第3話 はにかみポートレート
ああ、しんどい。1時まで寝付けなかった!あれから彼のことが気になり過ぎて、LINEのトップ画から知った、彼が登録しているLINEミュージックの曲を再生したら、かなり卑猥な歌詞(確か歌い手さん系)で、余計悶絶していたのだ。
やっぱ、どんなに真面目でも、どんなに爽やかでも、男はみんな下心があるものか!
寝不足で若干ボーっとする頭を抱え、私たちは夕方成田へ到着した。上司とは空港で別れ、途中まで一緒の私と彼は荷物を抱えてホームへ移動した。
それなりの警戒心を携えながら、特急券を買い、電車に乗り込んだ。
「いやー、ついに終わりましたね!」
「お疲れ様でした。楽しかったけど、さすがに疲れましたね。」
私はリクライニングを倒しながら答えた。
その後は当たり障りのない会議の話や、旅の思い出を共有しながら時間は過ぎた。
すると、ふいに彼は肘掛けに置いていた私の手をポンポンと叩き、
「まあ、美味しいものも食べられたし、一緒に仕事出来たし、良かったです。正直、ペアの相手によって、出張は楽しさが変わりますからね。」
と笑顔で私を眺めやった。
な、なにそれ・・・いや、私も確かに同年代で話しやすく、あまり気を使わないあなたと一緒で、相当自由且つ楽しく過ごせたのは事実だけど、その顔はダメ!
「そろそろ着きますね。あー、終わっちゃうのか。寂しいなあ。」
駄目押しでこんなことを呟くものだから、気が動転していたが、
「私にこき使われなくていいじゃない。」
と軽口で返した。
終点で電車は止まり、私たちは周りの客が降りるのを待った。大きなスーツケースや登山にでも行くかのようなリュックを背負った外国人観光客が、続々と降りてゆく。
そんな流れをボーっと見ていた時、通路側に立っていた私は、急に窓側に引っ張られた。どうやら大荷物に潰される数秒前だったらしい。避けた私の前を巨大なリュックとスーツケースが通り過ぎた。
私は彼の片腕にすっぽり抱かれていた。
「ありがとうございます。」
私はもはや能面フェイスで礼を述べ、彼から離れた。完全に息切れ動悸を起こしている。まるで、友達以上恋人未満のあれだ。
最後に私達は普通の電車に乗り込み、彼が先に降りるまでの約15分間を話しながら過ごした。
ふいに言葉が止み、私が初夏の日差しに目を向けて、数秒後、彼に視線を戻すと、彼は私を見ていたようだった。
「何?」
「いや、ちょっと見てたいな、って」
彼は柔和な笑みを浮かべ、私は凍りついたような表情を作り、感情が表に出ないように努めたが、多分顔は赤く、柔らかさが滲み出てしまった気がする。
「・・・眼科に行きなよ。」
私はいつもの冗談めいた感じで返した。電車がホームへ滑り込む。
「お疲れ様です。また来週。」
彼は笑いながらそう言うと、雑踏の中へ消えた。
・・・よくもまあ、周りの人に聞こえるボリュームで、あんな気障な台詞が言えるわね。側から見たら、どう見てもカップルじゃない。スーツじゃないし。
どうしよう、もはや彼氏に言い訳が出来ないくらい、まるで高校生の恋愛みたいな気持ちになってる。紳士的で男らしく、だけど可愛らしさを見せつけられては、太刀打ち出来ない。
遊ばれてるのかな、それとも・・・。とりあえず、私は死んだら極楽浄土には行けないことははっきりしたと思うわ。
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