『みんな、しんでれら』 《中編の上》
しかし、先生と会うことは、もう、出来なかったのです。
まったく、あり得ないことでした。
講義を終えて、おしゃれなカバンを抱えて、キャンパス内を歩いて移動していた先生を、たまたま、落ちてきた隕石が、貫いたのです。
あまりに、凄惨な場面でした。
もと、先生だった物質は、すでに形を成してはいませんでした。
どんな独裁者でも、これだけの仕打ちはできないでしょう。
ぼくは、かなり離れた《学食》で、スープ・スパゲッティをすすりながら、本を見ていました。
みどりくんは、少し離れた高層校舎の大きな展望窓から、すべてを見てしまいました。
『どっか~~~~ん』!!!!
大きな音がして、キャンパスは大揺れしました。
幸いというか、奇跡的にというか、ちょうど、たまたま、時間が良かったのか、先生以外の学生たちなどには、被害は出なかったのです。
ただし、ガラスが吹き飛んだ教室は、いくらかありました。
********** ☆彡 **********
警察や救急隊だけではなく、ぼくは、それまで、あまり直に見かけることがなかった、機動隊もやってきました。
さらに、どうやら、『防衛隊』らしき姿も、そこには、ありました。
ばかでかい、ジープとか、中身の見えない車両も、来ていました。
普通の、キャンパス内の道には、収まりきらない、異様な大きさがあります。
国家の持つ権力というものが、目に見える形で現れる、判りやすい例です。
さすがに、戦車とか、ミサイルなんてもんは、いませんでしたが。
大学自治の意義を掲げて、権力の介入などは嫌いな、わが大学側も、受け入れざるを、得なかったのでしょう。
彼らは、規制線を張って、学生が近くには寄れないように、してしまいました。
もっとも、ぼくとみどりくんは、その前に、現場に入っていましたが。
地面に穴があり、先生だったものが、ばらばらになっていました。
あの、かばんも落ちていました。
「みんな、なんでも、どこも、アメリカ国に比べたら、ちゃちね。温泉以外は。」
みどりくんが、ぽつんと言いました。
そうとしか、言いようがなかったらしいのですが。
明らかに、彼女は、泣いていたのですから。
ぼくらは、現場から追い出されました。
道路の両側は、ちょっとした、茂みになっていて、大きな木も植えてあります。
で、ぼくは、ふと気が付いたのです。
その深い茂みの内側に、小さなカバンが落ちていました。
それは、見覚えがある、先生の小型の手提げでした。
「なんで・・・・」
ぼくは、それを拾い上げました。
みどりくんが、とっさに壁を作ってくれていました。
********** **********
そのあと、ぼくらは、みな、警察官に掴まりました。
大講堂に、連れ込まれました。
「きみたち、みたのか?」
放射線の計測とか、身体検査のようなことをされながら、突然、制服ではない、さわやかなスーツ姿の、まだ若い人が声を掛けて来ました。
「あ、ぼくは、ごめん、防衛隊の分析官です。この大学の理学部の出身です。まだ、使い走り程度ですが。」
身分証明書を見せながら、その人は言いました。
『足立 八三郎』・・・『防衛隊科学分析部隊 主任補佐分析官』・・・・・・
ふうん・・・・・。
「あ、へえ、先輩なんですか? スパイじゃないんですか?」
「ははは。ぼくらは、いつも、表舞台で、国民のお友達です。ああ。君たちは、どこの学部?」
「文学部。あの・・・先生の、ゼミ生です。」
「そりゃああ・・・・お気の毒に。」
まっさきに、他の学生には目もくれず、ぼくらを捕まえたところを見ると、明らかに、判っていて、狙ってきたに違いありません。
おろかで、あほなぼくですが、そのくらいは、判ります。
「もし、よかったら、ちょっと学食で話ししない?」
「あやしい、勧誘ですね。もし、よくなかったら?」
「まあ、後から、呼び出すかも。ただし、上の方がね。もっとも、人権問題があるから、非公式に。」
「よけい、よくないでしょ。そりゃあ、拉致ですよ。いいすよ。べつに。君どうする・・・無理しなくていいと思う。」
「いえ、無理してでも、話しをしたい。あまりに、理不尽です。学食なら、いいと思う。どこか、怪しい基地に連れ込まれるのは、いやですから。」
「そりゃあ、どうも。」
先生の奥様の姿が、向こうに、ちらっと見えました。
たくさんの人に囲まれていて、ぼくたちには、近づけそうにありません。
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つづく・・・・・
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