第3話妖の住まう家

「それでは、コノハをよろしくお願いいたします。」

「わかりました、任せてください。」

 園美は目障りなコノハが家からいなくなるというので、すごく晴れやかな笑みをうかべている。

「学校には今日一日休むと伝えましたので、コノハに色々教えてください。」

「承知しました。それじゃ行こう、コノハ。」

 九尾は昨夜コノハが荷造りした荷物を持って、コノハと一緒に家に帰った。コノハは何も言わずに歩くだけだった、不安で仕方がないのはもちろん何より、九尾という妖怪とずっと上手く付き合って行けるのかどうか、そればかり考えていた。すると向こうから「うわあーーっ!」という声がした。

「あっ、彩。」

「えっ、コノハ!その大きな狐は・・・・?」

「私、九尾と申します。コノハ様をご存じでしたか。」

「はい・・・。」

「私、九尾の嫁になったの・・・。」

「嘘!両親は止めなかったの?」

「うん、私両親から愛されて無かったみたい。だから九尾の嫁になったけど、・・・友達でいてくれる?」

 コノハは彩の顔を見て言った。

「もちろん、遊びにくるから!」

「九尾さん、いいよね?」

「もちろんですとも、そのかわり傷つけたらどうなるかな・・・?」

 九尾は半ば脅すように言った、そして彩と別れた。

 九尾の家はコノハの家のある所の近くの山の、人目に付かない中腹辺りにある。 コノハと九尾は山道を登っているところだ。

「あなたは静かな所で暮らしているの?」

「ああ、うるさいのは苦手でな。近道を知っているから、案内しよう。」

 九尾は横にそれた道にコノハを案内した、細くて獣道のようだ。そこを歩いていると開けた場所に、大きな家があった。ボロボロで年季のある家だが、大きさはコノハが前に住んでいた所より大きい。玄関に入ると座敷童が迎えてくれた。

「九尾様、その方が人間の嫁様ですか?」

「ああ、梨乃吉コノハというんだ。コノハと呼んでくれ。」

「初めまして、・・・・コノハです。よろしく・・・お願いします。」

 コノハは緊張で、挨拶が途切れ途切れになってしまった。

「緊張しなくていいよ、ここに居る妖怪は人を襲うことは無いんだ。」

「さあ、奥へとどうぞ。」

 座敷童がコノハを奥へと案内した。そこは宴会会場になっていて、様々な妖怪がコノハを見ていた。しばらくして九尾が部屋に入ってきた、そして妖怪たちに堂々と宣言した。

「みんな聞いてほしい、ついに百年ぶりに人の子を嫁に迎えた。これからは女将さんと呼ぶように、それでは紹介しよう。煉狐コノハだ。」

 妖怪たちは歓喜を上げ、盛大に拍手した。 

「あ、・・あの・・コノハです・・・今日から・・・・よろしく・・・・お願いします。」

 コノハの挨拶がまた、途切れ途切れになった。

「ハハハ!気楽に行こうよ。」

「女将さん、もっと堂々してていいんだよ。そうじゃないと、なんか安心出来ないんだな。」

 妖怪達がコノハの緊張を、ほぐそうと話しかける。

「さあ、そろそろ私特製のきつねうどんが食べたいだろう。今用意するから、待っててくれ。」

 九尾は席を外して台所へ向かった、そしてきつねうどんの準備にかかった。昨夜から早朝まで仕込んだうどんを茹でて、それぞれのどんぶりに盛っていき秘伝のツユを入れて、ネギとかまぼこと自家製油揚げを乗せたら完成だ。

「あの・・・、手伝うことはありませんか?」

 コノハが九尾の後ろから声をかけた。

「ああ、じゃあ具を乗せてくれ。ありがとな。」

 コノハは頷くと手を洗って、どんぶりに具を乗せた。そして人数分のきつねうどんが完成し、九尾とコノハが全員に一つずつ渡した。

「では、私とコノハの結婚に向けて乾杯!」

 九尾が乾杯の号令を上げると、妖怪たちも「乾杯!」と続き、きつねうどんをすすり始めた。

「美味い!この味だ。」

「さすが九尾さん、油揚げ料理なら天下一だ。」

 コノハもきつねうどんをすすった。

「凄く美味しい、お店より美味い。」

「そうだろ、でも料理はあまりできないんだよね・・。」

 九尾は照れ笑いをした。

 その後は余興の一発芸大会が行われ、色んな妖怪達の人間顔負けの芸が披露された。その時、座敷童がうっかりお手玉を落としてしまい、それがコノハの頭に当たった。

「あっ!ごめんなさい、女将さん。」

「まずいよ・・・、九尾を怒らせたかもしれねえ・・。」

「殺されるぞ・・。」

 妖怪たちがざわめく中、案の定九尾は座敷童を睨みつけた。

「いいんです、それにしてもお手玉上手ですね。」

「えっ、コノハ?気にしてないのか?」

 九尾はきょとんとしている。

「ええ、柔らかいから平気です。」

「そうか、コノハ。」

「座敷童さん、お手玉教えてください。」

「いいんですか?そんな恐れ多いこと・・。」

「女将さんが言っているんだ、教えてやれ。」

「わかりました。」

 コノハはお手玉をしている間、ずっと笑っていた。

「いい笑顔だ、これを見たのは百年ぶりだ。」

 九尾はコノハを見て和やかな雰囲気になった。一方のコノハも、両親と暮らしていた時には感じられなかった優しい気持ちに、心が震えていた。

 夜も十一時を過ぎ、コノハは眠そうにウトウトし始めた。

「おや、もう寝る時間か・・・。悪いが今日の宴会はこれにてお開きだ、皆さん今日はありがとうございました。」

「そうか、じゃあ帰るか。」

「じゃあ最後に、締めと行きますか!」

 九尾と妖怪たちは三三七拍子をした、この時コノハはすでに眠っていた。

「また女将さんに会いに来るからな。」

「楽しかった、じゃあね。」

 妖怪達が次々と帰っていった、九尾は寝ているコノハを抱えると寝室に向かい、自分の布団に寝かせた。

「今日は楽しかったな、でも面白いのはこれからだ。」

 九尾はコノハに囁くと、宴会の後片付けに向かった。 





 

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