下克上がタイトルの男の一生
@yamazakihikaru
第1話
肌寒くて目が覚めた。俺はすぐに上着を羽織る。鼻がかゆい。いつも通りに洗面所に行き顔を洗う。どれくらい水滴がついてるかな?鏡で確かめてみる。これは嘘だ。本当は顔を見たかっただけ。今日の朝食はパン、スクランブルエッグ、ハム、トマト、オニオンスープ。手は口に食事を運ぶのに忙しいはずなのに、俺自身は暇でしょうがない。なので、テレビをつけてみた。噛むたびに骨の凸凹が変化する。食事を食べ終わり、皿を洗おうとする。皿には何を食べたか予想できる汚れの色が付いている。まるで、パレットの様だ。
俺は外に出た。ほどよく寒い秋風が顔に当たる。「まだ冬にはなりたくないよ。」と言葉を発してる様に聞こえた。なので「あぁ、一生冬は来なくていいよ。」と返す。唾液を含んだことがわかるオノマトペを出しながらくしゃみをした。通りすがりの人が横目で見る。大丈夫ですと心の中で言った。
散歩から帰った。時計を見るともう昼だ。土曜日のこの時間帯は大体暇だ。こういう時は、本を読む。実際のところ本は好きじゃない。若者らしい理由だが、ゲームとか動画を見たりする方が楽しいからだ。だから、ずっと本を読んでいる人を見かけると疑問に思ってしまう。しかし、自分が本の良さを分かっていないという事実に劣等感を覚える時もある。これらの理由から俺は本を読もうと決めたのだ。しばらく読むと飽きてしまった。本を読んだ後の特別な質素な感情が残る。余韻に浸りながら良い気持ちになった。そのまま、昼寝でもしようかとまぶたとまぶたが重なるか重ならないかで駆け引きをしていた所、インターホンが鳴った。啼くのは女のあえぎ声だけでいいと思いながらボタンを軽く押す。「はーい。」と出来るだけ愛想良く答える。「宅配便か。そういえば服を注文していたっけ?」男は大儀そうに玄関へ向かった。
扉を開く。様子を確認すると男は苦笑いした。宅配便ではなかったのだ。しかし、見覚えのある容姿だった。そういえば!くしゃみをした時、心配そうに見ていた人物である。でもなぜ家を?男は再び、苦虫を噛み潰したような表情をした。同時に混乱を起こした。男は女への第一印象が良かったからである。女は「違う!もう!ストーカーじゃ無いわよ!!」感受性が豊かなのか、自分が置かれている立場をすぐに理解した様だ。「はい。これ。落し物よ。」今度は冷静に男に伝える。喜怒哀楽がはっきりしている女性的な部分に男は少し惹かれた。女の手の温度を感じながら落し物を受け取る。ボタンだ。
「わざわざありがとうございます。すみませんが、なぜ家の場所を知ってるんですか?」
「非常識に聞こえるかもしれないけど、ついていったの。」
「声をかけて下さっても良かったのに。」
「あなた、イヤホンしてたでしょ?大声で言ってもスタスタ歩いていったわよ。」
「そうですか。でも、家にわざわざくるより僕のところまで走って言った方が早かったのでは?」
「もう!あなた絶対モテないでしょ!下見なさいよ。下!荷物でたくさんでしょ?」
「あっ...。すみません。気づきませんでした。あ、後俺がボタンを落とした後から大分時間が経ってますがどうしていたんですか?」
「何でそんなに質問ばかりするのよ?私が怪しいわけ?」
「いや、ここ治安が良く無いので女性一人では危ないし...。心配だったので。」
「...それなら大丈夫よ。ありがとう。」
男は気づいていた。女が一度も目を合わせていないことに。男と話すことに緊張しているためか、強い言葉を発する時声が微少に震えているという事実も。純粋な女に隠し事は不向きである。男はそのギャップに興味が湧いた。
下克上がタイトルの男の一生 @yamazakihikaru
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。下克上がタイトルの男の一生の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます