14 甘い水音
どれだけの時間が過ぎただろうか。
日の射さない暗い部屋、秒針の音さえ聞こえない中、時間感覚が麻痺してくる。
暗闇に閉ざされた部屋。
光源の一つもないのにその全貌を明晰に見渡すことが出来るのは、暗闇に目が順応したからなのか、それとも…。
それは一日ほどであったのかもしれないし、もしかしたら一週間ほどの時間が経っているかもしれない、はたまたそれ以上かもしれないし、たった一時間ほどの間であったかもしれない。
だが、私にとって永遠にも感じられる程の長い時間を過ごしたということだけは理解している。
吸血鬼の少女、坂上小夜さんに魅入られ、私は真夜中の公園で血を吸われた。
そして、彼女の血の効能によりその眷属にされてしまった。
頭は理解を拒んでも、身体がこれ以上無いほどにそれが真実だという事を物語る。
太陽の下に一歩踏み出しただけで、身体は炎上し、灰になってしまった。
しかし、暗闇にもう一度戻るとたちまち元通り、なんてことなかったように今も平然としていられる。
それは、吸血鬼の不死性によるもので間違いないだろう。
それよりもなにより、渇いて渇いて仕方が無いのだ。
空腹とは別の感覚。
もしかしたらそれは、性欲に近いものであるかもしれない。
ただただ、私の身体は、血液を求めている。
誰のものでもいい、血が欲しくて欲しくて堪らないのだ。
首筋に噛みついて、その命の雫を啜りたい。
男でも、女でも、老いも若いも構わない。
あの紅い雫を欲してやまない。
がむしゃらに、血を啜りたい。
そんな願望が頭の中を駆け巡り、気が狂いそうだった。
「詩葉さん、調子はどうかしら?」
暗い部屋の扉が開き、坂上さんが這入ってくる。
「その様子だと、そろそろ欲しくて堪らない頃なんじゃない?」
坂上さんは長い黒髪を掻き上げると、その青白く美しい首筋を露わにする。
「血が欲しくて欲しくて堪らないのでしょう?気が狂いそうなくらいに求めている」
そうだ。
彼女の言うとおり、私は彼女の血が欲しくて欲しくて堪らなくなる。
その首筋に齧り付きたい。
血が欲しくて欲しくて堪らない。
「お願い、坂上さん、吸わせて…」
恥も外聞も無く、私はただただ彼女に懇願する。
躊躇などしていられない。
今すぐにでも彼女の首筋に牙を突き立てたい。
「焦らないで。何事もまずは下拵えが大事でしょ?」
そう言うと彼女は、ゆっくりと鎖に繋がれた私の元に近づいてくる。
「可愛いわ、詩葉さん」
耳元で熱っぽく、彼女は囁く。
吐息が耳朶を擽り、ぞくぞくとした感覚が身体の芯から昇ってくる。
「ちゅ…」
彼女のぽってりとした柔らかい唇が、私の耳にそっと口付ける。
小さな水音が、くちゅりと鼓膜に反響する。
「ふあぁ」
思わず、気の抜けたような声が出てしまう。
耳元から優しく与えられる感覚は、もどかしくもひたすらに甘美で。
それから、坂上さんは執拗に私の耳を舌先で舐る。
激しく木霊する水音は強制的に私を屈服させ、ただ彼女の舌先にもたらされるぞわぞわとした感覚を受け入れることしか出来なくなっていく。
血を吸いたいという衝動が甘やかに溶かされて、その全てが鋭利な感覚へと変わっていく。
「こうやって、耳、舐められるととっても気持ちいいわよね?身体の中からぞくぞくした感覚が昇ってくるのがわかるでしょ?」
熱い吐息が、先ほどまでとはまた別種の快感を私の耳に刻みつける。
