『みんな、しんでれら』 《中編の中の上》
「きみたち、教授さんから、なにか特に聞いてるとか、預かってるとか、ないかなあ?」
初対面だというのに、明らかに上から目線なのは、気に入りません。
しかし、先輩だと言われると、まあ、しかたがないか、という状況にはなります。
けれど、そんなこと、そもそも、まったく忖度しないのが、みどりくんです。
「あなたが、それを尋ねる資格がある人だと、なぜ、判断できるんですか? 大体、あの方は、教授ではないです。その手前ですから。」
「あ、そりゃあ、失礼。でもね、状況を考えてみてほしいな。君たちの大切な先生が、空から落ちてきた物体に、殺害されたんだ。」
「その物体が、なんであるのか、あなたはご存じなんですか?」
みどりくんが追求します。
「君たちは?知ってるのかな?」
「知りません。」
ぼくが、先に応えました。
みどりくんも、ここは素直に、大きく、肯きました。
「そうか。残念だな。いやあ、まあ、判らないんだよ。まだね。まあ、常識的には隕石あたりなんだけどもなあ。」
「じゃあ、そうなんじゃないですか? それとも、秘密兵器だったとか? 防衛隊の?」
「いやあ。はははは、・・・いや、こんな時に、失礼しました。まあ、あんな凄いのは、ないなあ。君たちは、先生と近い存在だった。そうだよね。」
「やっぱ、すでに調べてたんだ。なぜ? ですか?」
ぼくが、尋ねました。
「いやあ・・・やっぱり、ぼくは、この仕事には向かないなあ。うん、そうなんだ。ここだけの話しだが。やはり、正直に言います。防衛隊は、君たちの先生の研究に関心を持っていた。それも、専門外だよね。先生には。なぜ、そんなことを熱心に調べているのか? 太陽と交信したいとか・・・」
「それって、まずいんですか?」
これは、みどりくんです。
「いやあ・・・ますます、追い込まれたかなあ。ぼくあ、ダメだなあ。いや、じつはね、・・・まずい。」
足立という、いかにも、二枚目詐欺師のような男は、わざわざ、声をひそめて言いました。
「非常に、まずい。これは、国家機密に類することなんだ。」
「そんなことを、学食で言いますか?」
みどりくんが、さらに追及します。
「まあ、そこは、裏をかいたつもりなんだがな。ここには、多くのスパイが入り込んでいる。国外からも。」
「あたくしが、スパイだとおっしゃるの?」
みどりくんが、やや、どすが効いた声で、尋ねました。
「いやいやあ。まさか。そういうことじゃない。某、仮想敵国が、そうした兵器の開発をしていることが疑われている。そこには、太陽が絡んでいるらしい。こりゃあ、とてつもない、機密事項だよ。先生は、どうやら、そこに気が付いておられたらしいのではないか。そう見ています。」
「いっちゃ悪いですが、先生は、あまり、そういうことには、興味がないと思います。純粋に、物好きですから。」
「まあ、学者さんは、そうしたものだ。ぼくも、片足、突っ込んではいたから。」
「あなたの、担当教師は、どなただったんですか?」
ぼくが確認しました。
「ああ。それね。もう、ここは辞職して、他所に行った。安中教授だよ。」
「おあ! あの、ノー・タス賞候補の?」
「まあ、そうだ。ここには、5年しかいなかった。確かね。」
「ここには、あまりに、レベルが高すぎたんだと、聞いてますが。」
「まあ、ご家族の関係があって、仕方がなかったらしいけどね。ご実家がこのあたりだからな。それで、納得したかな? 確認してくれて、いいよ。」
「いや、まあ。・・・・でも、ぼくらは、そうした話は、聞いてないです。」
「まあ、そうだろうねぇ。あ、でも、何か情報があったら、ぜひ、教えてほしい。きっと、警察にも聞かれるよ。でも、ぜひに、防衛隊の方に、先に知らせてほしいんだ。こいつは、はっきり言って、県警のレベルじゃないからね。あ、じゃあ、今日はこれで。お金はいいよ。ぼくの自腹だから。」
足立氏は、名刺だけ残して、さっさと、いなくなりました。
「どう、思う?みどりくんは?」
「ふうん・・・あやしい・・・あなた、さっきのバッグは?」
「ああ、身体検査の前に、中央会館のロッカーに放り込んだ。これ、キーね。」
「さっさと、回収しましょう。たぶん、全部見られる。」
「まさか。・・・・」
「いやあ、やる。きっとね。回収したら、どっちに行く?」
「え? きみんとこは、男子禁制だろう?」
「じゃあ、あなたのとこに、連れ込む?」
「いやあ・・・そいつは、まずいんだ。おばさんが見てるし。仕方ない、『バクハツ練習室』に行こう。」
「なんだ、それ?」
「馴染みの楽器屋さんの、貸し練習室だよ。通称『バクハツ練習室』。1時間、1000ドリムなんだ。電話してみる。あそこなら、男女ペアもよくありだ。防音が完璧じゃないから、楽器によっては、ちょっと、うるさい事がある。ときに、爆発的な音もする。そこが、いいところでもあるし。だから、安い。きみ、たしか、ピアノ弾けたっけ。」
「まあ、多少は。」
そこは、それなりの、経済力があるお家の、帰国子女さんである。
ただし、ここでは、平日は寮生活だ。
土日は、実家に帰っているらしい。
「よっしゃ。」
ぼくらは、立ち上がりました。
支払いは、確かに、済んでいました。
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