名成家リリー【後編】

【中庭の物陰】


花音「はぁ…はぁっ……やっと見つけたぁ…。リリーちゃん…大丈夫……?」


リリー「んっ……な、なによ…っ」


花音「その…心配、だったから…つい追いかけてきちゃった…」


リリー「…他の皆は、どうしたのよ」


花音「…わからない。私が勝手に走ってきちゃったから……。多分、美音ちゃんを慰めてるんじゃないかな」


リリー「……ごめんなさい」


花音「ううん、私に謝らなくていいよ。でも、美音ちゃんには…謝ったほうがいいんじゃないかな」


リリー「……」


花音「リリーちゃん。どうしてあんな事言ったのか、教えてくれないかな…?」


リリー「……っ」


花音「あっ、言いにくい事なら言わなくても大丈夫だよっ!!」


リリー「………私には…前、たった一人の、大切な友達がいたの。


上手く人と会話が出来ない私に、その子は優しく声をかけてくれたわ。


…その子以外にも、私に話しかけてくれる子はいた。けれど、私のこの性格のせいで、みんな離れていってしまったの。


でも、その子だけは私から離れなかった。

私と一緒にいてくれた。

“どうして私と一緒にいるの?”って聞いたら、“一緒にいたいから”って。“仲良くしたいから”って、そう言ったのよ。


パパの仕事の手伝いで学校に行けないことが多々あったの。でも、その子はいつも学校のお便りやお手紙を家まで届けてくれたわ。


………だけど、ある日その子は交通事故に合って大怪我をしてしまったの。


幸い命は助かったものの、全治五ヶ月。一生車椅子生活になるかも知れないって…!


…私のせいなの。私の家に、いつものように学校のお便りや手紙を届けに来てくれている時に、その子は事故にあってしまったの。


私は最低な人間なのよ。

私は自分に甘えていたの。

私が学校を休む度にあの子を家に来させてしまって…。きっと大変なのに、私はあの子からの手紙が嬉しくて“もういいよ”って言えなかったっ…!言っていれば、こんな事にはならなかったのに……!!!


…その子はまだ入院中よ。パパからきいたけれど、治ってからもリハビリをしなくちゃならないから、もう卒業までに学校へは来れないみたいだわ。御見舞に行こうと思ったけれど、傷つけてしまった張本人である私がどんな顔をして会いに行けば良いのか分からなくて行けていないの…。踏み出さなきゃ行けないのに……私はまた、逃げてばっかり…!


………私は、疫病神なのよ。私のせいで……私のせいでっ、あの子は、一生苦しむことに…っ!!」


花音「リリーちゃん……。大丈夫。リリーちゃんのせいじゃないよ…」


リリー「どうして!?どう考えても私のせいじゃない!!!私が自分に甘えていたからこんなことになったのよ!!」


花音「違う!リリーちゃんのお友達だって、リリーちゃんのせいだなんてきっと思ってない…!!」


リリー「っ!」


花音「お友達は、リリーちゃんに会いたいはずだよ」


リリー「で、でも…私には、あの子に会いに行く資格…」


花音「あるよ。リリーちゃんに、そのお友達に会いたいって気持ちがあるなら、胸を張って会いに行っていいんだよ」


リリー「…………ぅ、うぅ…っ…」


花音「えっ!?ご、ごめん…!泣かせちゃった…!?」


リリー「…っ。……わ、私…本当に馬鹿ね。美音にあんな態度を取ってしまったのは……きっと、私の友達と似ていたから……逃げたかったからなのかもしれないわね…。…ほんと、最低……」


花音(…リリーちゃん、大人っぽい子かと思ってたけど、本当は臆病で寂しがり屋な、幼い女の子なんだ)


リリー「…私、これからあの子に会いに行くわ。美音達にも謝って」


花音「……!!うんっ!」


リリー「話を聞いてくれてありがとう、花音。…あの事故の時、私は自分を変えるべきだった。貴方のおかげで気付くことが出来たわ」


花音「ううん、私は何もしてないよ。」


リリー「いいえ、貴方のおかげよ。…ありがとね。……それじゃ、戻りましょうか」


花音「うんっ」



【778プロ フロント】


リリー「あっ…スファルに聖」


聖「戻ってきたのね」


スファル「リリーちゃん…大丈夫……?」


リリー「怒ってないの…?」


スファル「おこる…?おこってないよ…?」


聖「あんな事言い放って走って行かれたら怒れないでしょう…」


スファル「ふふ…聖さん、どうしたんだろうってすごく心配そうにしてたよね…」


聖「別にそんなんじゃないわよ…!」


花音「ん、あれ?美音ちゃんは?」


スファル「美音ちゃんならついさっきソロレッスンに行ったよ」


リリー「え…」


聖「どうかした?」


リリー「あ、その…皆に謝ろうと思って……」


聖「なるほどね。貴方、明日も来るんでしょ?美音も明日来るはずだし、その時で…」



美音「あっ!リリーちゃん!」



スファル「あれ…?美音ちゃん、レッスンは…?」


美音「えへへ、タオルをここに忘れちゃって…」


リリー「あ、あのっ…美音」


美音「リリーちゃん!…さっきはごめんね。リリーちゃんの嫌がることしちゃって…」


リリー「貴方は何も悪くないわ。…悪いのは全て私よ。美音、そしてスファル、聖、花音。酷いことを言ってしまって本当にごめんなさい」


花音「ううん、大丈夫だよ」


スファル「うん、いいよ…。リリーちゃんは、きっと嫌なことがあったんだよね」


聖「………貴方に何があったのかは聞かないわ。素直に謝れるのは良いことよ、次から気をつけなさい」


美音「いいよ!あ、えっと…リリーちゃん。…また、忙しくないときに遊んでくれる…?」


リリー「…!いいの…?こんな私を、まだ受け入れてくれるの…??」


美音「うんっ!せっかくお友達になったんだもん。リリーちゃんと仲良くしたいよ!」


リリー「お友達……?」


スファル「あ…。私とも、一緒に遊んでほしいな…」


リリー「スファル……」


花音「ふふっ。良かったね、リリーちゃん」


リリー「…えぇ。みんな、本当にありがとうっ…!」



〜夕方〜


リリー「さて、やるべき事は終わったし……そろそろ行こうかしら」


花音「あっ、リリーちゃん!これからお見舞い…?」


リリー「花音…。ええ、そのつもりだけど…」


花音「一人で行くの?お父さんとお母さんは?」


リリー「パパは仕事で忙しそうだし、ママは家事で忙しそうだから。一人で行くわ」


花音「小学生がこんな時間に一人なんて危ないし、付いて行くよ」


リリー「いいの…?」


花音「うんっ、リリーちゃんが良ければ一緒に行こう?」


リリー「じゃあ…お願いしようかしら」


花音「分かったっ!」



【総合病院】


リリー「308号室……ここね」


花音「一人で大丈夫?一緒に入ろうか?」


リリー「いいえ、大丈夫よ。自分との勝負だもの。…一人で行ってくるわ」


花音「わかった。ここで待ってるね」


リリー「ありがとう、花音。


………ふぅ…」


花音「リリーちゃん、頑張って…!」


〜リリーがドアをノックした〜


「はい」




【308号室】






リリー「…久しぶり。ーー」




-fin

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