普通じゃなくても

 一週間が経ち、デートの日がきた。

 絵美が運転する車で僕らはどこかへ向かっている。行き先は秘密らしい。

「運転、大丈夫なの?」

「大丈夫よ。ゴールド免許舐めないでよね」

「普段乗らないからでしょ」

 だから心配なんだよ。生前はこういう時僕が運転してたけど、今は代わってあげられない。

「♪〜」

 僕の心配をよそに、絵美は車内のBGMに合わせて鼻歌を歌っている。

「なんか新鮮だね、こういうの。車で遠出するのも久しぶりだし、デートで私が運転するのも初めてじゃない?」

「行き先教えてもらえないのも初めてだけど」

「ごめんごめん。言ったら反対すると思って」

 反対されるようなところなの。不安が増したけど結局どこに行くのかは教えてもらえなかった。


 一時間ほど車を走らせるとなんとなく行き先が分かってきた。

「海?」

「そうだよー。この時期ならもう人もいないし、ちょうどいいでしょう」

 海沿いの道を走り、近くに車を止める。

 もう九月も終わり頃で、浜辺には誰もいなかった。海には入れないが、これなら不自然に思われたりもしないで済む。

「海に来たのも久しぶりだな」

「付き合い始めの頃以来だよね」

 話をしながら浜辺を歩く。天気も良くて、水も澄んでいる。とても綺麗な景色で、見ているだけでも十分満足だ。

「今回はなんで海にしたの?」

「え、山がよかった?」

 そういうことじゃないんだけど。

「今の時期が一番人がいないと思って。冬は冬で海見に行く人もいそうだし」

「まあこんな中途半端な時期だとそうだよね」

 しばらく浜辺を歩いているが一人も見かけない。

「お店とか人がいるところに行けなくてごめん」

「それはもう何度も聞きました」

 何度も謝っているが、こういう時には毎回同じことを思って、同じように謝ってしまう。

「もういいの、そういうのは」

「でも、もっと一緒にいろんな所に行ったり、食べたり、遊んだり……」

「ふーん、私そういう風に言ってたのね」

 あ。ばれた。やっぱり酔い潰れたときのことは覚えてなかったんだ。

「私が言いたかったのは、今の私達でできることをしようってことなの。普通じゃないんだから、普通はどうとか考えるのはもうやめたの。誰もいない海に行くのでもいいし、家でゆっくり過ごすのでもいい。いなくなるまで楽しく過ごせればいい、でしょ?」

 両親と話した時に僕が言った言葉。でも僕よりもずっとちゃんと考えてくれていた。

 絵美は僕の顔を見て笑う。

「最近よく泣くね」

「だって……」

 こんなに幸せなんだから。

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