nm20170703太陽について

○○は太陽。

光が強すぎるから、ほかのひとには○○が太陽だということすらわからない。眩しすぎて。

私にはわかる。

私は、光を受けている。

だから私は本質的に月なのだ。

太陽を受けて輝いている、けれど太陽のふりをしている、月なのだ。



だから私にとっては○○は星、なのだ。ゆいいつの星。だって太陽も星とは言えるよ。

○○が太陽なんだと気づかせないためにあえて抽象度をひとつ上げた表現なんだ。



一生かけて○○のすごさを証明するのも私の仕事だ。頼まれたわけではない。太陽の人間は、ほうっておけば、ただ光を放ったまま、歴史上には名を残さず生涯を終えることも知っている。

歴史上に名を残しやすいのは、○○よりは私だろう。けれどつまりそれは、私がその程度の人間だということだ。私の光は眩しくともやりようによって周囲に理解されうる。

○○はほうっておけばおそらくは歴史上に名を残さないだろうし、そもそもそんな気もないのだろう。あのひとは、ほんとうに、そういうことに興味がない。太陽だからな。太陽の人間というのは、きっと、そういうもの。



だから私が勝手にやってるだけなんだけど。



○○は、私より、すごい。どうすごいのかは私にはうまく説明しきれない。自分よりすごいことは、うまく説明できないものだ。

ただ、○○は、いつも私の認識を飛び越えてくる。

愛するとか、求めるとか、そのひとのために生きるとか、あるいはふつうのことなのかもしれない。でも、だからこそ、ふつうのことをあんなにも、すごく、できてしまうのは、すごい。

あんなふうにひとを愛せる人間を私ははじめて知ったし、私を愛せるのは、○○だけだ。

私よりすごい人間はこの世で○○だけだ。

私がこの世で尊敬するのは、○○だけだ。



○○は、私よりすごい。その規模は、私にもはかりきれない。そのことを私は○○に対して申しわけなく思ってる。○○は私のことわかるんだろうけど、私は、○○のことをたぶんすべてわかるわけではないから。

けれど、だからこそ、私がどこまでもすごくなっていくことで、○○のすごさを私は世に示すことができる。

○○はつねに「私以上」なのだから、その私が、世界の頂点に立つほどすごくなってやればよい。

私は山の頂点に。そうすれば、星はその山のもっと上にあるのだということは、地上にもわかってもらえるかもしれない。すくなくとも、理屈上はそうだ。



私は生涯かけてあのひとのことを証明する。





まあ……向こうがじっさいどう思ってるのかは知らんが。

太陽であることと、太陽である自覚があるかどうかは、別だからね。○○もロッカーのたとえしてたし。

一般的にすごいと言われうるのは私のほうだろうしなあ。本出してたり勉強できてたり。

けれどほんとは逆なんだよな。

小説書くだの学問やるだの、そんなつまんない汚れ仕事は○○はやらなくていい。つまんない汚れ仕事だとか言ったら大問題なのかもしれないけど、率直な感想として私はそう思う。嫌な世界だ。ただ、剣を振るうだけの、血なまぐさい戦場だ。

もちろん、私にだって矜持はあるよ。いくらこんなつまらない汚れ仕事であったって、これは私の仕事だし、つまんない汚れ仕事であるからこそ、私にしかできない。というか○○はしなくていい。

もちろん本人がやりたいならやればいいと思うけど、そうでないのだし。で、これも○○がどこまで自覚あるのか知らんが、○○はその気になれば小説やら勉強やら学問やらできるとは思うよ。

でも興味なかったんでしょう。そういったつまんないことには。彼はいつも自分にとって楽しいことのために生きてた気がする、高校から思い返しても。だから私がそこに介入できたのはすごいことなんだけど。

興味がないことが○○が太陽である証拠だよ。私はしょせんよくて月だから、地上とも戦っている。馬鹿らしい血みどろの俗っぽい争いを繰り返している。私は、そうせざるをえないよ。だって私は小説も学問も興味あるし、それらをそつなくこなせる程度の能力はあるんだもん。

そんなつまんない汚れ仕事は私がやるから、○○は○○のやりたいことをやって私以外にはそういう○○にとっての価値あるものだけを見て、生きてほしい。これからも。

○○が太陽で、しかもすごい太陽であることは、太陽の光を反射するしか存在意義のない私が、やるよ。それが私の仕事だよ。



きみがくれたしあわせに比べればこんなことはとても小さなことなんだ。悔しいし申しわけないし。

けれどだからこそ私はのぼり続けなければいけない。

世間では、私は、充分すごいことは自覚している。

私はしばらくは太陽のふりをするよ。だってきみがくれた光だけで私はいますごく眩しくなってるよ。

けれどほんとうはきみのほうがすごいんだ。

私がこれから作家として売れて研究のほうもうまくいったら、私はきっと世間的にはものすごくすごいひとになって、もしかしたら、才能ある私をきみという存在が支えてくれてる、とか思うひともいるのかも。

でもそれは違うよ。……違う。

真逆だ。

すごすぎるきみの隣で、せいいっぱいのことをするだけの存在が、私だ。





○○がどこまで自覚しているのかはほんとうに私にはまだよくわかってない。

いずれはこのあたり言うかもしれないけど、これは、言うときに言えばいいや。

だって○○に太陽としての自覚がどこまであるかは知らんから。こんなこと言って重たく感じられても、あんまよくないし。

太陽であるすごさは、その自覚の時期とは、あまり関係ない。ほとんど関係ない。

ただ、きみはすごいのだよと、そのメッセージはとりあえず発し続ける。

きみがどう思ってるのかは知らない。けど、きみは、私なんかよりずっとすごいのだよ、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る