ふわりとした浮遊感と、それに伴って落下する時のようなぞわぞわとした感覚を覚える。
「囁かれながら耳舐められるだけで、とっても気持ちいいね?どんどん身体がいやらしい気持ちになっていくね?」
甘く囁かれるだけで私の身体は敏感に反応し、いとも簡単に彼女から与えられる快感に追従していく。
頭がぽおっとし始め、何かを考えることが馬鹿らしくなっていく。
ただ、もどかしい快楽を受け入れ、快感だけになっていく。
「こっちのお耳も、寂しいわよね」
今度は、先ほどまでとは逆の耳が、坂上さんの舌先の快楽に墜とされ始める。
私の身体はもうすでに抵抗することを放棄し、ただそれを素直に受け入れることしか出来ない。
「んっ…ちゅっ…ぷるぷる震えちゃって、とっても可愛い。そんなに、気持ちいいの?」
優しく見つめる坂上さんのことが、何故だかとっても愛おしくなってくる。
私に快感を与えてくれる彼女こそが、私を理解してくれる唯一の存在のような錯覚に襲われる。
彼女の紅い瞳に見つめられると、吸い込まれるように彼女だけに没頭してしまう。
「お耳だけでこんなになっちゃうんだったら、これ以上のことしたらどうなっちゃうのかな?」
これ以上のこと…とは一体どんなことなのだろうか。
両耳に執拗に与えられ続けた快感以上のことが、これから待っている?
彼女の言うそれが、なんとなく、どんなことなのか理解し始める。
きっとそれは、とても淫靡で、強烈な……。
それと同時に、それを強く拒絶する感情と、受け入れたい感情とで胸の中がぐちゃぐちゃになっていく。
「吸血鬼にとっての吸血って、勿論食事としての役割が大きいのだけれど、それだけじゃないのよね。私が詩葉さんを吸血鬼にした時の感覚、覚えている?」
真夜中の公園での吸血行為。
あの時の感覚をまじまじと思い出す。
それは、身体の芯から震えるような快感。
頭が白く弾け、お腹の奥の方からやってくる抗えない快感の濁流。
「思い出しただけで、イっちゃいそうでしょ?あれ、すごーく気持ちよかったわよね?」
これから、またあの快感を味わうことができる。
その期待感で、下腹部の辺りからきゅうっと締め付けられるような快感が昇ってくる。
私のそこは、しとどに濡れ……
「あれ以上の快感があるって知ったら、どう思う?」
あれだけ壊滅的で破壊的な快感、身体ごと全て作り替えられるようなそれを超える快感がある?
想像しただけで恐怖してしまう。
わたしは、そんな快感に決して耐えられる気がしなかった。
そんなものを与えられてしまったら、私は堕ちてしまう。
彼女自身に、堕ちてしまう。
「期待してるのね?ふふふ、でも、まだだめぇ。もっと気分を高めなきゃね?」
再び彼女は、私の耳を弄び始める。
強く、弱く、緩急をつけ水音が頭の中に浸透していく。
耳だけでもどかしい快感を与えられ続け、私の身体はどんどんいやらしく作り替えられていく。
胸を、触って欲しい。
背中を、触って欲しい。
お腹を、触って欲しい。
その下を、触って欲しい。
一度芽生えた欲望はとどまることを知らず、私の全身を苛んでいく。
もどかしい、ただもどかしい。
手足を鎖に繋がれているから、自分で慰めることもできない。
私は、全てを坂上さんに支配されながら、ただ耳元から与えられるもどかしい快感に打ち震えることしかできない。
「そろそろ、次が欲しい?欲しいよね?」
坂上さんの舌先から、つつーっと涎が零れる。
その雫さえ、やけに淫靡なものに感じる。
「欲しい、欲しいよ…」
私は欲望のままに、ただ彼女に懇願する。
「こんなもどかしいのじゃいやだぁ。もっと、もっと気持ちいいの頂戴…」
私の頬を、一筋の涙が伝う。
それは、一体どんな涙だったのだろう。
快楽を懇願する故の涙たったか、それとも、自分が超えてはいけない境界を今まさに超えようとしていることに対する悔恨の涙だったのか。
私はただ、坂上さんに与えられる快楽に屈服し、それを享受することしか考えられなかった。
ただ、身体の求めるままに肉欲を貪り尽くしたい。
理性なんてとっくに溶かされ尽くしてしまった。
淫蕩に初めてを散らすことを拒む正常な思考回路は完膚なきまでに壊されてしまった。
今はただ、全てをかなぐり捨て、坂上さんに抱かれたい。
坂上さんなら、私のことをこれ以上ないほどに気持ちよくしてくれるのだ。
彼女なら、私を天国に連れて行ってくれるのだ。
快楽には、抗えない。
私は目の前に提げられた甘美な餌に飛びつく浅ましい豚でしかない。
「それじゃあ、きちんとお願いしてみて?私の初めてを貰って下さいって。言えるかしら?」
それを言ったら、私はどうなってしまうのか。
わかっているからこそ、それを言いたくなる。
抗えなくなる。
私の大切な初めてを、誰か未来の愛するべき人のためにとってある初めてを、ただ目先の快楽の為だけに差し出してしまいたい。
ただ、気持ちよくなるためだけに、大切な処女を彼女に捧げるのだ。
なんて冒涜的で、恐ろしいほどに甘美なのだろう。
私は、坂上さんに……
「わ、私の……は、初めてを……貰って、下さいっ…」
言ってはいけないという意志に反して、その言葉はあまりに容易に私の口から零れ落ちた。
決してもう、取り返しはつかない。
「もう待てないの…!早く!お願い、坂上さん!」
私は、もうそこまでやって来ている快楽を目の前にして、形振り構ってなどいられなかった。
豪奢な餌を目の前にして、私の中の獣は淫らに涎を垂らす。
ああ、喪失とは、こんなにも度し難く、私の胸を高鳴らせる。
身を焦がす欲望が、燃え上がるのを感じる。
これから私は、坂上さんに抱かれるのだ。
残酷にも花弁を散らされ、ただ快楽の為に堕ちていく。
なんと背徳的で、抗いがたい甘美だろうか。
純潔の血を流すことで、至上の悦びを享受できる。
そうか、その血の滴りこそが、吸血鬼にとってはこれ以上のない……。
「よく言えたね。えらい、とってもえらいわ」
坂上さんは、涙を流し喜んでくれている。
彼女が頭を撫でてくれることが、嬉しくて堪らない。
彼女のひんやりとした手の平の感触をいつまでも感じていたい。
そう思えるほどに、そこに得も言わぬ幸せを感じてしまった。
私は彼女に、心の底まで屈服してしまったようだった。
つい先ほどまで憎かった坂上さんのことが、愛おしくて堪らなくなる。
この人こそが、私を愛してくれる唯一の存在なのだ。
私を可愛がって、受け入れてくれる。
これ以上ない快感を与えてくれる。
彼女こそが、私の待ち望んでいた存在だった。
それは、最初から彼女が言っていたことではないか。
何故私は、こんなにも簡単なことに気付けなかったのだろう。
彼女が、私にとって唯一無二の愛しい人だったのだ。
そんな彼女になら、初めてを捧げることさえも喜びに感じられる。
彼女に抱いて貰える事以上の幸せが、この世界に存在するだろうか?
私はもしかしたら、彼女に抱かれるために生まれてきたのかもしれない。
彼女の紅い瞳は、私を身体の芯から蕩かす魔力を持っていて……。
「詩葉さん、可愛い。可愛いわぁ」
ぎゅっと、強く抱きしめられる。
彼女のふくよかな胸に抱かれることが、ただただ幸せだった。
それだけで、至上の喜びを感じられた。
これ以上ない温もりを感じた。
「誓いの口づけを、貴女に捧げるわ。私は詩葉さんのものだし、詩葉さんは私のもの。これから未来永劫、貴女だけを愛すると誓います。ずっと永遠に、この場所で一緒に暮らしましょう」
私の初めてのキス。
それを彼女に捧げられる。
そしてこのまま、全ての初めてを彼女と迎えるのだ。
なんて幸せなことだろう。
なんて喜ばしいことだろう。
歓喜に身が打ち震えるのを感じる。
永遠とも思える一瞬の間を置いて、彼女の唇が、近づいてくる。
ゆっくりと、ゆっくりと吐息が掛かるほどにまで彼女の顔が近づいて。
やがて、私はそっと目を瞑る。
どくんどくんと高まる胸、上気する頬、震える肩。
そして、唇と唇の距離が、ようやく……ゼロになる、刹那。
突然の轟音が鳴り響く。
轟音とともに、やってくる激しい衝撃。
そして舞い上がる爆煙と、半壊する部屋。
私たちのすぐ傍、ほんの数メートル離れた場所に突如として出来た亀裂はそのまま屋敷の天井まで突き抜け、壁が豪快に崩れ落ち、穿たれた穴からは月明かりが覗いている。
「私のぉ!うたちゃんにぃ!何してくれとんじゃあああぁぁぁぁぁぁ!」
爆煙の中からもの凄い勢いで何者かが飛び出し、坂上さんへと飛びかかる。
じつに見事なドロップキックが坂上さんの横顔に炸裂し、彼女諸共、何者かが吹っ飛ぶ。
「お、お姉ちゃん?」
坂上さんを全力で蹴り飛ばしたのは、お姉ちゃんのように見えた。
どうしてお姉ちゃんがここに?
目の前で起きていることに理解が及ばない。
坂上さんと口づけをする寸前、鳴り響いた轟音と、半壊した部屋。
一体、何が起きているというのだろうか。
「詩葉、待たせてしまってごめんなさい」
遅れて舞い上がる煙の中から少女が現れる。
「もう安心して下さい。助けに来たのですよ」
月明かりを反射する銀色の長い髪。
私を見つめる少し眠たげな青い瞳はどこまでも澄んだ星空のようで…
「コメットちゃん!」
私はその名を叫んだ時、自然と涙していた。
その涙の奔流はとても温かく、心からの安堵を内包しているようで。
「うたちゃん、大丈夫!?」
続いて、お姉ちゃんが私に駆け寄ってくる。
先ほど坂上さんを蹴り飛ばしたのはやはりお姉ちゃんだったようだ。
「こんな、首輪に、手足まで鎖に繋がれて…酷い、酷すぎるわ…」
お姉ちゃんは、私の姿をまじまじと見ると酷く悲しそうに表情を曇らせる。
「これくらい、任せるのです」
そう言うとコメットちゃんの手から眩い光が迸り、私を拘束していた首輪や枷が一瞬にしてはじけ飛ぶ。
「な、何をしたの?」
「ちょちょいと改変してやりました。これくらい朝飯前なのです。それから…」
コメットちゃんは突然に、私のことを抱きしめる。
「コメットちゃん!?どうしたの?会えなくて寂しかった?」
甘えん坊さんなコメットちゃんも可愛いのだけど、急に抱きしめられるとちょっと恥ずかしい。
「ちょっと黙ってるのですよ…」
私の身体が、コメットちゃんから溢れ出す光で包まれる。
その光はとても温かく全身に浸透していき、まるで私の身体を浄化してくれているようで。
「これで、全部元通りなのです」
コメットちゃんはまるで天使のように笑っていた。
抱きしめられたことも相まって、私はその表情に少しきゅんとしてしまう。
「うたちゃん、立てる?」
「うん。何とか」
私は差し出されたお姉ちゃんの手を支えに、その場に起き上がる。
先ほどまでの余韻から全身に倦怠感があるが、お姉ちゃんが肩を貸してくれたおかげでなんとか倒れずにいられた。
「もうすぐで、詩葉さんを私のものに出来たのに……!」
お姉ちゃんに蹴り飛ばされた坂上さんが、這い戻ってくる。
その瞳は爛々と紅く燃えて強い怒りの色を湛えていた。
「邪魔しないでよ!」
坂上さんの叫び声とともに、空間がぐらりと大きく揺れる。
肌がぴりぴりとするほどの怒気が明確に伝わってくる。
私は彼女の剣幕に気圧され、思わず身を竦めてしまう。
「ここは私に任せるのです」
コメットちゃんが、余裕そうに私とお姉ちゃんを庇ってくれる。
私たちよりもずっと小さな背中が、どこまでも力強かった。
「坂上さん、ですね?貴女のことは少し調べさせて貰いました」
「突然現れてなんなのよ…私と詩葉さんの幸せを奪う権利は誰にも無いはずでしょ!?」
「屋敷を壊してしまったことに関しては謝るのです。上手く座標が指定できなくて突っ込んでしまいました。あとで修正しておくので許して下さい」
「黙りなさい!この邪魔者が!これから私と詩葉さんの大切な初めてだったのに!」
「全く、聞く耳持たないですね、この人」
肩を竦め、コメットちゃんは至って冷静に。
「貴女、本当は吸血鬼なんかじゃないですね?」
「な、何を!?」
コメットちゃんの言葉に、坂上さんは驚愕したような様子で。
「何を根拠に……?私は吸血鬼!だからこれまでずっと一人だった!吸血鬼だから、私は孤独に暮らしてきた!」
彼女は、心から叫び声をあげて。
「ようやく愛すべき人を、詩葉さんを見つけたのに!これから永遠に二人で生きようと誓ったのに!どうして邪魔をするの!?私たちは幸せになっちゃいけないっていうの!?」
半狂乱に、頭を振り乱しながら、坂上さんは涙を溢す。
その姿は、これまで見た彼女とは全く違っていて、触れば壊れてしまいそうな儚さを纏っていた。
「貴女の歪んだ愛情を押しつけられる詩葉が可哀想なのです。そんなものは人間だとか吸血鬼だとか関係なく薄ら寒いのですよ」
「私の愛を馬鹿にしないで……!いいわ。私たちの邪魔をするっていうなら、容赦はしない。今の私には力があるんだから……。貴女たちを殺して私は詩葉さんと一緒に生きる!」
その一言とともに、坂上さんは跳躍。
彼女の背中から禍々しい赤黒い翼が現れる。
さもそこにあるのが当然かのようにその羽は二度三度と羽ばたき、力を誇示するように大きく広げられる。
「この翼が見えるでしょ?これでも私が吸血鬼じゃないと言い張れるのかしらっ!?」
両の翼をはためかせ、坂上さんはコメットちゃんの元へと一直線に急降下する。
落下速度に翼の躍進力を加えた高速の攻撃が、コメットちゃんへと迫る。
「コメットちゃん!」
思わず悲鳴が零れる。
坂上さんの勢いは激しく増していくばかりだったし、それを受けてしまえばコメットちゃんの小さな身体なんてひとたまりもないはずだ。
目の前でコメットちゃんが倒れ伏すシーンを想像し、思わず目を背ける。
しかし、その後に起こったのは、そんな惨状ではなく。
「その力、消しちゃうのです」
コメットちゃんは、急降下してきた坂上さんの猛攻を片手で受け止めると、平然とそう言ってのけた。
そして、コメットちゃんの手からまた眩い光が迸ると、ゆっくりと坂上さんの身体を包み込む。
「何を……何を…したの?」
光が収まった後、坂上さんは、ただそこにへたりと座り込んでいた。
その姿は、先ほどまでの力に酔った様子ではなく、ただ一人の無力な女の子にしか見えなかった。
「いっちょあがりなのです」
ぱんぱんと手を叩き、さも一仕事終えたような風にコメットちゃんは。
「貴女の悪夢もこれでお終いなのですよ」
綺麗な青い瞳をにんまりと細めて、優しく笑って見せた。
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