたしはただの民間人じゃない! 守ってもらうだけなんて真っ平ごめん」
協力してくれるのはありがたい。だけど、と僕は思う。
「それにさ」
「それに?」
「勝利はみんなで勝ち取るものでしょう?」
そうだ。織姫の言う通りだ。
「なら、今日から織姫ちゃんは戦友だ!」
「そうね。わたしも一生懸命頑張るわ!」
新たな戦友を獲得した。
勝てる。この戦争。確実に。
みんなと協力していくことは、勝利に近づくための一歩だ。
「劉葉。またまた聞いたよ」
お父さんがまた、僕を呼び止めた。
「お父さん、何を?」
「いや、劉葉については何も」
僕は今日、めぼしい活躍をしなかった。強いて言うなら木村先生に、黒板を見るよう言ったぐらいか。話を聞かないのも無理はない。
「劉葉のクラスに、織姫って子がいたね確か」
「織姫がどうかしたの?」
「彼女は一体どんな子何だい?」
「織姫は、真面目な子だよお父さん。完璧絶対授業でなくったって、織姫は努力をやめない。だからあの授業体制がなくなっても、何も心配はないよ」
「そうかそうか。織姫は完璧絶対授業であってもなくても、学校に行くんだね?」
不登校なんて選択肢は、僕らにはない!
「何を当たり前なことを!」
僕はお父さんに反論した。
「しかしこうも先生に立ち向かう子が出てくるとなると、完璧絶対授業は何か不備でもあったってことなのかな?」
「お父さんは教室にはいないから、わからないとは思う。でも、クラスのみんながみんな、苦しんでいるだ!」
僕は叫ぶ。自分の声で、自分の魂を熱く燃え上がらせる!
「この戦争は、完璧絶対授業を終わらせ、民間人をその苦しみから解放して初めて終わる! その日が来るまで、僕たちは絶対に挫けない! 負けない! 逃げない!」
僕は自室に戻った。
今日の勝利で、生徒の完璧性は崩れた。前の勝利で先生の絶対性を崩しているから、そろそろ勝ち目が見えてくるはず。
でもそうなると、敵も状況を打破するために何かしてくるに違いない! ただ黙って指をくわえて僕たちの快進撃をボケーっと見てるはずがない!
時間割を見た。明日の一時間目は理科だ。
もちろん理科の授業も、戦争だ。明日はどんな作戦を展開して、どのように攻撃して、どの程度身を守るか。
考え始めたら眠くなってきた。
「まだ、駄目だ!」
眠たい目を擦って、何とか起きる確かに睡眠は重要だ。だけど明日からはより一層、戦いが激しくなる。それなのに何も考えずに寝る、なんてできない!
「理科の授業は…絶対性と完璧性、その両方を崩してみせる!」
そうすれば、先生や学校には大ダメージ、僕らには万歳もの。この戦争が確実に有利に進む。
僕はその両方を崩す方法を考えた。だけどそれは難しすぎて、眠気に負けてしまった…。
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