第23話 クリスマスの招待状
何かよくわからないが、熱心に梓にエールをもらった帰り、功太の家に車を返しに行くと、功太が車庫で車の洗車をしていた。
「おう、今日は車ありがとな」
「いや、いいさ。どうせ使わない車だから、好きに使えばいいさ」
窓を開けて功太に声をかけると、愛想よく笑いながら功太が近寄ってきた。
「……! おまえ、女乗せただろ?! 」
「へっ? 」
女って、そりゃ梓は立派に女子だが、前に借りた時だって未来を乗せているのだから、今さら女を乗せた! と目くじらをたてられても……。っていうか、この車は女子禁制だったのか?
「悪い、女子を乗せたらまずかったのか? 前に未来乗せたから、そういうこだわりはないものだと」
車好きには、車好きのこだわりがあるのかもしれないと、素直に謝った。
「乗せたんだな! 」
「ああ、うん」
「どんな女だ! 」
「同僚だよ。普通の子だけど」
「子……ってことは年下か! 」
「だいぶ下だな。たぶん10くらい下なんじゃないか? 」
「可愛いのか! 」
「可愛い……、まあ普通に可愛いんじゃないか? 派手な感じじゃないけど、素朴な感じのいい子だよ」
「付き合ってるのか! 」
「はあ? 」
そこで、どうやら車に女を乗せたからという訳でなく、オレが女連れだったということに対する質問責めだったということに気づく。
「違うって! 未来にクリスマスツリーをくれるって言うから、貰いに行っただけ。デカイツリーだったから縦にしか入らなくて、押さえるのに同乗してくれて、ついでに組み立てるの手伝ってくれたんだ。だから、純粋に送迎しただけで、デートとかそういうをじゃないし、付き合ってるなんて、相手に悪すぎるだろ」
「……なんだ。おまえにもとうとう春がきたのかって、喜んだのに」
喜んだ?
あれは怒っているようにしか見えなかったが?
「極寒の真冬だよ」
「そうか……。ならいいんだ。同士よ」
ああ、なるほど。
独り者同盟なんて組んだつもりはないが、同級生で独り者はオレと功太だけだし、抜け駆けはなし! ……ということなんだろう。
「そういや、おまえ来週暇か?」
「来週暇に見えるか?!」
功太はムッとしたように言う。
「おまえ、ナイーブになってない? 」
「そんな時期なんだよ」
まあ、クリスマスといえばカップルの一大イベントだし、独り身には辛い季節だ。だが、それは去年までのこと! 恋人や家族がいる友人達がクリスマスに浮かれている時、まるで何事もない平日のように過ごしていた過去とはさよならだ。
オレは、余裕のある笑みを浮かべ、車から下りた。
「悟りが足りないな。今さらクリスマスごときで。いいか、クリスマスは本来家族のイベントだ。子供にサンタさんがプレゼントを持ってくる日なんだよ! 」
「アホ、クリスマスはキリストさんの誕生日だろ」
「まあ……そうでもあるが、カトリック教徒じゃないオレらにとってのクリスマスは、パーティーをして子供がプレゼントをもらう日だ。そして、うちには正真正銘のお子様がいる! 」
「まあ、お子様……って年でもないだろうがな。今時の中学生なら、親とパーティーよりは恋人と過ごすんじゃないの? 」
グサッと刺さるから、それは言わないで欲しい。
オレはめげそうになりながらも、持論を展開していく。
「お子様のいる家庭は、クリスマスパーティーをすることができる! 恋人なんかいなくてもだ」
「まあ、恋人がいなくても、友人とパーティーくらいはできるだろうがな」
「独り身が大勢いればな……」
去年までは少なくとも、飲みに行くような友人でお一人様は、オレと功太のみ……。男二人でクリスマスパーティーなんぞできるか!
