献立4
『あのねあのね!とりさんになっておそらをとびたいの!』
「……そうだね、きっとたのしいよ」
『あした、サンタさんがおうちにくるんだよ、なにおねがいしようかなあ、えへへ、ひみつだよ』
「すてきだね、でも君のほしいものは、僕には教えてくれないの?」
『ひみつきちをつくって、おともだちとまちをパトロールするの!』
「そう、明日はどこまで行くの?」
『おかあさんなんてだいきらい!』
「おかあさんは、君が心配だったんだよ。さぁ、謝りに行こう」
『やまとくんに好きだって言われちゃった。けれど、みさきちゃんを応援したいな』
「どうして?君はやまとくんが好きなんじゃないの?」
『石川先輩がね、一年生が生意気だって。でも私、頑張って練習して試合に出られるようになったんだよ』
「よく頑張っていたもんね。それにしても、酷いことを言うやつもいるんだな」
『須崎さんと小林さんって、とっても可愛いんだ。クラスでもいつも中心にいるし、こんな私とも仲良くしてくれるの……優しいんだ』
「そう、それは良かった。君にはすてきな友達がいるんだね」
「……ねぇ」
「……また、君か」
「またって何よ、失礼ね。あんたこそ、また、こんなところで何してるわけ?」
あの子の家の屋根で休んでいた僕を小突いて、空いたスペースに彼女が降り立った。いつものことだけれど、多少ムッとして僕は言葉を返すことにした。
「別にいいだろ、君には関係のないことだよ」
「あー、うんうん、そういえば何回も聞いたわ。そんなことどうでもよくってさ、あたし今日収穫なしなのよね〜〜」
「それが、どうしたの」
「…………」
「どうしたの?おなか、痛い?」
「……」
「……?」
「か弱い女の子が……」
「え……?」
「か弱い女の子が!!夢狩りに失敗したというのに!!」
「うん、それで?」
彼女が大きな溜息をつく。どうしてこの獏はいつもこんなにも態度が大きいのだろう。
「はぁ……まぁ、あんたにはこういう配慮は無理ね」
「配慮……というか、どちらかといえば同情だと思うけれど」
「わかってるじゃない!じゃあ、」
「ないよ」
態度が大きいだけじゃなくて、とても図々しいとも思う。彼女は目を丸くして、とても驚いているようにも見えた。
「え??でもあんた今日あんなに……!!一日で食べたっていうの!?」
「……うん」
「ぜっったいにありえないわ!!!そうじゃなきゃこんなに貧弱じゃないもの!!!」
いつどこで僕を見ているのか知らないけれど、余計なお世話だな、と思い、僕はわかりやすいようにムッとすることにした。
「貧弱は、余計だよ」
「……あんた、まさか」
「直に、……朝になるよ」
「……」
「……実は、ひとつだけ残ってたんだ。歩行者天国で集めた夢。天国って名前がついているだけで集められるものなんだね。はい、どうぞ」
「……いらない」
「……そう。おかしなやつだな」
「あんたが、食べなさいよ……」
今日も彼女は、怒って飛んで行ってしまった。せっかくの親切心を無駄にするとは一体どんな心持ちをしているのだろうか、まったく。
……本当は、彼女が僕に何を言おうとしていたのか、彼女が怒ったり泣いたりする理由も、わかっている。わかっているからこそ、もう、放っておいてほしいのだ。別に彼女が困るわけではない。これは全部、僕が始めたことであるはずなのだし、彼女がどうこう言うこともないのだ。
歩行者天国でのイベントで、酔っ払ってうたた寝をしていた中年男性の夢を口に入れる。大人の夢は腹の足しにもならない。けれど、アルコール混じりのこの夢を食べると、僕も酔うことができるような、そんな気がした。
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