正月休みは実家にて
初日の出を見た後で、絵美は僕とケイちゃんを僕の実家に送った。そのまま絵美は自分の実家に帰って、明日はこちらで過ごすことになっている。別に僕は帰らなくてもいいんだけど、と言ったら、
「ちゃんと親孝行しなさい!」
と怒られたので仕方なく帰ってきた。
「健斗、あんたもうご飯食べたの。お腹すいてない?」
「だから食えないんだって」
母さんがやたらと僕にご飯を食べさせようとしてくる。話せるようになったのはいいが、若干面倒臭さも感じる。
「母さん、こいつはいいからケイちゃんに何か出してあげて」
「こいつって」
母さんと無駄な攻防を繰り返していると親父が割って入る。相変わらず息子の扱いが雑な父だった。
「じゃあ……、はい。これなら大丈夫でしょう」
骨がないことを確認して魚の切れ端を差し出す。ケイちゃんは母さんの顔を見て一声鳴いてからそれにありつく。いただきます、のつもりだったのだろうか。やはり食べ物をもらうには誰を抑えておくべきか、よく分かっている。僕と親父には見向きもしない。
「あら、お行儀いいわね」
久々の実家でどう過ごしたものかと思っていたが、ケイちゃんのおかげで昔のように過ごすことができた。
特に何事もなく一日を過ごして、翌日。昼に実家のチャイムが鳴って絵美が現れた。
「ああ、絵美ちゃん。いらっしゃい。昨日はゆっくり過ごせた?」
「ご無沙汰してます、お義母さん。ケイちゃんまで預かってもらっちゃってすみません」
「大丈夫よ。うちの旦那と息子よりよっぽどお行儀良かったから。うちの子も育ててもらえばよかったわ」
ひどい会話が聞こえた気がしたが聞こえないふりをする。親父もテレビに集中しているように見えて、少し目を細めて眉間にしわを寄せる。困ったときの顔だ。
自分より強い嫁さんをもらったのは遺伝の力だろうか。以前うちに来た時は泣いてばかりだったが、これが母さんの通常運転だ。
「絵美さん、わざわざ来てもらってありがとう。落ち着かないかもしれないが、ゆっくりしていってください」
「はい、お義父さんもご無沙汰してます。お邪魔させていただきます」
「もう、そんな堅苦しいのはいいから。お父さん、お料理できてるから運ぶの手伝ってくれる?」
義父としてちゃんと挨拶したかったのだろうけど、一瞬で母に崩された。渋々といった感じで父が台所に向かう。
「あ、私が」
「いいの。絵美ちゃんはお客さんなんだから。健斗とケイちゃんを見といてもらえるかしら」
動こうとした絵美を母が抑えて座らせる。ついでに息子は猫と同列になった。
サラダや刺身、豚肉の角煮などが運ばれてくる。ご飯とみそ汁がなければ食事というより飲み会のようなメニューだった。
「絵美ちゃん、お酒好きよね。ちょうどこの前、良い日本酒もらったのよ。一緒に飲みましょう」
「わあ、大好きです! いただきます!」
急激に絵美のテンションが上がった。意外にもこの場で一番酒に強いのは母さんだ。親父も酒は好きでよく飲むが、あまり強くはない。だが飲めるせいでよく母さんに付き合わされては潰れている。
「絵美、あんまり飲みすぎないように……」
「大丈夫。一昨日は運転があったから飲んでないし、うちの実家では飲ませてもらえなかったし。二日分も余裕あるから。今日は朝まででも付き合います、お義母さん」
どういう理屈だ。
「まあ、嬉しいわ。お父さんと飲んでても気づいたら一人になってるからいつも寂しかったのよ」
あんたが潰すからだよ。
まだ昼間なのに、このままでは本当に朝まで飲み続けそうだ。親父もこれはまずい、と感じたようで、そっと自分用のお茶を確保した。盛り上がってる母娘にばれないよう、アイコンタクトで会話する。
(本当に大丈夫なの、この二人)
(大丈夫なわけないだろう。同じペースで飲んだら朝どころか暗くなる前に潰れる)
(先に言っとくけど僕じゃ介抱できないからね)
(おい、飲まないんだからお前が頑張れよ)
責任を押しつけあっていると突然お猪口を渡される。
「いや、だから飲めないって」
「いいから持って。乾杯くらいはしようよ」
親父も母さんから無理やりお猪口を持たされている。右手で渡し、左手でそっと親父のお茶を隠す。あっちはとことん付き合わせるつもりのようだ。
「それでは」
「乾杯!」
こうして始まった宴会は、本当に太陽が沈んでまた昇りだすまで続いたのだった。
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