第5話 初心者認定
19時半頃、私は家の前に止まっている白い車のドアを開けた。
「お疲れ様」
彼は助手席に置いてあった荷物を取り、後部座席に置き直した。
私はお礼を言い、席に座り、しばらく一言も発さなかった。しかし、何か言わなきゃと思い、
「今日ね、仕事の友達とお茶してきたの。・・・例の件で。」
と言うと、私は出張での出来事と、今日発覚したことを洗いざらい話した。
私の話を時々相槌を打ちながら聞いていた彼は、全て今日聴き終わると、笑いを噛み殺しながら私に聞いた。
「つまり、2人揃って弄ばれてたってこと?」
「ええ、まあ、そうですね・・・。」
彼は私の返事にもう一度笑うと、真剣な眼差しで改めて私を見た。
「念のため聞いておくけど、あれこれされたけど、一線は超えてないんだよね?」
「うん、キスさえしてない。私は。」
その答えを聞いて、彼は再び優しい顔に戻り、私の髪を撫でた。
「よかった。浮かない顔で戻ってきたから、絶対何かあるなって思ってたんだよ。でも、二度と他の男にたぶらかされないように、気をつけてよ?そもそも、隙がありすぎなんだよ!」
「隙?」
「胸元がっつり開いた服を着るし、それで普通に屈むし、そうやって少し優しくされたらころっと騙されるし。あのね、男子は単純だから、常にそう言う目で見てるし、優しい言葉を掛けるのは、下心があるからだよ。」
「服はしょうがないじゃん。小さいからサイズが大きいのしかなかったりするし。でも、どんなに真面目そうな男の人も、そんなこと考えるの?」
私の疑問に半ば彼は呆れ、私の頬を両手でパチンと挟むと、
「少なくとも奴はそういうことしたかっただけだよ!優しくされただけで、騙されすぎ!恋愛初心者だよ、まるで!」
と、私をキッと睨み、そのまま口付けた。
「でも良かった、何もなくて。」
「ごめんなさい・・・」
彼は優しく私を見つめ、髪をまた撫で、私は自分の過ちを悔いながら、今の幸せに浸っていた。
「お仕置きは必要だね。次、ホテルに行く時は、楽しみにしてて。」
耳元で囁かれた言葉が、一気に私を戦慄させた。
「初心者にはね、色々教える必要があるからね。逃げられないよ。」
そうやって笑う彼の隣で、私は思うのだった。たしかに、優しい言葉を掛けられてころっと引っかかる私は、今まで何人かと付き合ってきた割に、初心者なのかもしれない。そして今夜、今までの自分の悪行を省み、懺悔に勤しむのだろう。
初心者認定は甘んじて受け入れるが、何をされるのか末恐ろしく、私は少しでも免除されるよう祈ることも忘れないようにしよう、と誓った。
恋愛初心者 みなづきあまね @soranomame
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