幽霊のお仕事
「これ、どう思う?」
白猫のケイちゃんを飼い始めて数日。夕飯を食べてそのまま晩酌を始めた絵美にPCの画面を見せる。
「何このサイト。初めて見た」
「さっき出来上がったところだからね」
それは僕が作ったウェブサイトだった。まだ何の記事も載っていない、骨組みだけのものだが。
「え、すごい。こんなのも出来たんだ」
絵美は驚いてまじまじと画面を眺める。
「いろいろ考えたんだけど、求人サイトから仕事を探したらどうしたって人との関わりがあるからさ。自分で運営するものの方がいいかと思って」
会社員じゃなくても、どこかに所属して働くなら上司やクライアントが存在する。誰とも関わらずにお金を稼ぐなら、こういうのがいいんじゃないか。
「最近よくPC使ってるからすごい熱心に仕事探してるんだと思ったけど、こういう使い方だったのね。でも、いいと思う。人と関わりがある時は私が代理で出ないといけないかな、とは思ってたから」
良かった。思ったより好感触だった。
「それで、これってどのくらい稼げるの?」
「うーん……」
言葉に詰まる。どう説明したものか。
「え、あんまりお金にならないの?」
「いや、こういうのってピンキリで。簡単に言うと、見てもらえた分だけお金が入るって感じかな」
あまりネットに詳しくない絵美にざっくりと説明する。細かいことまで言っても分かってもらえないだろう。
「十分生活できるくらい稼げる人もいれば、お小遣い程度の人もいるし、全然見てもらえなければ小遣いどころか時間の無駄ってこともあるし」
要は内容次第なのだ。世知辛い。癒しを求めて、PCの横で丸くなってるケイちゃんを撫でる。
「にゃーう」
ケイちゃんはうざったそうにのそのそテーブルの上を歩いて離れていき、反対側の椅子に座っている絵美の膝の上に収まった。命の恩人よりも女の子同士の方がいいらしい。ちょっとどや顔された。
とりあえずウェブサイトの広告収入で稼ぐ、という方針は了承してもらえた。あとは何について書くかだが。
「それって何かに絞らないといけないものなの?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、何でもいいんじゃない。とりあえずいろいろ書いてみて、反応が良かった方向にしていく、みたいな」
ケイちゃんとじゃれ合いながら正論を言われる。絵美が構ってくれる限り、ケイちゃんが僕の元へ戻ってくることはない。
「……」
「……」
なんとなく沈黙が訪れる。たぶん、二人とも同じことを思いついてしまった。言わない方がいいと思いながらも言わずにはいられなかった。
「……ゴーストライターじゃん」
絵美がプッと噴き出す。
「思ったけど言わないようにしたのに!」
二人して、くだらない、と言いながら下を向いてくつくつと笑う。
意味が分からないケイちゃんだけは気味悪そうにして僕らから離れていった。
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