第4話不思議な日々の幕開け
コノハは翌日の朝になるまで、ぐっすり眠っていた。目が覚めた時、時計は午前六時を示していた。
「うわあ、寝坊だ!」
コノハは飛び起きて服を脱ぎ、着替えて洗顔した。するとろくろ首が声をかけた。
「おはようございます、女将さん。朝食の用意が出来ました。」
「うわあ、・・・ありがとう・・。」
コノハは急いで学校の準備をすると、朝食を急ぎ目に食べた。
「そういえば、九尾さんは?」
「山菜を取りに行きました、もう戻ってくる頃です。」
すると玄関の扉が開いて、「ただいま!」という声がした。コノハが出るとそこには、少し太めで作業服姿の男がいた。
「どちら様ですか?」
「ああ、この姿を見せるのは初めてだったね。」
すると男から煙が出て、九尾の姿になった。
「あっ!もしかして、化けれるの?」
「狐には当たり前の事だ。それよりコノハ、そろそろ学校へ行く時間じゃないか?」
「あっ!でも、ここからどう行けばいいのか・・・。」
「心配するな。頼りになるカラスがいる。」
九尾は口笛を吹くと、一羽のカラスが現れた。そしてカラスは、山伏の服装をした妖怪になった。
「こいつは黒羽、こうみえて烏天狗だ。」
黒羽はコノハよりも背は高く、九尾よりは低い。
「こう見えては余計です!・・あっ、失礼。」
黒羽は咳払いをした。
「あなたが送ってくれるの?」
「はい、お任せください。」
「ちなみに帰りも黒羽が迎えに来る。コノハ、支度はいいな?」
「はい、出来ています。」
コノハはその場を少しの間離れて、荷物を持って戻ってきた。
「さあ行くぞ、ついてきてくれ。」
コノハは黒羽に連れられて外へ出た、すると黒羽は風を起こしてコノハを宙に浮かせた。
「うわあ!」
「さあ、行きましょう。普通に歩くようにしてください。」
コノハが足を出すと、不思議なことに落ちる感覚が全く無い。
「何これ!凄い。」
「天狗の妙術です、ほらみえてきたでしょう?」
コノハが空を歩いていると、学校が見えた。
「黒羽さん、あの電柱の所で下ろしてくれませんか?」
「どうしてです?このまま学校まで行ってもいいのですが・・。」
「ちょっと恥ずかしいし、みんな驚いちゃうもん。」
「左様でございますか、それではここで下ろします。」
黒羽はコノハを地上に下ろした、コノハは黒羽に手を振るとそのまま、学校へと走っていった。
学校へはギリギリ間に合った。そして放課後、コノハは彩に昨日の事を話した。
「すごいね!私も参加したかったなあ・・。」
「私、妖怪って怖いものかって思ってたけど意外と明るくて、優しかった。」
「そうなんだ、それで九尾はどんな感じだったの?」
「優しくて、何でも出来るということ。何より私を無視しないという事かな。」
コノハはその日、九尾と妖怪達のことで頭がいっぱいだった。そして彩と下校していた時、黒羽が迎えに来た。
「えっ!何?からす?」
「黒羽さん、烏天狗なんだ。私はこれで失礼するね。」
「さあ、行きましょう。」
黒羽とコノハは宙に浮くと、そのまま家へと向かって行った。彩はそれを見て、驚くばかりだった。
「ふふ、彩の顔。」
「どうなされました?」
「すごく驚いていたから、笑っちゃった。」
「女将さん、家に着いたらぜひ風呂に入ってください。」
「風呂があるんだ。」
「着いたら案内いたします。」
コノハは家に着くと、自分の部屋に行き荷物を降ろして、着替えと石鹸を用意した。
「できたよ、黒羽さん。」
「それでは行きましょう。」
黒羽はコノハを庭の奥へと連れて行った、すると向こうから老婆がやってきた。
「おや、黒羽さんに女将さん。温泉ですか?」
「はい、でも行くのは女将さんだけです。」
「温泉!風呂じゃないの?」
「まあ、私は毎日使うので風呂のようなものです。」
「女将さん、九尾さんと幸せにね。」
そういうと老婆は去っていった。
「あのおばあさんも、妖怪なの?」
「はい、山の婆と呼ばれています。」
コノハは黒羽と一緒に、庭の奥の洞窟へと入っていった。するとその先には、湯気の立ちこめる不思議な場所が あった。
「うわあ!本当だ。」
「物はこの岩の上に置いておいてくれ、私はこれにて失礼する。」
「黒羽さんは一緒に入らないの?」
「私は一人のほうがいいです、あと女将さんと入るのはちょっと・・。」
黒羽は恥ずかしそうにその場を去って行った。そしてコノハは服を脱いで、体を洗い、温泉の中へと入っていった。そしてコノハは気持ちよさが全身に染みわたり、全身がとろけそうになった。温泉から出て着替えた後、洞窟の外に出ると座敷童が待っていた。
「女将さん、遊びましょ。」
「女将さんなんて・・・、コノハと呼んでいいんだよ。」
コノハは照れた。そしてコノハは、座敷童達と楽しく遊んだ。カルタに駒、けん玉と古風なものばかりだが、やってみるとこれが面白くて楽しい。
「ほっ、ほっ、ほっ。」
「すごいね、コノハちゃん。」
「そうかな・・・ありがとう。」
生まれた時から一人っ子で、親の愛を感じなかったコノハにとって、弟か妹ができた気分になった。その後コノハは宿題を済ませ、九尾と山の老婆が作った夕食を食べた。この時コノハの頭の中では、妖怪が「怖いもの」ではなくなっていた。
「九尾さん、どうしてここに家を建てて住んでいるの。」
コノハが九尾に気になっていたことを尋ねた。
「建てたというより、ここは廃墟だった。それを見つけた私が、住むために新しく直したのだ。」
九尾が言うと座敷童が
「それでね、家を直す時に僕たちの仲間が協力したんだ。そしたら九尾さんが、『ここを妖怪だけの家にしてもいいんだよ。』と言ったんだ。」
と続けた。
「でも直したにしては、ボロボロだね。」
「まあ、直したのは百年も前だからな。それに私は派手に飾るよりも、自然な方が好きなのだ。」
「私は、九尾さんと同じくこのままの方がいい。」
山の老婆が言った。何も気にせず、ただ自然なことを受け入れる九尾達に、コノハは好感を持った。
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