死んでも笑ってくれますか
「お義父さん、お義母さん、お久しぶりです」
「絵美ちゃん、久しぶりね。ありがとうね」
早めに来て墓を掃除していた絵美の前に僕の両親が現れる。母が声をかけ、父も頭を下げた。
「いえ、いいんです。それより、今日はお時間ありますか? あとでうちにも寄っていってもらえると……」
「ええ、大丈夫よ。ねえ、お父さん」
「ああ、お邪魔でなければ」
父は基本無口で、必要がなければ母に促されたときくらいしか喋らない。結婚前に絵美と会ってもらったときもそんな調子で、絵美は嫌われたのかとすごく気にしていた。あの人はそれが普通だから、と言っておいたので今では普通に接することが出来ている。
そっと絵美の袖を引く。
「ちょっとすみません」
と電話に出るふりをして絵美がその場を離れる。
「先に家に戻ってるよ」
「なんでよ。一緒でいいじゃない」
「だって見えてないみたいだし、そうなると話しかけるわけにもいかないだろ。今だって」
わざわざ電話のふりをしないと話もできないのでは、居ても邪魔になるだけだろう。
「じゃあ、先に帰ってケイちゃんの世話してるから」
と言い残して立ち去る。
「ただいまー」
玄関を通るのも面倒なので窓から家に入る。ケージからケイちゃんを出してしばらく戯れた。
やっぱり見えなかったか。少しは期待していたので余計にへこむ。墓前で僕は絵美のすぐ隣に立っていた。墓の前に死んだ本人がいるのだから、見えていれば何か反応があるはずだが、両親は絵美に話しかけるだけだった。
「はあー」
「にゃあー」
ぐでーっと並んで寝転ぶ。幽霊になってから睡眠はいらなくなったけど、気分が楽なので横になる。
そのまま何をするわけでもなく寝転がっていると、
「どうぞー」
「お邪魔しますー」
と声が聞こえてきた。
絵美と両親が帰ってきたらしい。出迎えようかと思ったが、どうせ見えないならいいかと思い直して動かなかった。
「え……。健斗?」
「お前……」
母と父から戸惑った声が聞こえる。
「え?」
まさか、と思って振り返る。
「親父、母さん、見えてるの?」
試しに声をかけてみる。二人とも目を見開く。母は泣きだして、父は固まっている。
どうしよう。見えたら見えたで、どうしていいか分からない。
母が泣き止むのを待って十五分ほど経過した。とりあえず全員でテーブルを囲んで座っていたが、待ちきれなくなった父が口を開く。
「お前は、その、どういう状態なんだ?」
何と聞いていいか分からないようで漠然とした質問をされる。自分でもよく分からないので、なんとなく現状を説明した。
「……それで、とりあえず消えるまでは結婚生活の続きを楽しもう、みたいな」
父も母も微妙な表情を浮かべる。
これけっこう感動的な話じゃない?、と絵美を見ると苦笑していた。
「絵美さんも、こんな奴でいいのか。迷惑なら除霊とか……」
「おい、息子を悪霊扱いするな」
「じょ、除霊って……」
親はお祓いしようとしてくるし、妻は声を殺して笑ってるし。味方はいないのか。
やっと笑いが収まった絵美ははっきりと言い切った。
「私は今の生活が気に入ってます。いつまで続けられるのかは分からないけど、一緒に暮らしてる今が幸せですから」
この言葉に母が再び泣き出した。
結局三時間以上話をして、やっと涙が枯れた母と父が帰っていった。泣いたり呆れたりしていた二人だけど、最後は笑顔だった。
「だから言ったでしょ。会った方がいいって」
いつも通り二人と一匹になった部屋で、絵美が得意げに笑った。
「うるさいやい」
泣いているのは僕だけだった。
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