四十九日に向けて

 八月半ば。世間はお盆休みだ。

 僕は七月に死んで、まだ四十九日経っていないので、初盆を迎えるのは来年になる。

「もうすぐ四十九日だけどさ」

「うん」

 四十九日は、死んだ魂の生まれ変わる先が決まるまでの期間、ということらしい。僕は今生まれ変わるどころか未練たらたらで現世に留まっているけれど。絵美はそのことでまた何か不安になってるのか。

「四十九日って何したらいいの?」

「あれ、そういう話?」

 すごい事務的なことだった。

「だってうち両親もお爺ちゃんお婆ちゃんも生きてるし、そういうのよく分かんないもん」

「うちもです」

 親不孝者でごめんなさい。


 ということで、二人で調べてみることにした。

「お、出た。……とりあえずお坊さん呼ぶみたい」

「呼ぶって、どこに?」

「お寺、自宅、墓前……。どこがいい?」

「デートの行き先決めるみたいに聞かないでよ」

 バシッと肩を叩かれる。痛くはないけど、真面目にやれ、という圧力は存分に伝わった。

「でも親族呼ぶならここじゃない方がいいよね。気つかうでしょ」

「そうだけど、健斗君もご両親に会いたいんじゃないの」

「じゃあ着いていくよ」

「え。外出られるの?」

 スーッと浮遊して窓をすり抜ける。ベランダに出てそのまま建物の外まで出て戻る。

「大丈夫そうだよ」

 外に出たのは久々だったが、そもそも死んだその瞬間からこの状態で病院にも葬式にも行ったのだ。

「なんか思ってたのと違う……」

 もしかして地縛霊かなにかだと思われてたのか。まあ自分でもどういうジャンルの幽霊かよく分からないけども。

「まあいっか。それなら一緒に行けるね。そうだ! それならちょっと散歩行こうよ!」


 ということで、僕と絵美とケイちゃんは仲良く近所を散歩中。

 ケイちゃんは早々に歩き疲れてしまったので、絵美の腕の中で休憩している。

「なんか久々だね。こういうの」

「だって外に出られると思わなかったし」

 なぜか絵美が僕を見えるようになったのは葬式が終わって家に戻ってからだった。

「もう、早く言ってよね」

「ごめんって。どうせ一緒にいても絵美が一人で喋ってるみたいになるから、出かけようって気にならなくて」

 今も出来るだけ人が通らない道を選んで歩いている。

 旦那を亡くして頭おかしくなった、なんてご近所で噂になったら目も当てられない。


 しばらく歩いて、近くの公園に入った。都合よく誰もいなかったのでベンチに座って話をする。

「さっきの話だけどさ」

「四十九日?」

 絵美が頷く。

「やっぱり健斗君の両親には会っておくべきだと思う」

「会うって言っても。行くけど見えるかどうかは分からないよ」

 結局墓前で、という話になっていた。僕が現れたことでお墓に行くことも忘れていたのでちゃんと綺麗にしておきたい、とのことだ。

「だから、お墓参りした後うちに寄ってもらおうと思うの。私はそれで見えるようになったし、もしかしたら見えるようになるかもしれないじゃない」

「うーん……」

 そうなのかな。でも見えなかったら。

「見えなかったら、健斗君の両親への気持ちが足りないからだ、とか考えてるでしょう」

 見抜かれた。そんなに分かりやすい顔をしていたか。

「いいじゃない。見えなかったらそういう存在だから仕方ないってことで。でも見えるかもしれないんだから、出来る限りのことはしてみようよ」

「……分かった。でも見えなかったらすぐ帰ってもらって」

 もう僕に会えないと思っている両親の姿なんて長々と見たくはない。葬式のときだって、両親や絵美や友人の泣いている姿を見て消えてしまいたいと思っていた。

「うん。約束ね。じゃあ帰ろっか」

 絵美が立ち上がって手を出す。

「うん?」

「手、繋ごう」

 ケイちゃんは十分休めたようで、すでに歩き出している。

「繋いでもすぐ離れちゃうよ」

 言いながらも手を取った。

「いいの。そしたらまた繋いであげるから」

「にゃー」

 ケイちゃんに急かされながら、僕らは何度も手を繋ぎ直して帰った。

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