一年を振り返って
十二月三十一日、大晦日。
二人で炬燵に入ってテレビを見ながらのんびり過ごしている。
「あ、CM」
絵美がチャンネルを変える。さっきまで歌番組が映っていたテレビが今度はお笑い番組になる。CMを挟む度にチャンネルを変え続けていた。
「もうずっとお笑いでよくない?」
「だってまだ松田君出てないもん」
松田君というのは最近人気のアイドルだ。今年初めて年末の歌番組に出演することになり、ファンの人はずっと登場を待っているらしい。
「アイドルとかってそんなに好きだったっけ」
「いや、他のアイドルはあんまり知らないけど。とにかく一回見てみてよ、かっこいいから。ちょっと健斗君に似てるし」
「じゃあかっこよくないでしょ」
少し照れる。今まであんまり見た目のことは言われたことがなかった。絵美とはなんとなく気が合って付き合うようになったし、それ以外には全然モテたこともない。
「あ、またCM」
再び歌番組。ちょうど若い男性アーティストが出てきたところだった。
「あ! この人だよ!」
「松田君?」
画面の中の松田君を見る。年は同じか、少し下くらいか。
「ね、似てるでしょ」
「うーん……」
似てる、かな。系統は同じような気がしないこともないけど、全然違うようにも見える。方向性は同じまま僕を極限までかっこよくすれば近いのかもしれない。
歌番組の方は満足したらしく、それ以降はお笑い番組を見ていた。
「一年早かったなあ」
「だいぶ濃かったけどね」
まさか死ぬとは思わなかったし。サイトの運営やらガーデニングやら、死んでからこんなに新しいことを始めるとは思わなかったし。
「クリスマスはちょっとあっさり済ませすぎたね」
「そうかなあ……」
先週の二十五日に、絵美は二人のクリスマスプレゼントとしてシクラメンを買ってきた。今はベランダで綺麗に咲いている。
さらにチキンとショートケーキを二つずつ用意した。結局全て絵美のお腹に収まったけど、一度仏壇に供えてくれた。
「でも花火見て、海も行って、ハロウィンも」
「家族も増えたしね」
いつも通り絵美の傍で落ち着いているケイちゃんを撫でる。にゃあ、と珍しく答えてくれた。
「それに、健斗君も居てくれる」
「除夜の鐘で消えちゃったりして」
「煩悩だけで残ってるの?」
年末はなんとなくノスタルジーな気分になってしまう。雰囲気を変えようと軽口を言い合って笑った。
ちょうど鐘の音が鳴り始める。二人とも無言のまま、鐘の音とテレビの音を聞く。
百五、百六、百七……。
百八回鐘の音を聞いて、どちらからともなく顔を見合わせる。僕の魂は煩悩だけではなかったらしい。
「絵美」
「うん」
「今年もよろしく」
「こちらこそ、よろしく」
二人でまた笑い合った。
「じゃあ、あとで初日の出見に行こっか!」
絵美が高らかに宣言する。今年もまた騒がしくなりそうだ。
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