第5話 人面カラスを狙う女たち
「やっぱり、やっと見つけた」
蕗家の前でにんまりとする女がいた。噂になりつつあった人面カラスに、少女がクッキーを餌付けしていたところを、何枚か写真におさめることができた。
「生でみると気持ちが悪いなぁ」撮った写真を確認して、手ぶれのひどいものは削除した。
「いやいや、なかなか可愛らしい顔だと思いますけど」
「坂野は変な趣味があるからでしょ」
「ケモナーじゃないっすから。それに冬子さんほどじゃないですし」
拡大して、人面カラスの顔を眺めた。坂野は眼鏡を服で脱ぐって、クリアになった視界で確認した。
「しっかし、胸糞悪いほど美人やなぁ。なんというか昼ドラで平手打ちかましてそうな感じの顔」
「あまり人の家の前にいると怪しまれますよ。さっきの男が戻ってくるかもしれませんし」
「あの子の彼氏かな。戻ってはこないでしょ」
二人は、また、人面カラスを見つめた。
「あの子、気味悪くないんですかね」
「さぁね」冬子はかがんだ。「走る準備しといてな」
冬子は足元の小石を拾い上げて、カラスに向かって投げた。そして小石は人面カラスの頬に当たり、食べかけのクッキーのカスがちらばった。
二階の少女が、悲鳴をあげた。
「何やってるんですか」
下り坂なので足がもつれる。冬子を睨み付けるが、彼女は素知らぬふうで、背後を確認しながらの余裕がある。
「来たっ! シャッターチャンス」
冬子は喜びの声をあげた。夕明かりが急に翳ったため、坂野はふりむいた。そこには翼を広げた人面カラスがいた。
坂野は、冬子の背後に逃げて、彼女の腰を掴んで、彼女の脇の下からカラスを見つめた。
「なに、やってんのよ。離して」
「いやです、食べられたくない」
「カラスが人を食うわけないでしょ」
「執念で人を襲い続けるんですよ」
坂野は彼女の腹に腕を巻き、さらに強くしめた。
「やめ、吐くから。さっきの午後ティーが出ちゃうから」
カラスが吼えた。
周囲の家々の窓ガラスが揺れた。坂野の眼鏡は割れた。
冬子はとっさに耳をふさいだ。
「冬子さん、あれやばいです。眼鏡が」
「坂野くん、そんなにしてまで私を守ってくれるのね」
それっ、と坂野を掴み上げて人面カラスに向かって投げた。カラスは上昇してよけた。
「そいじゃっ、またねカラスさんと坂野くん」
冬子はなりふり構わず走ってにげた。
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