第17話 スパで爆乳にやられました
日曜日、梓とは現地集合で、オレ達と武田は駅で待ち合わせをしていた。
「おはようございます」
「おう」
朝っぱらから爽やかな笑顔に、サングラスをかけたくなりながらも、片手を上げて挨拶する。
「私服の東宮、久しぶりかも」
「そう? 」
「うん、なんか雰囲気が違うな。可愛いよ」
本当に眩しいなこいつ。
サラリと女子に可愛いって言えたり、中学時代のオレにこんなスペックは存在してなかったぞ。
しかも、爽やかスポーツマンみたいな見た目で、イヤらしい感じが一切しない。
中学生に嫉妬してもしょうがないが、恋愛に対して勝ち組(武田)と負け組(オレ……ちくしょう! )が存在することを痛感する。
未来を真ん中に挟んで歩き出し、ちょうどきた電車に乗った。
日曜日ということもあり、電車はすいていて並んで座ることができた。
「未来の私服久しぶりって、いつぶりなん? 」
「小学校ですよ。ほら、小学校の時は私服だったから」
「ああ、そうだよね。ってか、そうか小学校から一緒なんだよね」
「小学校の時は、2クラスあったから、同じクラスになったのは2回? かな」
「3回だよ」
「そうだっけ? 」
二人が2回だ3回だとやっている時、オレは内心ガッツポーズをとっていた。
未来の言うことを信用していなかったわけじゃないが、私服を見てないってことは、休日デートなどはしていないということで、つまりは本当に二人は関係ないってことだ。
そんなことを再確認して、一人ウンウンとうなずいていると、武田が爆弾発言をぶっこんできた。
「東宮とWデートできるなんて、本当ラッキーだよな」
Wデート?!
それは、未来と武田君、オレと山本さんってことか?
どちらもあり得ないだろ?!
「デートじゃないし! 」
未来がムッとしたように反論する。
そうだ!言ってやれ!
自分はおまえには興味なんかないって、ズバッと!!
「弦さんと梓さんはただの会社の同僚だし! 梓さんに聞いたけど、弦さんのことなんか、これっぽっちも好きじゃないって言ってたもん! 」
そっち???
オレは内心ガクッと膝をつく思いで、電車の広告に目を向け平常を装った。
というか、何だ?
告白をした訳でもないのに、振られた感が満載なんだが……。
別に、山本さんのこと好きだった訳ではないし、女子と付き合うなんて考えてはいないが、それなりにいい子だなと思っていた相手に、「これっぽっちも好きじゃない」って思われていたとは、気持ち的にドーンと凹むよな。
そりゃね、あんなに若くていい子なんだから、オジサンなんかに興味なくて当然なんだけどね、これっぽっちもって、もう少しこう言い方がさ……。
未来と武田の会話も耳を滑り抜け、放心状態になったオレは、それでも乗り継ぎで間違えることも、乗り過ごすこともなく、目的地に到着してした。
「梓さーん! 」
今回もオレ達より早く来ていた梓は、控え目に手を振って微笑んだ。
このおとなしそうな顔で、「これっぽっちも! これっぽっちも!これっぽっちも……」って……。頭の中でリフレインして響く。
ウーッ!
オジサンを痛めつけないでくれ~ッ!!
「半田さん? どうかしました?」
「いや、行こうか」
スパの中に入り、入り口で作務衣みたいな衣服とタオルを渡され、男女別の入り口に入った。
ロッカーは、百円入れたら帰る時に戻ってくるやつで、武田とオレは並びのロッカーを使った。
武田がシャツを脱ぐと、思わず男のオレでも見惚れてしまうほど引き締まっていた。
まだ中学生だから、これからの延びしろを考えると恐ろしい。きっと高校生になれば、もっと骨太ながっしりと逞しい体型になるだろう。
「引き締まってるね」
「そうっすか? 夏までバスケしてたから」
「部活か」
この高い身長も納得だ。
「はい。オレ、中1のときは凄く小さくて、背を伸ばしたくて。したら、一年で15から20センチづつくらい伸びちゃって」
「なんか、ミシミシいいそうだな」
「成長痛半端なかったっす」
「だろうな」
中年に足を突っ込んだ身体で横に並ぶのは気が引けるが、今さら身体を鍛えられる訳でもないし、諦める以外ない。
ため息を飲み込んで、タオルを持ってプールエリアメールへむかう。まだ未来達はきていなかったから、適当に場所とりをしておく。テーブルと椅子をキープすると、オレ達はそこに座って待った。
「弦さん! 」
後ろから肩に手を置かれ、びっくりして振り返る。
「遅かっ……たな」
そこには、髪の毛を可愛くアップにした未来が、白地にピンクの花柄の水着を着て立っていた。
ビキニ……ではないようだが、臍が見えている。フワフワっと胸周りにフリルがついていて、ミニスカートのような方にも似たようなフリルがついている。
もう………………天使か?!
天使以外の何者でもないな!
「東宮、可愛いな! 凄い、その水着似合ってる。梓さんも素敵です」
未来の後ろに、恥ずかしそうに立っている梓がいた。
キャミソールに短パン?
水着なのだろうか?
まあ、いつもの梓にしたら、激しく露出は多いのだろうが、水着じゃないと言われてもうなずけた。
「プール行こう! 」
「オジサンは泳ぐより風呂やジャグジーがいい。みんなで行ってこい」
「あたしもジャグジーの方が。泳げないので」
未来と武田がプールへ向かい、梓と二人でジャグジーに行く。
「泳げないんだ」
「はい。うちの小学校、プールがなかったので」
「今時あるの? そんな小学校」
「落ちたら危ないって理由みたいですけど」
「落ちたら危ないって……」
「まあ、プールを作る場所がなかったんでしょうね。狭い学校でしたから」
「もしかして……私立? 」
「はい。女子校でした」
なるほど、このおっとりとした感じは純粋培養の結果か。
「もしかして、相沢さんも? 」
「はい」
ジャグジーにつかると、全身を泡で包まれ、思わず「うぁ~ッ!」と声が出そうになる。
「いいお湯ですね」
「ですね」
ぬるいお湯は、肌がふやけない限り、いくらでもつかっていられそうだったし、プールも見渡せた。
あくまでも保護者として、未来と武田の様子を観察する。
「あの二人……」
「はい? 」
お似合いですね……とか言われたらどうしよう? 顔がひきつってしまうかもしれない。
「競泳選手じゃないですよね? 」
「……武田君はバスケ部だったって聞いたけど」
周りがひくくらい、二人は真剣に泳いでいた。しかも、かなり綺麗なフォームで、タイムもいいのではないだろうか?
1レーン丸々二人で使ってしまっている。
あれなら、スクール水着でも良かったかもしれない。というか、あの水着であんなに泳いで大丈夫なんだろうか?
「凄いですね。区立に通っていた子は、みんなあんなに泳げるんですか? 」
「いや、そんなことないと……。少なくともオレは軽くクロールが泳げるくらいだし、あんなスピードはとても……」
しばらく見ていたが、二人はいったい何往復したかわからないくらい往復し、未来が最初にリタイアした。
「あー、もう! 追い付けなかった」
「そりゃ、運動部の体力なめたらダメでしょ」
どうやら二人は、真剣に競泳鬼ごっこをやっていたらしい。
「おまえら、あんな速度で泳いだら、周りに迷惑だろ」
「でも、あそこ泳ぐレーンだよ」
「そうだけど、あれじゃ誰も入っていけないよ」
「わかった。次はもうちょいお気楽に泳ぐ」
「未来ちゃん達、泳ぎ凄いのね。習ってたりしたの? 」
「あたしは……、ほら、じいちゃんと二人だから遊び行くとかなかったじゃん。お金もないし。夏休みとか暇だったし、毎日小学校のプール解放に一日中いただけ。あそこはただで一日遊べるから」
「オレも、両親仕事だったし、ほぼ毎日プール開放で遊んでたかな」
「なんとなく、周りの泳げる子から習ったりしてたら、泳げるようになって、あとは適当に泳いだり、今みたいに競争してたら速くなった」
「オレも」
「そうなんだ……」
内容が、貧乏だからというのと、両親が忙し過ぎて……というのでは、何と返して良いか分からず、梓は曖昧に微笑んだ。
「おまえら身体冷えただろ? ジャグジーより手っ取り早く、サウナでも行ったら」
「弦さんも行こうよ! 」
「ああ、はいはい」
どうにも、30を過ぎると腰が重くなる。
ジャグジーから出ると、身体が重く感じた。
未来に引っ張られ、4人でサウナに入った。
「よし、どっちが長くいられるか勝負ね」
「いいよ」
未来は競泳鬼ごっこに負けたのが悔しかったのか、くだらない勝負を武田に挑む。
「止めなさい。身体に悪いから」
オレが止めると、「はーい」と二人揃って返事をする。
「それにしても、暑いですね」
「サウナだもん。梓さん、上のキャミ脱いだら? 汗が気持ち悪いでしょ」
「……そうね。じゃあ……ちょっと」
梓がキャミソールに手をかけ、「よいしょ」とキャミソールを脱いだ瞬間、オレと武田の視線が梓の一部分に集中する。
梓は、タオルで身体の汗を拭いながら、胸を軽く持ち上げるようにしてアンダーバスト辺りを拭く。
そう、持ち上げねばならないくらい、梓のバストは豊満だったのだ。が! 決して垂れているわけではなく、若さゆえの張りがある。
少しポッチャリなのかと思っていたが、ポッチャリなのは胸だけで、身体全体は細く引き締まっていた。
洋服を着ると着膨れしたように見えてしまうのは、胸が大きいのを隠すために、ウエストを締めないストンとしたラインの服が多いせいだろう。
眼鏡・地味っ子の見た目で、このメリハリボディー……。犯罪だな。
あの胸、どんな触り心地なん……。
「弦さん、触ったらダメだからね」
「はい? 」
思わず声が裏返る。
どんな触り心地なんだろう? と思うか思わないかのその瞬間、見透かしたような未来の声に、サウナ効果ではない汗がダラダラ出てくる。
「ほら、そこ! 鉄のとこ熱そうじゃん」
「鉄……、ああ、うん。触らない。ってか、暑すぎてギブ! 」
オレはタオルで軽く前を隠してサウナを出て水風呂に勢いよくつかる。
いや、ヤバかった。
うん、まだオレの男は枯れてないようだ。
すると、そんなに時間差なく武田もオレの横にジャボンッと浸かった。同じようにタオルで前を隠して。
「サウナ、苦手で……」
いや、少年!
君の反応は正常だよ。
オレ達は、お互いに理解している笑いを浮かべ、身体の芯まで冷えるまで水風呂に浸かった。
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