第2話(2)
「姉さんは大丈夫っすかね?」
フレイもタケルもレイネのことを姉と呼んで慕っている。そう呼ばせているのかもしれない。
「フレイがいるから大丈夫だろう。俺が相手するから、人払いの結界を張れ」
「了解っす!」
タケルはポケットから半紙でできた短冊を取り出し、走りながら周囲にばら撒いた。
「また後で、先生」
と言って、彼は茂みの中に飛び込んだ。
公園の中央にある噴水で立ち止まった。息を整えながら、周囲を見回す。人払いの結界のおかげで周りには誰もいない。
「ここに人払いの結界を張ってある。自ら出てきてはどうだ! でなければ実力行使をする」
返答はない。争い事は嫌いだがやむを得ない。
右手のひらを天に向けながら腕を前に出す。ゆったりと呼吸しながら周囲を流れる精霊を感じる。相手は土の精霊を土台にした魔術を行使している。今回は相手の魔術を破壊するのではなく、効果を封じるないし弱めるので、土の精霊に対する風の精霊を使役する。
少しずつ手のひらに風が集まってきた。
手のひらに風の球体が形成されていく。
パチンとそれが爆ぜた。
三体の人形が現れた。
「ホムンクルスか」
ホムンクルスとは錬金術によって生成された人造人間である。俺の周りを囲うように集まったホムンクルスはいずれも、口をすぼめたいわゆるひょっとこ顔をしていた。不気味で気持ちが悪い。
「さすが、現代魔法の天才と呼ばれたアマースト・シンだ。精霊の原理だけで、ワシが放った土の精霊と相対した」
ホムンクルスの影から黒いローブを羽織った男が出てきた。
「魔法理学部部長、オーガスト・グリー魔法師」
「そうとも、オーガストと呼んでくれて構わないぞ」
「一体何の用ですか、人造人間にストーカーのような真似までさせて」
「君と一緒に居た、タケルといった少年だったかな、彼もよくワシのホムンちゃんたちに気づいたね」
ホムンちゃんって・・・ホムンクルスになんて呼び方をしているんだ。
「俺はけっして暇な身分ではありません、魔法理学部部長殿」
「まぁまぁ、そう固くなるなよ、若造。君の学院生時代からの仲だろ。
それより、ゾルドアート嬢から話は聞いている?」
ゾルドアートというと、レイネのことか。
「それがどうした」
「ちょっときな臭くてね。魔術霊装の使用を許可しよう」
「・・・はぁ?」
「魔術霊装の使用許可だよ」
魔術を効率よく発動するためには、さまざまな道具や薬品が必要である。その最たる例が魔術霊装である。魔法霊装を使用すると、何十いや何百倍と魔術の効力を増強させてくれる。大変危険な武器であることから〈学院〉が一括管理をしている。
「お前、なにか知っているな」
「仕事を受注したのはワシだよ。ゾルドアート嬢が元請けで、君が下請けということになるのかな」
「いろいろ知っているということだな」
「これ以上は言えないよ。あ、そうだ、君のところの女の子も連れて行くんだろう?」
「フレイのことか? まぁ、弟子だからな」
「かわいいからって手を出しちゃだめだよ」
「そんなことをするか!」
「彼女の霊装の制限解除の申請しておくよ。必要だろ?」
フレイは
「ちゃんと霊装を取りに来てね。じゃあ」
オーガストはパチンと指を鳴らして、ホムンクルスともども一瞬で消えてしまった。人払いの結界も解除され、周囲に人が戻りつつある。
「先生!」
茂みの中からタケルが出てきた。
一筋縄ではいかないような仕事を受けてしまったかもしれない。
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