第12話 坂野、冬子の目的を語る
「俺はたしかに藍原くんを山のなかにすてた。写真だってある。なんなら、責任を感じて夜明けまで彼を見ていたんだ。すると、これだよ」
スマホのムービーは、藪のなかに横たわった藍原を遠くから撮影していた。再生すると、彼は微弱な電流をあびているように蠢いていた。
そして、徐々に立ち上がり、藍原は下山した。
「間違いなく、俺と一緒だと思ったね。あのカラスに俺も襲われたんだ」
「そう、ですか」
「俺の場合は眼球だったね」
彼は自分の右目を触った。
「俺の予測、あいつに襲われても命の別状はない。なんなら、なんというか、肩の荷がおりたかのようにスッキリするんだ」
「藍原くんもそうだと。私たちって、そういうのゾンビって呼ぶんじゃないですか」
「ゾンビに見えるなら、そうだろうな。俺もそう思ったけど、人は食わないし、誰かを噛んでもその人に変化なしだった」
「誰を噛んだんですか」
「お金を払ってMプレイをしてくれる職業婦人の耳を少しだけ」
「最低ですね」
「そのカラスの赤ちゃんの教育に悪いですもんね。まぁいいよ、ところで、冬子が何をしたいかについては知りたいか?」
「もちろんです」
「親の人面カラスを捕まえて、そして」
「そして?」
「食べる」
「なんですか、それ」
子のカラスは、祥子の声に驚いて羽ばたこうとしたのを、彼女はあやして落ち着かせた。
「食べると、その権威や力を自分の身に宿すことができるっていうのは知ってるかな。昔は、それで人も食べることもあったとか」
「冬子さんは、人面カラスの力を求めていると」
「人面カラスが何をしているのか知らないけれど、冬子はそうしたいそうだね」
坂野が水を飲んだ。
「人面カラスは、俺や藍原くんを半殺しにしたのに復活させる力があるみたいだしね。その子はどうなんだろ、気になるね」
「どうして私にそんなことを言うんですか? あなたにメリットがないでしょ」
「そうだね、強いて言えば」
彼は咳払いをした。すると、隣の客が立ち上がり、祥子を押さえつけて腕の中の人面カラスを取り上げた。
「あなたに何が起こるのかを円滑に説明するため、かな」
彼は親指で出口を指した。
祥子の両サイドにリクルートスーツの男女がいて、彼らは祥子の腕を掴んで離さない。後ろに坂野がいた。
店から出ると、以前、坂野が運転していたミニバンがあった。祥子は三列目のシート中央に押し込まれ、両サイドには当然のように男女が座った。
「二人組だと思ってたようだけれども、大学のサークルやゼミはそんなぽっちで活動することの方が稀だよ。進学したときのために覚えておいてくださいね」
彼は丁寧な運転で祥子の家に向かった。両サイドの男女はクスクスと笑っていた。
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