ハロウィン
一ヶ月ほど平和な日々が続き、十月末日。
努力の甲斐あって、ベランダの苗は少しずつ成長している。少し花が咲き始めていた。まだ咲いていないものもあるが、このまま世話を続けていれば大丈夫だろう。
それより、今日は大事な日だ。しっかり準備しなければ。
気合いを入れて午前中に家事を終わらせる。苗の水やりも済ませた。今日はサイトの更新はお休みにした。絵美が帰ってくるのは午後五時。それまでが勝負だ。
「ただい--、ゔわあ!」
「トリックオアトリート」
驚いた絵美が玄関で腰を抜かす。「きゃ!」とかじゃないのが少し残念だった。
「なによ、それ!」
「何って、カボチャ。ハロウィンだし」
絵美が指差す先にはカボチャ。穴を空けて顔に見えるようにしてあり、中に電球を入れて光らせている。ジャック・オー・ランタン、我ながら良い出来だ。
「びっくりした……。こんなのよく作ったね」
「こんなのって言わないでよ。まだあるから」
絵美も何かするつもりだったのか、数日前にたくさんカボチャを買ってきていた。それを拝借してジャック・オー・ランタンを数体作成した。残りはリビングに控えている。
「すごい、ハロウィンっぽい」
並んで光るカボチャ達を見て笑う。ケイちゃんはずっと怖がって近づこうともしなかったが、絵美が帰ってきてやっと安心したようで足下にぴったりくっついている。
「でも、中身はどうしたの。捨てちゃった?」
「よくぞ聞いてくれました」
冷蔵庫を開けてあるものを取り出す。それをテーブルに置いた。
「カボチャのサラダ、作ってみたんだけど」
「え、料理できたの!?」
またもや驚かれた。昔からほとんど料理なんてしてこなかったので当然だが。
「一応ネットで調べてちゃんと作ったつもりだけど、味見ができないからちょっと食べてみてくれる?」
味見用のスプーンを渡す。恐る恐る、という感じで絵美が手を伸ばし、一口食べた。
一瞬の沈黙が訪れて、絵美が口を開く。
「……美味しい」
「え、本当?」
「うん、ちゃんと出来てる。美味しいよ!」
その後、絵美は簡単におかずを作って夕飯を食べる。作りすぎたと思ったけどサラダも完食していた。
「あー、美味しかった」
「お粗末様でした」
「でも、なんで今日はここまで張りきったの?」
光るカボチャをつつきながら絵美が尋ねる。こんなに準備しているとは思っていなかったのだろう。だからこそやった、というのもあるんだけど。
「ハロウィンってさ、今は仮装パーティーみたいな扱いだけど、元々は先祖の霊が帰ってくるとか、悪霊を追い払うとか、そういう行事なんだよ。だから今回は僕の方から仕掛けてみようかと」
せっかく幽霊になったのだからこういう時こそ楽しまなければ、という謎の使命感にかられたのだった。
それに、こういうイベントの日にも絵美は外に遊びに行くより家に居て一緒に過ごしてくれている。その感謝の気持ちも込めたつもりだ。
「ありがとう。それにしてもどんどん出来ることが増えていくなあ」
「あ、でも料理は勘弁して。やっぱり味見できないと、作っててすごい不安だったから」
美味いのかまずいのかも分からず作るのは変な緊張感があった。レシピに書いてある分量を間違えたら取り返しがつかない。出来ればあまりやりたくない。
「じゃあ、一緒に作るならいい?」
「うん、まあそれなら。皮むきとか切るだけとか、手伝いくらいでよければいつでも」
よし、と絵美が嬉しそうに笑った。そうか、そんなことで良かったんだ。喜んでもらおうと思ってサプライズでやったけど、一緒にやれば良かったかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます