第11話 未来の誕生日
梓と菜月のおかげで、毎日楽しげにファッションショーばりに洋服を着替える未来を見て、今までの格好が未来の本意でなかったことがわかる。
女子の洋服はまったくもってわからないが、甘辛ミックスというのか? 梓の女の子らしい洋服と、菜月のクール調の洋服をうまく組み合わせて着ているスタイルが、未来にはとても似合っていた。
元の素材がいいのもあるのかもしれないが、最近グンッと女っぷりが上がった気がする。
そんな未来の誕生日パーティーを企画した。
同級生を呼ぶか聞いたら、今時友達呼んで誕生日パーティーはしないと言われ、それならと洋服をくれた二人を呼ぶことにした。
大々的なパーティーにすれば、誕生日プレゼントをあげやすいなんて、実は姑息なことを考えていたりする。
パーティーの料理はケータリングも考えたが、ここは頑張って手作りした。
未来の好きなハンバーグのミニバージョンを沢山作って盛り上げ、ソースはさっぱり大根おろしの和風ソースと定番のケチャップとソースを混ぜた物の二種類作った。
野菜や魚介類、ソーセージやパンなどを小さく一口大に切って、チーズフォンデュに、フルーツポンチは市販のフルーツ缶を開けただけだが、ワイングラスに入れたら、なかなか洒落た感じになった。
ケーキは二駅向こうの有名なケーキ屋に予約をしたので、未来にとって来てもらうように頼み、お客さん二人をついでに駅に迎えにいってもらうことで、料理作りから遠ざけることに成功した。
やはり、出来上がった所をバーン! と見せて、驚いたり喜んだりする姿を見たいじゃないか。手伝われたら、そんな驚きは半減してしまうし、未来が家にいたら、絶対に手伝うときかないからだ。
「おっ邪魔しまーす」
「こんにちはー」
「ただいま」
どうやら無事に合流できたらしい。
「いらっしゃい。休みの日にわざわざありがとな」
「いえ、いえ。半田さんの手料理が食べられるんですから」
「あの、これあたし達から。甘さ控え目のクッキーです」
「悪いね……気を使わせちゃったみたいで」
前に甘いのが苦手と言ったのを覚えていてくれたんだろう。梓から紙袋を受けとると、スリッパを出して家の中に案内した。
「じいさんの持ち家だったから、かなり古いだろう」
「なんか、田舎のおばあちゃんちみたいで懐かしいです」
「半田さんって、もとはマンション住まいでしたよね? 」
「ああ。こっちを貸すのとマンション貸すのとだと、あっちの方が割りが良かったのと、未来の学校のこと考えたら、こっちにいた方がいいからさ」
「マンション分譲だったんですか? 」
「ああ、うん」
「独りなのに? 」
「なっちゃん、ツッコミ過ぎ」
梓が菜月をたしなめるように袖を引いた。
「いや、まあ、賃貸払うのと買うのとそんなにかわらないからさ。それに、あまり値下がりしないだろう場所選んだから、投資も兼ねてね。実際、賃料でローンと未来の生活費くらい出るし」
「通勤長くなったんじゃ? 」
「まあね。でも、君達のおかげで仕事はかどってるし、帰る時間も早くなったから助かってるよ」
「そんなこと言われたら、半田さんからの仕事、ちょっぱやで片付けないとじゃないですか」
「まあ、ミスないように頼むよ」
未来が真っ先に居間の襖を開けると、立ち止まってしまった。
「未来? 」
「……」
未来は黙って座卓を見つめていた。
「うわっ! 凄い! これ全部手作りですか? 」
後ろからヒョッコリ覗いた菜月が歓声をあげる。
「うん、そう。未来、ケーキ冷蔵庫入れてくるから貸して。未来はここね、主役だから座ってろよ。二人はこっちに座って。飲み物はビールでいいかな? シャンパンとワインもあるけど」
「最初はビールで」
「あたし、手伝います」
梓が台所までついてきた。
ケーキを冷蔵庫にしまうと、ビールグラスとビールを2本、未来のマグカップとオレンジジュースを1本用意する。お盆2つにのせ、二人で居間に戻った。
未来と菜月は楽しそうに話しており、オレらが入ると、ピタリと話しを止めてしまう。
なんか、未来が目を合わせてくれない気がするのは気のせいだろうか?
オレは飲み物を配りながら、未来の様子を伺う。
何か嫌いな食べ物でもあったんだろうか? もしや、チーズが嫌いとか? 野菜で苦手なのがあったか?
そんなオレの様子に気がついたのか、菜月がニマニマ笑った。
「未来ちゃん、感動しちゃったんですって」
「菜月さん! 」
「だって、半田さん、未来ちゃんの様子が変だからオロオロしてんだもん。見てて面白いけど、せっかくの誕生日パーティーだからね」
「そうなの? 」
オレが若干ホッとしながら聞くと、未来はこっくりとうなずいた。
「あんまりに嬉しすぎて、泣いちゃいそうだったんだもん。こんなに立派なパーティーなんて思ってなかったから」
「可愛くない? 可愛いよね? 半田さんの頑張りにも感激だけど、未来ちゃんがあまりに可愛すぎて、思わず抱きしめちゃったよ。誤解も解けたところで、乾杯といきますか! 」
「もう、なっちゃんが仕切らないの! 」
「アハハ、乾杯しようか」
オレも未来の隣りの席に座り、ビールを向かいの席の梓がついでくれた。
「では、未来の誕生日を祝しまして、乾杯!! 」
それから、大人はビールにシャンパン、ワインも開けて盛り上がり、未来もオレンジジュースで大人達のハイテンションについていった。食べ物もほぼ食べ終わって、とりあえず一度片付けをしてからケーキを食べようということになり、女子3人で後片付けをしてくれることになった。
年齢は違うが話しが合うのか、3人はキャーキャー騒ぎながら片付けをし、ラインの交換までしている。
オレはその間にこっそりと納屋に行き、未来へのプレゼントを居間に移動した。
「ケーキ持ってきましたよー」
ケーキには、大きなローソクが1本真ん中にたてられ、小さなローソクが6本回りに綺麗に輪になってたっていた。
座卓の真ん中に置き、オレがローソクに火をつけ、梓が電気を消してくれた。
「では、ハッピバースディトゥユー、ハッピバースディトゥユー、ハッピバースディディア未来ちゃん、ハッピバースディトゥユー、おめでとう未来ちゃん! 」
菜月の合図で歌いだし、未来がローソクの火を消した。
オレはスマホのビデオを回し、その様子をビデオに撮る。
うーん、今まではちゃんとしたビデオとかカメラとか興味なかったし、必要とも思わなかったけど、せっかくならきちんとしたの欲しいよな。
卒業式とか入学式とか……運動会って行事もあるか。いや、あれは保護者が見るのって、中学までか? って、最後じゃないか?!
「未来、運動会って? 」
「運動会? 」
いきなり運動会ネタを振られ、意味がわからないといった表情になる。
「うちの中学の運動会は来週だけど? 」
「来週?! エ~ッ、うちらも見に行ける? 」
「来てくれるの? 」
「土曜日? 日曜日? 」
「雨が降らなければ土曜日」
「なら行く~。梓も大丈夫でしょ? 」
「あ、うん。ご迷惑じゃなければ」
「嬉しい! いつもじいちゃん一人だったから。いや、毎年来てくれたから嬉しかったけどね」
不満ではないんだとアピールする辺り、本当にいい子だ。
同級生は若い両親や兄弟など、沢山の応援があった中、じいさんの応援でも頑張れたんだろうが、やはり比べてしまうと……ってやつか。しかも、その中には自分の応援をしてくれない自分の産みの親がいたりする訳で……。
「よし! オレ、頑張って弁当作る!! 」
「半田さん、次はあたしに作らせてもらえませんか? 」
「山本さんが? 」
「梓、料理上手ですよ。ほら、あたしと違って、梓のお弁当は自作だから」
逆に、その年齢で自作じゃない方が驚きなのだが、菜月の弁当は母親が?
「うちは弟があたしの弁当作ってるから、その日はあたしも弟に作らせようかな。梓と相談して、二人で用意しようか」
二人って、作るのは弟なんだよな? 弟を巻き込んでいいのだろうか?
