第10話祝福と真紅の眼(後編)
妖怪達と遊んでいて一人この危険地帯に入ってしまったコノハ、とりあえずしばらくは動かずにとどまることにした。
「それにしてもこの不安な感じは何なの?何だかここから早く、抜け出したくなるような・・。」
その時コノハはハッと気づいた、今いる場所が九尾の言う「狼の地縛霊」が出る場所なのかもしれない。
「だったら、早くここから離れなきゃ!」
コノハは走り出した、早くこの不気味なエリアから逃げ出したい。しかし走れど走れど、不気味なエリアから抜け出せない。それどころか獣の唸り声が、あらゆるところから聞こえてくる。
「もしかして・・・、狼の地縛霊が私を狙っている!」
コノハは恐怖で走るのを止めた、すると二匹の狼がコノハを見つめていた。目は真紅で鋭く、今にもコノハに飛び掛かろうとしている。
「グルルル・・。」
さてほんの十分前、コノハと遊んでいた妖怪達がコノハの失踪に気が付いた。
「コノハさんがいないぞ!」
「何かあったのかな・・・?」
「僕、九尾様に知らせてくる!」
座敷童が九尾の所へ向かって走り出した、九尾は持ってきたシートの上でゴロンと寝ていた。
「九尾様、起きてください!」
「なあに・・・、こんなときに・・。」
九尾が無愛想に目を覚ました。
「コノハがいなくなった!」
九尾は「何だと!」と、一気に目を覚まして飛び起きた。
「何度もあの辺りを探しているんだけど、全然見つからない・・。一体、どうすればいいの?」
座敷童はすっかり、うろたえている。
「心配するな、私も捜すのを手伝おう。」
「ありがとう、九尾様!」
コノハの捜索に九尾が加わった、そして九尾には不安ながらもコノハがいる場所に心当たりがあった。
「この辺は彼らが見てきたがコノハはいなかった、だとすればもうあの場所しかない・・・。」
九尾はその場所を目指して、一気に走った。そして辿り着いた場所は、「危険、立ち入るべからず」と書かれた赤い看板が立っている、先へ続く道が見るからに不気味な場所だった。
「コノハ・・・・、無事でいてくれ!」
九尾は、凶暴な地縛霊が蔓延るエリアを進んでいった。
コノハは狼の地縛霊に睨まれ、一歩も動けなかった。
「来ないで・・・、来ないでよ!」
コノハの声は通じず狼の地縛霊は、一歩一歩コノハに近づいていく。
「グワーーーーー!」
そして一気に襲い掛かった、コノハはもうだめだと目を閉じた。
「地縛解放殺!」
突然、一つの閃光が狼の地縛霊に降り注ぎ、狼の地縛霊は悲鳴を上げる間もなく消滅した。コノハが目を開けると、九尾とおもしき影があった。
「・・・・九尾さん、助けに来てくれたんですね!」
「ん?私は九尾ではない、稲荷だ。」
コノハを救ったのは九尾と同じ狐の妖怪だが、全身が純白で尾が一本しかない。
「稲荷さん・・、助けていただきありがとうございます。」
「それにしてもあなたはどうしてここにいるのですか!ここが危険な場所だと知らなかったのか!」
稲荷は突然怒鳴った。
「すみません、かくれんぼをしていたらいつのまにかここにきてしまって・・。」
「なるほど・・・、なら私が出口まで案内してあげよう。」
「ありがとうございます!」
「決して私から離れるな、いいか?」
「わかりました。」
コノハは稲荷に導かれ、エリアの出口を目指した。
一方コノハを探していた九尾は、次から次へとくる狼の地縛霊に悪戦苦闘していた。
「こいつら、本当にしつこいな・・。」
九尾は狼の地縛霊から逃げつつ、隙あらば火球を投げ追い払っている。
「うわっ!これは不味い・・・。」
九尾は前後を挟み撃ちにされた。
「こうなったら・・・、地獄招来炎!」
九尾の周りから地獄を思わせるような炎が出て、狼の地縛霊を焼き払っていく。
「よし!後はコノハさえ見つかれば・・・。」
九尾は走りながら呼びかけていると、「九尾さん~!」と呼ぶ声がした。
「あっ、この声はコノハか!」
九尾も「コノハ!」と呼ぶ、すると九尾の目の前にコノハと稲荷が現れた。
「九尾さんーー!」
「コノハッーーーー!」
九尾とコノハは、互いにがっちりと抱き合った。
「コノハ、ここに来ちゃいけない事を忘れたのか?」
「ごめんなさい・・・、でも稲荷さんに助けてもらったんです。」
「ん?コノハが九尾の知り合いだと・・・?」
「稲荷、嫁が世話になった。本当にありがとう。」
九尾が稲荷に頭を下げると、稲荷はハッとした。
「そうか!コノハが噂に言う、九尾が百年ぶりに嫁にした女か!」
「ああ、あの時お前は豊作の祈りをしていたから、祝いの宴に来れなかったんだ。」
「九尾、お前大事な嫁をほったらかしにして、何してたんだ?」
問い詰める稲荷に、九尾は何も言えなかった。
「もし私が見つけるのが遅かったら、あの女性のような目に遭っていたかもしれなかったんだぞ!」
「あの女性とは、誰ですか?」
コノハが稲荷に質問した。
「ああ、そういえば言ってなかったな。実はこの近くで一人の女性が狼の地縛霊に襲われてな、腕や足から血を流して死んでいた。」
九尾はハッとして、稲荷に言った。
「その女性の所へ、連れってくれ!」
「何?、そいつの事知っているのか?」
「私の・・・、本当の母だと思います・・。」
コノハがぽつりと呟いた。
「何だと!」
「ああ、金に困っていてな、昨日この山の翡翠が採れる洞窟の事を教えたんだ。」
「そうだったか・・、なら特別に見せてやろう。」
稲荷は九尾とコノハを、死体がある場所へと案内した。
「あそこだ・・。」
「やはり・・。」
「・・・・お母さん。」
そこには登山に行く服装で倒れている、園美の姿があった。その周りは、
血で地面が染められている。
「園美さん・・・、やはりあなたをここへ行かせるべきじゃなかった。」
「九尾さん・・・、後悔しているの?」
「そうか、コノハは元々母の愛情を知らなかったからな。」
「違うの!私はただ、園美からこれっぽっちも愛を受けてないだけ。どうして九尾が後悔しているのか知りたくて。」
「よくない事を考えてしまい、申し訳ない。実は利恵子の事が気がかりでな。」
「利恵子・・・、もしかして園美の娘?」
「ああ、きっと今頃園美を待っているだろう。」
「だったら早く家へ行かないと!」
「そうだな。稲荷、出口までたのむ。」
「よかろう。」
コノハと九尾は、稲荷の後に続いた。
その後九尾とコノハは遠足を終え、早急にコノハの実家に向かった。しかし園美は玄関の鍵をかけ忘れたようで、家の中に利恵子の姿は無かった。園美の遺体は通報され駆けつけた警察によって発見され、野犬に噛まれ転落した事故と処理された。幸い利恵子は園美を探し、泣きながら歩いていた所を保護され、児童養護施設で暮らすことになったそうだ。
その夜、コノハと九尾は夜空を眺めていた。
「利恵子ちゃん、、可哀そうだね・・。」
「ああ、でもこれからどうなるかはわからないさ。」
「私もこれからが心配だな・・。」
「まあ今は、今日ここにある幸せを感じよう。」
コノハは頷いた。人と妖の暮らしに幸あれと、夜空の月が白く光っていた。
九尾の山男 読天文之 @AMAGATA
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます