第6話九尾の秘密と呪詛(中編)

 翌日、黒羽と一緒に学校へ向かうコノハの顔は暗かった。いつも通り、北野らからの酷いいじめが待っている。そう思うと、九尾の家に居たくなる。学校に着き教室に入り、教科書一式を机の中へと入れた。ところがが今日は北野らが絡んでこない、でも学校には来るのでどこかの時間でいじめられるだろう・・・・、コノハはそう思っていた。朝礼が始まり生徒全員が海山先生に礼をすると、海山先生の口から驚きの情報が来た。

「実は昨日、北野正子が行方不明になった。警察が捜索しているが、見つかってはいない。」

 コノハはえっ!!と驚いた。

「誰か北野を、最後に見た者はいないか?」

 取り巻きの一人が名乗り出たが、下校中一緒に歩いて途中で別れたという、ごく当たり前の内容だった。

「先生、北野は大丈夫なんですか?」

 取り巻きの一人が言うと海山先生は、苦い顔でこう言った。

「これは警察の見解なんだが・・・、北野は誘拐された可能性がある。北野の家は大金持ちだし、北野が下校の時に通る道で彼女のランドセルが見つかった。ただ疑問なのは、なぜ彼女が身ぐるみはがされたかだ。」

「どうして身ぐるみはがされたと分かったんですか?」

「ランドセルと一緒に服が見つかったからだ。」

 それからクラスでは、北野の失踪について盛り上がっていた。犯人は誰なのか?その目的は何?、しかしコノハはそんなことなどどうでもよく、ただほっとした学校生活が送れるということに喜んでいた。

 その日コノハは彩の家へ遊びに行く約束をした、彩の家は昔ながらの駄菓子屋で小学生達のたまり場になっている。九尾の家に帰ると、荷物を置いてすぐに彩の家に向かった。九尾に出会う前にはできもしなかったことだ。彩の家では小学一二年の子供たちが、棚に並べられたお菓子を前にはしゃいでいる。

「彩、いますか?」

 コノハは彩の祖母の冨美に尋ねた。

「いるよ。彩、友達が来たよ。」

「あ、コノハ!来てくれてありがとう。二階へ行こう。」

 それからコノハと彩は二階で、お菓子を食べながら談笑していた。

「そういえば、お婆ちゃんのお姉さんが九尾の嫁になったという話を聞いたけど、お姉さんって正直九尾の事、好きだったの?」

 コノハが質問すると、彩は微妙な顔になった。

「好きだったというか・・・、恋愛してたんだけど、半ば強引みたいな感じ?」

「どういうこと?」

「うーん、あっ婆ちゃんに聞いてみよう。」

 彩とコノハは二階に降りて、店番をしている冨美に声をかけた。

「お婆ちゃん!コノハにあの話、聞かせてよ。」

「あの話というのは、九尾のことだね。・・・・・悪いけど、この話はあまりしたくないんだ。何しろ、他人には話すべきものではないからね。」

 冨美が言うと、コノハはもじもじしながら言った。

「私・・・、今九尾と暮らしているんです。」

 すると冨美の目が光った。そして声色を変えてコノハに尋ねた。

「本当かい、嘘じゃないだろうね!」

「本当です、二十歳になったら結婚するつもりです。」

 冨美は沈黙した後、店番を彩に任せて自分の部屋へコノハを入れた。

「まさか煉狐の大将が姉さん以外にほれこむとはねえ。いや、姉さんもあなたに似た性格だから好きになったのかもしれない。」

「それで聞かせてもらってもいいですか?」

 コノハの問いに冨美は頷いた。

「あれは私が今のコノハぐらいの年の頃だった、四つ上の姉さんと一緒に歩いていると突然、九尾が現れた。そして九尾は姉さんに、『貴方に惚れた、結婚して下さい。』と言った。姉さんは怖くなって走り去っていったが、九尾はめげずに追いかけた。そして九尾は姉さんに抱き着くと、一言話してそのまま去って行った。姉さんは動揺していた、だから後で何を言われたのか尋ねたら、『また会いましょうと言われただけ・・・けどその声は、以前に道に迷ったときに助けてもらったあの彼だった。』と言った。どうやら姉さんは初恋の相手が化けた九尾だと悟ったらしい。それから九尾は何度も化けては、姉さんを助けてきた。姉さんもそんな九尾に惚れこんでいき、私は『姉さんが九尾と一緒になれたらなあ・・。』と思っていた。」

 冨美はここで一息ついた。

「でも姉さんには許嫁がいた、私の家は当時名の知れた会社で姉さんは同業者との関係を強くするため、同業者の御曹司との結婚が決まっていた。そして九尾は御曹司が参加していた誕生日のお祝いに化けてきた、そして姉さんから許嫁について知ると、御曹司に『別れないと、呪う。』と迫った。すると父が九尾を庭に放り投げ、『二度と来るな、愚者めが!』と鬼の形相で怒鳴った。化けの術も解けた九尾は、すぐに逃げて行った。」

「でも、九尾は諦めなかったんですね。」

「ええ、ある日九尾は父宛に『明日長女を渡せば幸福が、渡さなければ不幸が来る。』という手紙を渡した。父は本気にしてはいなかったのですが念のため、腕っぷっしの強い男達と偉い僧達を一日だけ雇って、家を守らせました。ところが翌日、家には何事も無かったが、許嫁の家が火事になって一家全員焼死したという知らせが届いた。」

「嘘・・・、あの九尾さんが・・・。」

「ああ、その翌日には『邪魔者は消した、長女を渡してほしい。』と手紙でつたえた。そして結婚が白紙に戻ったのと父親が九尾に恐れおののいたため、姉さんは九尾の嫁になった。」

 九尾の裏の性格、「嫁のためなら、どんなことでもする。」という精神にコノハは、正座している足が震えているのを感じた。

「その後、姉さんはずっと九尾の嫁のままでいたのですか?」

「いや、最終的には帰ってきた。私が『母さんが病気になった、家に戻ってきて下さい。』という手紙を書いたのがきっかけだった。姉さんから『必ず戻ってくる。』という返事を受け取ったけど、それに父が『家に戻りたいなら、九尾と別れなさい。』と返事を出したの。」

「私、冨美さんの父の気持ちわかります。だって、何するか分からないでしょ・・?」

「まあ許嫁一家を殺した一件と、妖怪というありえないものを家に入れるのは世間体に悪いということもあったしね。姉さんは九尾に別れを告げた、九尾は『好きにしてもいい、だが私はいつでもそなたを見守っている。』と告げて姉さんを解放した。それから姉さんは、九尾や妖怪達と過ごした日々を私に語るようになった。そして姉さんは死に際に「九尾が来たら、私の髪を渡してほしい。」といって亡くなった。私が九尾に姉さんの髪を渡すと、九尾姉さんの死を悟り涙をこぼしながらも無言で去って行った。これが私の姉と九尾の物語だ。」

 コノハは冨美の話を聞いた後、「九尾って少し怖いなあ・・。」と感じつつも「やっぱり、優しいんだな。」と感じた。そしてコノハは彩の家から出ると、真っすぐ家に帰って行った。




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