第8話来訪




 一台の馬車が初夏の日差しに照らされながら人気のない草原を走る。

 その馬車は黒をベースとしたデザインに金の龍を象った装飾がなされており、荘厳さがひしひしと感じられた。


「はぁ......」


「ルークさっきから何回ため息ついてるのよ」


「仕方がないだろ? なんで馬なんだよ。地龍なら一時間でつくのに」


「国の行事で出かける時には馬を使うっていう決まりがあるんだから少しは我慢しなさいよ」


 不満を漏らす水色の髪を持つ少年を目の前に座る金髪の少女が眉間に皺しわを寄せ注意を促す。


「まあまあ、僕たち三人は初めて乗るんだからエイミーも許してあげなよ」


 ル-クの隣にいるオレンジ色の髪のした少年がすかさずフォローをいれた。


「ほんとジョセフはルークに甘いんだから。アマギはルークの態度どう思う?」


「別にいいんじゃない......? 罰を受けるわけじゃないし」


「そしてあんたも相変わらず不愛想ね......」


 エイミーは無表情に返答する赤髪の美少女の様子に苦笑いを浮かべる。

 しかし、赤髪の美少女は気にする素振りを見せない。


「ほらみろ。あの師団長様もいってるんだぞ? もうお前には味方はいないぜ」


 勝ち誇ったように笑うルークにエイミーは顔をしかめる周りを見回す。彼女は観念したのか両手を挙げた。


「くっ...... 分かったわよ。私が悪かったですよ」


「分かったならよろしい」


「ふふふ」


「ジョセフどうした?」


 ルークは、突然笑ったジョセフに少し驚いた表情をしながら尋ねた。

 ジョセフは懐かしそうに天井をみる。


「いや、なんか出会った頃を思い出しちゃってさ。今はみんな出世して忙しいからみんなで集まることが無くなっちゃったけど、あの頃はこんな感じだったよね」


「そうだな...... あの頃は楽しかったな。下っ端だったからきつかったけど」


「あの頃のルークは今以上に無鉄砲だったわよね。敵軍の指揮官を見つけた途端に私の制止も聞かず飛び出して行った時は焦ったわよ」


「エイミーその節は申し訳なかった。俺はあの時アマギに助けられなかったら死んでたよ。アマギありがとな」


「当然のことをしただけ。気にしないで」


 各々思い出に浸り懐かしみ合う。

 彼らは同じころに騎士となり戦場で出会った。

 配属も同じで当時知り合いもいなかった彼らは共に行動するようになり、気づけば戦場でいくつもの武功を挙げ、いつしか勇名を轟かし出世していった。

 ルークは大隊長に。

 エイミー、 ジョセフは中隊長に就任した。

 三人は邪龍を単体で討伐した功で師団長に就任していたアマギの下に配属されることになりそれ以来アマギの部隊で活動をしていくことになり今に至る。

 だが、同じ配属とはいえ戦乱の真っ只中に友人として会う時間はなかった。

 こうして全員が友人として一緒に会話したのは半年ぶりとなる。


「じゃあそろそろ今回の任務の確認をしていい?」


「大丈夫だ」


 アマギの言葉にル-クは答えた。他の二人も頷いて了承する。


「今回はアルディエル牢獄の囚人と監獄の管理チェックを行うために視察をする。表向きにはね。本当の任務は囚人たちを傘下に収め、反逆を企てている『ギャレック=ヨースティン』の捕縛又は殺害。そして、今まさに傘下に取り込もうとしている少年の保護。この二つ。尚、少年はおよそ18歳。身長は約160cm。髪は黒髪。少年の保護は絶対。見つけ次第私に連絡して。以上だけど質問はある?」


 アマギの問いかけにエイミーが手を挙げる。


「私からいい?」


「なに?」


「少年の情報は結構具体的だけど情報源はどこから?」


「牢獄に潜り込ませているスパイからの情報」


「なるほど。分かったわ。ありがとう」


 エイミーは納得したような顔をすると笑顔で感謝を述べた。

 アマギは三人顔を見回す。


「それ以外に質問はない?」


 アマギは誰も何も言わないのを確認し何かを言おうとすると外から馬車を操縦していた御者ぎょしゃの声が聞こえてくる。


「アマギ様。只今アルディエルの樹海に到着しました」


「分かった。出るよ」


 馬車から降りるとアマギたちの眼前には様々な木々が怏々と生い茂る樹海が存在した。


「ここまでご苦労だった。少し時間はかかるが待っていろ」


「御意」


 アマギは感謝の言葉と指示を伝えると、樹海の前で待っているはずの案内役を探す。

 だが案内役は見当たらない。


「おかしい。ここで合流する手筈だったのに......」


 アマギが考え込むように口に当てる。

 重要な作戦には少しのずれが作戦を狂わせる要因になってしまうのだ。

 彼が現れないのはなにか問題が生じたのか、それとも......



 ーー 突然遠くから爆発音が聞こえてきた。


「今から至急牢獄に向かう」


「待てアマギ! この樹海は生命を吸うんだろ? そんな所を強引に抜けるなんて無茶だ! 」


「ルーク。誰も普通に抜けようとはいってない。専用通路を通る。もう場所は把握してる」


 焦って声を荒げるルークをもろともせず、冷静にアマギは答える。

 そして、アマギは大きく深呼吸をすると他の三人向けて告げた。


「今から任務を開始する」


「反逆者に裁きを」







 ギャレックは一人獄長室の椅子に座り何かを待っていた。


「来たか」


 ギャレックは自身に近づく“待ち人”の存在に気づく。

 刹那、周りの世界が赤黒く変化していく。

 同時に正面のドアが開き“待ち人”が姿を見せた。


「ようこそ。私の部屋へ。歓迎するよ」


 ギャレックは笑顔で“待ち人”を迎える。


「恩を返しにきた」


 待ち人、“ヤガミハルト”が笑ってそこに立っていた。

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