第7話 巨城
ネビルはその後も必死になって探し回ったが結局、あの馬車宿をもって手がかりは完全に消えてしまった。
もう武器商人を見たという話も聞かなければ、そもそもここ数日でただの行商人の一人も見たという話すら聞かなかった。
マナフの焦りは次第に大きくなり、頭を抱える日々を送っていた。もうかれこれ城下町を三日三晩捜索し続けたが、どこにも手がかりがなかった。
この城下町をひっくり返しても何も出てこないのだ。
あまりにも手がかりがないのでネビルの中では神隠しにでもあったのではないかとか、誰かに殺されて、郊外に埋められたのではないかなどの根も葉もない噂まで広がり始めていた。
それから時は過ぎ去り、四日目の朝を迎えた。
マナフ及び、ネビル全体はかなり疲弊していた。鼠一匹をを探すのにここまで苦戦したのは初めてだと、マナフは常に頭を抱えていた。
マナフは四日前の朝のことを思い出して、あの店に向かった。あの店から武器商人は消えたのだ。もう一度、あの店に行ってみようと思った。
もう馬車宿は探した、そこに手がかりがあるはずがない。そんなことはもう分かっている。しかし、もうそんなことに頼ることしかできない程、切羽詰まっていた。
マナフはたった二人で馬車宿に現れた。以前のような大群は引き連れて来なかった。
「ネビルだ。入らせてもらう」
マナフはそう言ってずかすかと店の中に入っていった。
「お前さん、どうしたんだその顔」
おやじはマナフの顔を見て、驚いた。四日前に比べて、かなり痩せていたし、目の下には大きな隈をクマをがあった。
前に来た時のような威勢はなく、明らかに尋常ではない様子だった。
なにも言わずに厨房の中に入ってきていき、厨房を抜け例の部屋に入った。
もちろん、そこはなにも変わっていない。以前来た時と同じ、鼠一匹逃げる隙間すらないもぬけの殻だった。マナフは向かって奥の壁に手を突いた。
「クソ、何もできなかった。俺は何をしていたんだ。鼠ごときに!!」
マナフはそう言って、床を思いっきり蹴り上げた。
その瞬間、ガタンと床を蹴っただけにしてはおかしな音が聞こえた。
「なんだ今の音は」
マナフはもう一度同じ場所を蹴ってみた。すると今度は床が少し、浮き上がるのが見えた。
「まさか」
マナフはそう叫ぶと、床に手を突き、真剣に探り始めた。少しすると、マナフは床の板目に手をかけて、思いっきり上に持ち上げる。
「……嘘だろ」
マナフはその場に腰を抜かし、動けなくなってしまった。頭の中が一瞬で真っ白になる。今までやってきた自分の功績が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。
「長官これは……」
同伴していた隊員も言葉を失った。そこがこの世の果てであるかの沈黙が空間を包む、その瞬間外から一人の隊員が騒々しく、入ってきた
「長官殿、急報でございます。武器商人が城門の前に現れました」
「なんだと」
同伴していた隊員が大きな声で叫んだ。しかしマナフはそこを動かず、俯いていて返事すら返さなかった。
「長官!」
「おのれ! 一杯も二杯も食わされた。もう終わりだ。俺たちになすすべはない」
マナフは疲れ切った顔でそう言った。
「長官そんなことないです。まだ何かなすすべがあります」
隊員は必死に呼びかけたが、マナフは立ち上がろうとしなかった。
「もうない……完敗だ…………」
「……長官」
隊員も悲しそうな顔をした。これでマナフはもうネビルに居られない。自分自身がそれを一番に自覚ししていた。
「ここにいる隠し扉があるということはここの店主も共犯です。今すぐ捕まえましょう」
隊員がそう言って、マナフの腕を持った。しかし、マナフはその腕を払いながら、
「もう俺たちの負けだ。やつらを逮捕できなければ共犯も何もないんだ」
マナフは何もない天井を見上げて、息を深く吐きだした。
************
一方その頃、城の前まで来た二人はその堅牢な城の尊大さに圧倒されていた。
「ついに来たぞ」
武器をリアカーに詰め込み、その上から帳をかぶせてここまで運んできた。その重いリアカーを城まで引っ張ってきたパイカーがそう言った。
「よし、本番はここからだ」
ロイシェのその言葉で二人の気持ちは極限まで高まり、緊張に包まれた。
もう周りを見てもネビルはいない。
それは二人が城の桟橋を渡り始めていたからである。パイカーは王との謁見証明を提示し、城門を通過した。
城門の先には堀があり、その堀には桟橋がかかっていた。この国で最も大きな建造物である城は下から見るとより、その大きさに圧倒される。
二人はそのまま、桟橋を渡り切ると、門の前に立っていた召使によって謁見まで案内されることになった。
この国の定めとして、どんな客人でも謁見証明を持っていれば、必ず通すのが決まりとなっている。
その王との面会にはこの国最強とも言われる将軍方が立ち会うのも古くからの習わしだ。
桟橋を渡った先の大きな門を潜ると、さらに入り組んだ城壁が立ち並び、まるで迷路のように造られているため、初見では絶対に攻め落とすことは不可能だろう。
現にいまこの召使が二人を離れてしまえば、もうこの城壁地獄からから抜け出すことは不可能だろう。
その本丸は見えてはいるがなかなか辿り着くことができづ、門に入ってからというものかなり歩いた。
しかし、その本丸はいきなり二人の目の前に姿を現したのだ。先程まで遠くに見えていたはずなのに二人はすでに本丸の扉の前にいた。
その扉を開き、豪華絢爛なシャンデリアと共に二つの階段があった。
そこまで来ると、召使が、
「お荷物はこちらに」
と言って、リアカーに手をかけた。
「これをどうづるつもりだ」
と聞くと、召使は黙って、指をさした。
その指の先には小さめのゴンドラがあり、そこで大きい荷物を運ぶ仕組みになっているようだ。
二人を大事な商品を他人の手に渡すのは気が引けたが、ここで頑なに拒み、逆に怪しまれても困るので、仕方なく召使に渡した。
「ちゃんと、持っていってくれよ」
「もちろんです。必ずあなた方が謁見の前に到着する頃にはその扉の前にお届けします」
リアカーを渡すと、他の召使が、
「さぁこちらへ」
と言って階段に案内した。
その階段を昇り、さらに奥へと進んでいく。
召使は終始黙っていた。二人も平生を装い、黙ってついていった。かなり上の階へと昇りつめたころ、いきなり召使が、
「ここが謁見にございます」
と言い、二人のもとを去った。そこで初めて二人はこの大きな扉の存在に気が付いた。
その扉の前には先程渡したリアカーが置いてあった。
「よし大丈夫だ」
ロイシェはそのリアカーの帳の端を入念に観察してからそう言った。
「そこを見ただけで中身が見られてないってわかるのかよ」
「大丈夫、ばれないように渡すときに、俺の抜いた髪の毛を軽く結んどいたんだ。それがまだちゃんとある」
「全く、抜け目ねえなお前は」
パイカーはそう言いながら笑った。
謁見の扉は城の中でも随一の大きさで、見上げる程の大きさだった。その大きな扉が、音を立てずに静かに開いた。
ロイシェとパイカーはリアカーの横に跪き、王の御前にて到着の任を致した。
「大王陛下、わたくしが王のご厚意の末、参らせていたいただきました。東の商人でございます」
「右に同じく、王の御前に参らせていただきました」
パイカーとロイシェは丁重な挨拶をした。
「よかろう、顔を見せてみい」
ハロルドに言われ、二人は顔を上げる。すると、ハロルドの横に二人の甲冑を着た将軍が同席しているのがわかった。
その将軍がこの国で随一の強さを誇ることは言われずともわかる。
右にいるのが大将軍ガルボ、そして左にいるのが女将軍フィリアである。その二人の存在感は王に凌ぐもので見ただけで圧倒される気迫に満ち溢れていた。
ついに、謁見に到着した二人の本当の
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