1/25 あの名曲の歌詞をクリエイター目線で斬る!

 この前初めての経験をしました。

 とある曲を聞き終わった時、その曲の素晴らしさに何故かこう……涙があふれ出てきてしまったのです、運転中だったので誰にもバレてはいないと思いますが。

 前から曲自体は知っていたのです。ですがとある理由で最初から最後まで聞いてみて、思わずまるで何か大きな力に動かされるように心が震えたのです。


 その曲は「雪の華」。

 言わずと知れたあの中島美嘉さんの名曲です。今でも中島美嘉さんと言えばこの曲と言われるくらい多くの人の心に生き続け、そして多くのアーティストにカバーされていることからもどれだけあの曲が影響力を持っているか計り知ることができます。

 曲と歌唱力は言うまでもないのですが、ここはカク人が集まる「カクヨム」の世界。その歌詞に注目してみましょう。

 ちなみにこれはあくまで個人的な感想に基づいています。様々な解釈があると思いますので、違和感を覚える方がもしいらっしゃったらすみません。またネットを探せば、この歌の様々な解釈があるかもしれません。ですが、それに影響されないよう個人的に思ったことを書いていることをご了承ください。

 さっそく出だしを見てみましょう。


「のびた影を舗道にならべ」


 歌詞という世界は、小説と違って文字数が限られています。たった一文字あるかないかでリズムが変わってしまいます。そのため、少ない文字でどれだけ説明、描写などをこなすかが試されます。そこは川柳などにも通ずるものがあるのかもしれません。まずこの最初の一行、この少ない文字数だけで多くの事を語っていますよね。


「のびた影」から、きっと状況は日が落ちていることが想像されます。そして「舗道にならべ」ていることから二つ以上の影が、舗道という何気ない場所にあることがイメージできます。素晴らしい、最初から飛ばしてきますね、では次です。


「夕闇のなかを君と歩いてる」


 そこに夕闇のなか、「君」というおそらく大切な人と歩いていることがわかります。


「風が冷たくなって冬の匂いがした」


 いいですね、この一節。ひっぺがして(ストレートに表現すると)みると、「気温が低くなってきたので、冬が来たんだなと思った」という内容なのでしょう。この「気温が低くなった」と「風が冷たくなった」は同じ事を言っているのに受け取る印象が全然違います。後者は五感に訴え、且つ「風」というフレーズが入ることにより、風が吹いているシーンも加えることができます。

 そして「匂いがした」。これもにくいですね、「冬の匂い」。冬に匂いなんてあるはずないのですが、おそらく冬の湿度だったり、冷たさだったり、そして冬に発生する色々な匂いを嗅いだりすることにより、冬が来たんだと思っている光景が目に浮かびます。これも五感を入れているので、より聞いている側へ鮮やかにその光景を届けることができます。 


「そろそろこの街に君と近付ける季節がくる」


 いやー、お見事。ここが一番好きかもしれません。ひっぺがしてみると「もうじき冬がくる」です。「そろそろ」と付けることで、これから徐々に来つつあるんだ、ということと、その事に思いを馳せているような印象も受けます。

 そして「君と近付ける季節」。これすごくないですか?

 冬が来る、と言ってもその感じ方は人それぞれ。どちらかというと夏に比べ、冬はマイナスなイメージがあるかもしれません。「冬が来る」とだけ言ってしまうと、それが嬉しいのか、悲しいのか分かりません。でも、「君と近付ける季節」ということで、イメージが何倍にも膨れ上がります。「君と近づく季節」ではなく、「近付ける」ということから本人はそれを楽しみにしていることがわかります。さらに冬は寒くて厳しい季節なんだけど、だからこそ君と近付けるんだ、それが楽しみで仕方ない、という事を一気に詰め込んでしまっているのです。

 これを作ったSatomiさんは天才なんじゃないか、いや天才なんだとこの時思いました。


「今年最初の雪の華を」


 雪を雪と言わずに「雪の華」としたのはどうしてでしょうか? これはちょっとわかりませんでした。雪を敢えて雪という言葉を使わずに表現することには意義のあるとは聞いたことがあります。例えば花火だったらこんな歌詞があります。


「今年も空が花を咲かせる」


 花火とは一言も言っていませんが、きっと花火なんだろうと聞いている方は思います。このように「雪」を雪と言わずに他の表現なら分かるのですが、「の華」と言ってしまっているので……。ちなみに昔、自分は「少年は今日も◯◯を待っている」のエピソード2

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885014185/episodes/1177354054885337556

で、雪の表現を雪という言葉を使わずにという縛りで一生懸命考えたことがあります。自作の宣伝と思われるとあれなので、★〜★までは飛ばしてくださっても構いません。 


 ふと、とある違和感が私を襲った。

 何かが降っている。

「雪?」

 暗い闇を見上げると、無数の星たちがひらひらと地上に舞い降りるように、その白い結晶は私たちの目の中に飛び込んだ。 

 すべてがランダムで、なおかつどこか規律的で。一つ一つのそれ自身すべてが私たちの想像を裏切る動きを呈している。

 その魅せる動きは喜びの舞なのか、はたまた嘆きの表情か。

 夕闇のステージで繰り広げられる自然の神秘に、私はしばらく言葉を失っていた。

「なあ洋介。信じられるか?」

 私はその果てしない黒に浮かぶ無数の白に、まるで体を預けるよう、ただじっと空を見上げていた。


 次行きましょう。


「甘えとか弱さじゃない ただ君を愛してる」


 ひっぺがしてみると、「君を愛している」。ベストセラーとなった「伝え方が9割」をまだもしお読みでない方がいらっしゃったら、是非読んでみるといいかもしれません。あの本には言葉に力を込める技が惜しげもなく書いてあります。その中でも感情を伝えるのは「愛している」より「愛してる」の口語の方がよいと書いてありました。「唇が震えている」よりも「震えてる」なのだと。

 そして、落として上げるのも大事、と書いてありました。「あなたが好き」というのと「嫌いになりたいのにあなたが好き」では印象が違うと。

 

「甘えとか弱さじゃない」と前置きをすることで、「愛してる」の強さが倍増されます。ただここで一つポイントを。

 もしここでポジティブな前置きをしたらどうでしょう。

「胸が張り裂けそうなくらい愛してる」などのように、「愛してる」を強める言葉でもいいのかもしれません。

 でも、このように具体的に言ってしまうと、それに当てはまらなかった人は共感できません。「マイナス」を「否定」することで、「プラス」の枠組みだけを作ってあとは読者、リスナーに想像させる、というのがうまいテクニックです。「小説は懐中電灯」にも書きましたが、言葉は懐中電灯なので、ぼんやりで構わない、いやその方がいいのです。一方で、枠組みだけ提供するということはその中身は読者に委ねるということ。これはリスクもあります。その中身を持っていない人には伝わらないからです。

 ここでも例えば「甘えとか弱さ」で人を愛する、求める(すがる)、ということがどういうことかわからない人には、今ひとつこのフレーズはピンとこないかもしれません。

 ただそれが分かる人にとってはこの「ただ君を愛してる」という言葉が力強く、誠実な、真実の愛、そんなイメージを彷彿させます。


「風が窓を揺らした 夜は揺り起こして」


 一番の歌詞の「風が」と同じ言葉を用いることによって響きを整えています。しかし内容は真逆です。しかも一度聞いただけではこの意味は分かりません。でも次に続くのが、


「どんな悲しいことも 僕が笑顔へと変えてあげる」


 と続くことから、きっとここでの「風」はうれしい「風」ではなく、冬の夜中に突然「ガタン」と吹き付ける「マイナス」なイメージの風ではないかと推測されます。「風が不安にさせるような夜は僕を揺り起こして、笑顔にしてあげるから」ということなんだと思います。同じ「風」を一番と二番で「対比」させています。これは歌詞の世界ではよく見受けられる構図です。小説に活かすとしたら、同じフレーズ、同じ対象を場面によって真逆の印象で表現したら面白いかもしれません。


「舞い落ちて来た雪の華が 窓の外ずっと降りやむことを知らずに 僕らの街を染める」


「降りやむことを知らずに」擬人法ですね、世界一面に白い雪が舞い落ちて、これ一体いつまで降るんだろう? と思わせるような光景が目に浮かびます。そして「僕らの街を染める」、ただの「街を染める」じゃ駄目なんです。「僕らの街」だからこそ、僕ら二人と「白く染まる街」が浮かび上がるんですね。 


 いやー、本当にすごい。プロにかかるとこんな素晴らしい歌詞が完成してしまうのかと思うと驚きです。余談ですが、個人的にはSwallowtail Butterfly ~あいのうた~ の


「この空の青の青さに心細くなる」


 も好きなフレーズです。


 ここまで色々と間接的に表現したり、擬人法など素晴らしさを述べて来ましたが、あくまでもこれらは切り札的な役割がいいでしょう。全てにこれらを折込みすぎるとまるでルウだけのカレーみたいにバランスが悪くなってしまう可能性があります。何事も適度が大事ということですね。

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