第8話救済の甘言

 コノハと九尾が一緒に暮らすようになって、五年が経った。コノハも立派な高校生、電車通学でデザイン専門の高校に通っている。そのため妖怪達や九尾よりも早起きになり、朝食を食べて家を出る。そして中学に入学したころから使っている愛用の自転車で、山を降りて駅へ向かう。コノハが家を出た後、九尾が起きてきた。

「コノハは、もう学校か・・・。」

「うん、コノハちゃんすっかりお姉さんだよ。」

 妖怪達はすっかりコノハと親しい関係になっていた。

「そういえば明後日だったな。」

「なんですか?」

「コノハの誕生日だ。」

「あら、もうそんな日なの?何か贈り物を考えないと。」

 ろくろ首が長い首を、輪っかにして考えている。

「わしの小豆はどうだ?」

「いや、ここは私の傘だ!」

「お菓子が一番だよ。」

「じゃあ、僕はコノハちゃんの背中の垢舐めてあげる。」

 小豆洗い・唐傘お化け・座敷童・あかなめがわいわい、コノハの誕生日プレゼントについて話し合っている。

「ははは、こりゃ賑やかなことになりそうだ。さて、私も行くとしよう。」

 九尾は作業服に着替えた男に化けると、仕事に行った。九尾がしているのは林業の仕事、木を伐採したり下草を刈り取ったり、山を保全することをしている。九尾は自分の地域に関わることができるので、この仕事に満足している。ちなみに昼のお弁当にはいつも、いなり寿司を入れている。仕事が終わると徒歩で帰るのだが、この日はちょっとした出来事があった。人に化けた九尾の前に幼い少女が現れた、見た目からして五歳といったところだ。

「おや、迷子かな?」

 少女は「ママ~!」と連呼している。

「君、母さんとはぐれてしまったのかい?」

 少女は頷くと、大粒の涙を一粒流した。

「よし、私が付いているから一緒に捜そう。」

 すると向こうから母親と思われる女性が走ってきた、九尾は「あっ、ママだ!」と少女に言った。

「ママー!」

 少女は母親に抱き着いた、九尾はその母親に見覚えがあった、あの梨乃吉園美だ。

「あの、園美さん。」

「えっ!どうして、私の名前を・・・。」

「覚えてないですか?私ですよ。」

 九尾は元の姿に戻った。

「あっ、九尾さんでしたか。いつもご迷惑をかけております。」

「いえいえ、気にしないでください。勝次さんは元気ですか?」

 すると園美は、少しの間黙ってしまった。

「ん・・・?どうかしましたか?」

 すると園美は、九尾の耳に小声で言った。

「明日、相談したいことがあるので、あなたの家に伺ってもいいですか?」

「ええ、いいですよ。コノハがいない時間がいいと思います。でも場所は分かりますか?」

 そして園美は続けて、

「実は一度だけ覘いたことがあるの、このことはコノハには内緒だよ。明日の十時に来るから。」

 と告げた。九尾が頷くと園美は少女を連れて去って行った。

「一体、何があったのだろう・・・・。」

 九尾は疑問を持ちながら、家に帰った。夕食の時にこの件を話そうと思ったが、一緒にいるコノハに悪いと感じ、この件は胸に秘めることにした。

「みんな、話しておかなければならない話がある。」

 コノハや妖怪達が、九尾の方を向いた。

「実は明日の午前十時に、お客様が来ることになった。悪いが明日の午前中だけ、みんなここから出て行ってほしい。」

「それはいいけど、人がここに来るなんて珍しいなあ。」

 唐傘お化けが言った。するとコノハが、

「誰が来るんですか?」

 と言った。九尾はドキッとしたが咄嗟に「ああ、仕事場の仲間が遊びに来るんだ。」と嘘をついた。

「そうなんだ。」

 このあとコノハは特に追及することはなかった。

 そして翌日、九尾は朝食を食べ終えると妖怪達を見送った。この日は仕事が休みなので丁度良かった。

「じゃあ、後でな。」

「おう、よろしくな。」

 妖怪達がいなくなり、この家の住人は九尾だけになった。九尾はとりあえずのんびり待つことにした。そして一時間後、玄関をノックする音がした。

「来ましたか。」

 九尾は玄関に行って扉を開けた、そこにいたのは園美と昨日会った園美の娘がいた。

「すみません、利恵子が連れていってとうるさくて・・・。」

「利恵子ちゃんですか、いい名前ですね。ささ、お上がりください。」

 園美と利恵子は初めて、九尾の家に入った。

「広い家ですね、一人暮らしですか?」

「いいえ、いつもは他の妖怪がいますが、今日は外に出て行ってもらっています。」

 園美はああ、と頷いた。九尾は園美と利恵子を椅子に座らせ、自分と園美にはお茶を、幼い利恵子にはりんごジュースを用意した。

「して、私に相談と言うのは何ですか?」

「お願いします、お金を貸してください!」

 九尾は園美の言葉に、唖然とした。

「まさか妖怪である私に頼むとは・・・、ですが人に貸せる程の金はありません。」

「でしたらとにかく金になる話はご存じでしょうか?ぜひ教えてください!」

 園美は椅子から降りて五体投地した、九尾はなおも唖然とした。

「わかりました、まずは落ち着いてください。」

「あ・・・、私としたことがつい・・・。」

 園美は恥ずかしそうに体を起こし、再び椅子に腰掛けた。

「ではまず、あなたがどうして金に困るようになったしまったのか、訳を聞かせてください。」

 九尾が言うと、園美は泣きながら言った。

「勝次がいけないんです!あいつは新しい事業を創めました、去年までは上手くいっていたようですが、やがて取引先とのトラブルや社員らへの不当な行為などが明らかになって、評判を落とし去年の十一月に倒産しました。それだけならまだいいんですが・・・・。」

 園美は五秒間の沈黙の後、突然テーブルを殴りながら叫んだ。

「浮気していたんです!私より年下の奴と・・・。」

 園美は泣きべそを掻いた、九尾はポケットティッシュを園美に渡し同感した。

「しかも、そいつとは借金していたようで・・・、その保証人が私だったんです!」

「何て奴だ!聞いててむかむかする。」

「そして勝次は逃げました・・・。もう、信じられない!」

 園美は泣きっぱなしで、目が赤くなっている。

「それでこれからは借金を返済して、利恵子と二人だけで生きていきたいです。そのために、金が必要なんです!」

 すがりつくように言う園美だが、やはりコノハの事は眼中に無いようだ。

「わかりました、とっておきなのがあります。しかし、かなり危険な内容ですよ・・。」

「覚悟はできています、教えてください。」

 園美の真剣な表情に、九尾は腕を組みながら答えた。

「この山の隣に人目に付かない洞窟があります、その洞窟は人一人しか入れませんが翡翠がたくさん採れます。翡翠が採れたら私の所へ持ってきて下さい、知り合いの原石コレクターに買い取ってもらいましょう。」

「その知り合いは、原石のバイヤーなの?」

「そうです、私も金に困った時はお世話になりました。今、地図を持ってきます。」

 九尾は席を立つと、書斎に行って地図を持ってきた。

「この隣の山の頂上付近のこの辺りにその洞窟があります、しかしここは地域の山に慣れている住人ですら立ち寄りません。」

「わかりました、でも金を手に入れるためなら何ともありません。」

 園美は胸を張ったが、九尾は不安だった。その後園美は九尾から地図を借りると、利恵子を連れて帰って行った。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る