冬の日
十一月半ば。
ベランダで育てたローズマリーとチョコレートコスモスは少し前まで綺麗に咲いていたが、徐々に花を落とし始めた。それでも季節外れの花見が出来たので僕も絵美も満足だった。絵美は早くも次に何を育てるか考え始めている。
「寒ーい……。健斗君、暖房つけてー」
「なんか夏もこんな感じだったね」
リモコンを操作して暖房を入れる。絵美とケイちゃんは身を寄せ合って暖を取っていた。
「もう炬燵出してもいいんじゃない?」
「あ、そっか。炬燵あったんだっけ」
「去年買ったばかりでしょうに」
炬燵の存在を忘れていたらしい。結婚したのは今年だが、去年からこの部屋を借りて同棲を始めていたので一応家具などは一年を通してのものが揃っている。
「こたつ布団あった?」
「あったあった。なんであんなに奥にしまっちゃったんだろ」
絵美がこたつ布団を抱えてくる。準備を手伝って、炬燵のスイッチを入れる。
「あー、温かい」
「にゃーん」
絵美とケイちゃんが炬燵に入って幸せそうにしている。
「健斗君もこっちおいでよ」
「僕は別に寒くないけど」
「いいからいいから」
手招きされて炬燵に入る。幽霊になってから温度は感じないので、特に感動はなかった。
「……あれ?」
「どうしたの」
絵美が不思議そうにしている。
「なんか、炬燵広い。二人と一匹入ってるのに去年より広く感じる」
「それは、僕が実体化?してないからでは」
実体化、と言っていいのか分からないけど。僕か相手が触ろうとしたときに、一定時間だけ触れるようになる。今は邪魔かと思って、あえて触れないようにしていた。
「だめだよ! それじゃあ一緒に炬燵入ってるとは言えないでしょう!」
謎の理論を展開されて、突然足を掴まれる。足先だけを入れていたが、ズボッと炬燵の中に引きずり込まれた。
「あー、そうそう。この感じ」
よく分からないが満足そうだ。二人の足が当たって狭さを実感する。その上ケイちゃんがちょうどいいポジションを探しているようで、炬燵の中と外を何度も出入りして足を踏まれる。
「いや、やっぱ狭くない?」
「これでいいの。一緒の炬燵に狭苦しく入るのって、なんか家族って感じするじゃない」
分かるような分からないような。こんなに密集してたら今度は暑くなるんじゃないか。
そう思いつつ、しばらくそのままでいた。
ケイちゃんは結局炬燵には入らず、二人の間で眠っていた。可愛い。
小さく寝息も聞こえてきたがそれはケイちゃんではなかった。
「絵美」
「……」
「風邪ひくよ」
「ん……」
ゴロッと寝返りをうつ。完全に眠ってしまった。
やっぱり炬燵はだめかもしれない。
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