第15話 市内大会2

 市で一番大きな体育館。

 普段練習で使っている体育館とは比べものにならないほどに大きな会場に、私は今立っている。


 去年もこうしてオレンジ色の照明に照らされて、市内大会へと望んだんだった。


 だけど……今年は、見える景色が全然違う。


 思えば、去年の市内大会は藤代紫を倒すためにものすごく気を張っていた。

 だからこそ、周りが全然見えてなくて、試合中に殻に閉じこもってしまったりもした。

 そんな私を、紡金ちゃんは的確なアドバイスで救ってくれたわけだけどね。


 とにかく、ことしは去年に比べ、体育館が一回り小さく感じていた。

 身長が変わったわけじゃないから、単純に気持ちの問題なんだと思う。

 身長は……相変わらず139cm。

 まさか伸び盛りの中学生のはずなのに小学6年生の頃から1センチも伸びないだなんて……ちんちくりんの星に生まれてしまった私はもうどうしようもないの……?

 よし、牛乳を飲もう。


「緋色ちゃん、今日はなんだか顔色がいいね。去年はすごく思い詰めた顔してたからねー」

「あはは……そうだったかも……」

「緋色ちゃんは去年3回戦棄権だったし、今年は市内突破を目指すよ。私もついてるし、余程のことがない限り大丈夫だと思うけどね」

「う、うん! 今日はよろしくね……!」


 紡金ちゃんは頼りになるその胸を叩いて私を励ましてくれた。

 思えば、心なしか紡金ちゃんの……その……お胸の方が成長している気がするのは気のせいだろうか。


 私と同じ赤いユニフォームを着た紡金ちゃんは、私のそれと異なり胸のあたりが窮屈そうだった。

 背丈の成長に合わせて、女の子らしさまで成長してる。

 …………惨め!!!!

 どうして私は……背も小さいままだし、胸も大きくならないの……!


 そういえば張替先輩と一緒に練習をしていたあの香織って呼ばれてた人は……お胸の方が非常に大きかった。


 もしかして先輩に近づくためにはおっぱいが必要!?


 む、無理だ……私にはとても……

 とりあえず明日から牛乳を飲むことを誓いつつ、私の2回目の市内大会は幕を上げるのであった。


 *


 市内大会が終わることには、もう日が暮れかけていた。

 太陽は既に直視できないほどの眩しさはなく、オレンジ色をして私たちを照らす。

 その光から、どこか最終回のような哀愁に満ちたものを感じた。

 そう思ってしまうのは、私の精神状態によるものだと思うけど。


 帰り道、自転車を漕ぎながら私は謝る。


「紡金ちゃん……ごめんね……私が不甲斐ないばかりに……」

「ううん、別にいいよー。まあ即席ペアにしてはいいところまで行ったと思うなー。それに、私知らなかったよ。うちの市、ダブルスの方がレベル高かったんだね」


 まさか市内大会に前年度県大会出場ペアがいるとは私も思わなかった。

 県大会といえばとてもレベルが高い。

 市内大会を突破したら県の地方大会。

 県の地方大会を突破したら県大会。

 つまり、私たちが偶然当たってしまった3年生の強いペアは、二つの大会を突破するくらいの実力があるということだ。

 それは強い。強い強いいいすぎてもう頭が混乱している。


「トーナメント運ってあるからねー。私たちは今年からダブルスでしょ? そういう後発参加のペアはあまりいい場所取れないのは当然なんだよ。だから、今年は来年……3年生になってからの布石だと思おうよ。たぶん、スコアは見られてるはずだし、来年は第1シードに当たるのは決勝になると思うよ」

「そ、そうだね……」


 紡金ちゃんの励ましが逆に胸にくる。

 あの試合、勝てる見込みは十分にあったんだ。


 スコアは

 <11-8>

 <9-11>

 <6-11>


 2セット目、私がミスしなければ、ストレート勝ちまでしてた可能性だってあった。

 紡金ちゃんが2球目のボールをレシーブできる機会は8球中2球。

 台上でドライブが打てる紡金ちゃんのレシーブエース確率はあの試合100%で、つまり4分の1の得点は自動的にこっちのチームに入っていた。

 後は私がどうにかこうにか、誤魔化しに誤魔化して紡金ちゃんに回して得点を稼いでいたのだけど、思った以上に私は下手くそだったのだ。


「とにかく……また練習だね。ダブルス練習もそうだけど、これまで以上に個人技も磨かないとなって……思ったから。紡金ちゃんに回せれば勝てるって甘い期待は絶対あったし……」

「あはは、そこまで頼ってくれてたのは逆に嬉しいよ。でも、そうだね。来年までには緋色ちゃんも得点源になれれば、きっと県大会……ううん、関東大会も夢じゃない! 明日からまた練習よろしくね!」

「う、うん……!」


 紡金ちゃんはそう言って眩しく笑いかける。

 私のせいで負けたというのに、全然責める様子もないし、言い方も全然嫌味っぽくない。

 これが上の上女子である、みなのもの目に焼き付けるのじゃ。


 ひょっこり現れた心の武士を押しとどめ、交通安全に気をつけて学校へと帰るのであった。

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