「ウウンッ! 今年はお子様のいる家庭であるうちは、クリスマスパーティーを開くことになった。で、おまえを招待したらどうかって、うちのお子様が言うわけだ」
「遠慮するよ。いくら女が集まるって言っても、中坊が束になっても妙齢の女性にはならんからな」
功太はくだらないと、洗車を開始する。
「さっきこの車に乗った女の子もくるぞ。あとまだわからんが、その子の友達もくるかもな。彼女はうちの課で一番美人だ」
「行く! 是非、招待されよう!」
功太がホースを持ったままこっちを振り向き、寸でで水浸しになるところだった。
「おまえ、真冬に水浸しはヤバいだろ! じゃ、そのうちうちの未来が招待状持ってくるだろうから、丁重に受けとれよ」
「了解! 」
張りきって招待状を作っていた未来を思うと、何がなんでも受け取ってもらわないとだ。
行かないなんて言われて、未来が気落ちする姿は絶対に見たくなかったから。
梓と菜月をダシに使ったのは、多少気が引けたが、未来のためだ、しょうがない。
車を裏に返し、功太に「またな」と挨拶をすると、徒歩で家に帰る。
途中、武田花店の前を通り、赤と緑のクリスマスカラーで彩られた店内が目に入る。
ポインセチアが店先に並び、ミニブーケのようなカラフルな花束が置いてあった。
「半田さん! 」
店番をしていたのか、武田が単語帳を持った右手を上げた。
「よう! 今日は未来に付き合ってくれてサンキューな」
「いつでもOKっす! 半田さん、ブーケいかがっすか? 半額にしますよ」
「おい、勝手に値下げしていいのかよ。」
「まあ、問題ないっしょ」
こいつが跡継いだら、確実に潰れそうだな。
「そうだな……未来っぽいやつ選んでよ」
ブーケを一つづつ手に取りながら、これじゃない、あれじゃないと、真剣に選び出した。
「おまえんち、クリスマスとかどうするわけ? 」
「うちっすか? 今年も営業時間延長でしょうね」
「そうなの? 」
「売り時っすからね……って、やっぱりこれだな! 」
武田が選んだのは、女性らしいピンクとか赤とかの可愛らしいものではなく、青の薔薇の中に、蕾の白い薔薇が点在し、周りを白い小さな花で囲まれたクールな感じの花束だった。
「これ? じゃあそれにしよ」
武田がブーケを小さな紙袋に入れてくれてる間、武田の手元をじっと見ていた。
顔つきには子供っぽさが残る武田だが、身長同様手も大きかった。
男っぽい節くれだった指、いづれこの手が未来の手を包むことがあるんだろうか?
肩を抱き寄せることがあるのだろうか?
まだまだ子供……とは言い切れない、成長過程にある男が目の前にいた。
「なあ、なんで女の子にそのブーケ選んだんだ?」
「ダメっすか? 」
「いや……ピンクとか可愛らしい感じじゃないんだなって」
「青い薔薇って珍しいから。それに、花言葉で夢がかなうとか奇跡みたいな意味があるから」
「花言葉かよ」
「花屋っすから。受験勉強してるオレらにはちょうどいいかなって」
どうせなら、告白っぽい花言葉選べよって……買うのはオレか。
「おまえ、クリスマス暇ならうちくれば? 妹つきでもいいぞ」
「えっ? 」
「たぶん、未来が招待状配るはずだから、暇ならこいよ。じゃあな」
代金を支払ってブーケを受け取り、ヒラヒラと手を振った。
「行く! 絶対に行く!! 」
「おう」
未来の恋人にはまだまだ早いし、多分猛烈に反対するだろうけど、他の誰か……って考えたらまだマシなんだよな。
悪い奴じゃないし……。
いつかは慣れないといけないことだ。
未来は恋愛しないって言ってるけど、0と1ならやっぱり1回は経験しとくべきだ。オレは1回でこりたけどな。でも、楽しかったことも、幸せだったこともあった。
それに、万が一あいつが相手なら……幸せな恋愛になるかもしれないからな。
でもなあ……、実際に目の前にして……オレ……耐えられっかな?
オレは未来に、未来はオレに、共依存してるという自覚はあった。
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