「半田さん、またその相談は後日ってことで、そろそろほら! 」
菜月が、チラチラと置かれたプレゼントの山に目を向ける。
「ああ、そうだよな」
「じゃあ、半田さんはトリってことで、まずはあたしから」
菜月が鞄の中から可愛らしい包みを取り出した。
「未来ちゃん、誕生日おめでとう! ってことで、はい、プレゼント」
「あたしに? いいんですか? 」
「たいしたもんじゃないから」
未来は包みを受けとると、丁寧に包装紙を開けた。中にはチークとチークブラシが入っていた。入れ物も凄く可愛く、ジルスチュアートとかいうブランドのものらしかった。
「可愛い! 」
「あたしからはこれ。なっちゃんと合わせてみました」
梓が差し出した包みも同じブランドのものらしく、中にはアイシャドウが入っていた。入れ物がチークとお揃いでなんとも可愛らしい。
「弦さんには誕生日プレゼントに口紅になるグロスもらったんです」
「うん、あたし達が選んだから知ってる。未来ちゃんは肌がすっごい綺麗だから、ファンデはあんまいらないよね。下地とかBBでも十分だよね。眉毛もしっかりしてるから、整えれば書く必要もなさそう。後でやらせて」
「はい、お願いします」
梓と菜月の視線がオレに集まり、オレは咳払いと共に紙袋の山を未来の方へ押しやった。
「オレからはこれ」
「だって、弦さんからはもう貰ってるけど」
「あれはあれ。こっちが本番」
未来は驚いたように紙袋を見つめ、またもや黙ってしまう。
「ほら、開けてみなよ」
「でも……」
「いまさら拒否られても、半田さんが困るだけだから」
未来はやはり丁寧に紙袋を開け、洋服を全て並べた。
「一応、彼女らに選んでもらったんだ」
「そうよー。半田さんってば、選んだの全部買っちゃうんだもん。大人買いってやつ? 」
「なっちゃん、半田さんはそれだけ未来ちゃんに喜んで欲しかったんだよ」
「でも、さすがにこの量はないわー。引くでしょ? 」
「マジで? なら買う前に言ってくれよ」
「だって、言う前に全部抱えて会計しちゃうんですもん」
未来の目から、ボロボロッと涙が流れる。梓が未来の横に行き、その肩を抱いた。
「泣くほど気に入らない?! 」
いきなりの未来の涙に、オレはパニックになってしまう。だって、じいさんの葬式の時でさえ、未来の涙を見ていなかったから。
「ち……違うから。あたし、こんなによくして貰って、迷惑ばっかかけてるのに……」
「迷惑なんて! オレは未来と生活するようになって、まだほんの1ヶ月くらいだけど、何て言うか……凄く充実してるんだ」
「そうそう。半田さん、仕事中だってウキウキしてるもんね」
「ウキウキって……」
そんなに分かりやすい感じだっただろうか?
「佐藤さんに色々聞いたりして、うちら事務職の言うことをメモるのは半田さんくらいだし。全部未来ちゃんのことだけどね」
「止めて……なんか恥ずかしいから」
未来と暮らし始めた時、あまりにも未知のことばかりで、同じ中学生の子供がいる佐藤を支持しまくっていた。
「多分だけど、素直に喜べばいいんじゃないかな。半田さんは素直に喜ぶ未来ちゃんが見たいだけだろうし。泣かれたら困っちゃう」
「そうそう。第一、オジサンは若い子の涙に弱いんだから」
「半田さんはオジサンじゃないから! 」
「弦さんはオジサンじゃないし!」
未来と梓の声がハモり、梓は真っ赤になってうつむいてしまう。
未来は梓の手をしっかり握り、ウンウンとうなずく。
「梓さん! その通りです! 弦さんはオジサンなんかじゃ、全然ないから! お腹もでてないし、禿げてないし、加齢臭もしないもん」
「……ありがとう……でいいのかな? あまり力説されても、逆に恥ずかしいというか……。」
そりゃお腹は頑張ってでないようにしてるし、親に感謝だが幸運にも禿げてはいない。加齢臭は……なんとも言えない。まあ、未来と暮らすようになってからは、かなり気にしてはいるが。
「ね、ちょっと着替えてみない?うちらにちょっといじらせてよ」
菜月は、洋服を抱えて未来を居間から引っ張り出す。梓もついていき、どうやら3人で未来の部屋へ行ったらしい。
ケーキはまだ手付かずのままだった。
オレは、とりあえずケーキを切り分けて皿にのせ、3人がもどってくるのを待った。
「じゃーん、じゃじゃーん」
菜月がハイテンションで居間の襖を開けた。
そこには、オレが買ってきた白いワンピースを着て、うっすら化粧をして髪を可愛く結った未来が立っていた。
見たことのない未来の可愛すぎる姿に、オレはポカーンとして見惚れてしまった。
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