第4話 作業用の部屋で


 ガチャリ、パタン……。


「ここが作業用の部屋なんだけど、寝室も兼用なんだよね」


「タンスとかベットとかあるけど、そこはあんまり気にしないでいいから」


 よかったー。

 リビングと違って、こっちは大丈夫っぽいかも。


 たまたまだけど、ベッドメイクしてあるし!


 朝のあたし、マジ神!


「ん? どうかした? なんかぎこちなくない?」


「顔が赤い気がするけど、熱があるわけじゃないよね?」


 んー……?


 って、うわっ!!


 いま気付いたんだけど、あたし、寝室に男を連れ込んでる!?


 ってか、寝室に2人きり……、


「はっ、恥ずかしいから、そっちはあんまり見ないで! ここは作業部屋なの!」


 だから、アシさんと一緒に入ってもおかしくない!


 そうだよね! うん!


「あっ、えっと、うん。わかればいいの。べつに謝らなくてもいいから……」


 悪いのは、全部あたしなのに。


 焦って変なこと言っちゃったかも、


「それに、あんたならべつにいいって言うか……」


「――なっ、なんでもない! そんなことより、仕事をはじめるから! あんたはそっちの机だからね!?」


 やっば! 気を抜いて、本音が漏れちゃってた。


 ずっと焦りすぎだし。気を付けなきゃ。


 えっちな誘惑と、はしたないのは違う。

 新田さんもそう言ってたもんね。


 えっちに誘惑しなきゃ……、


「えっと、それでね? あたしって、アシさんを頼むのってはじめてなんだよね」


「だから、疲れたりしたら、すぐにあたしに言いなね?」


 あたしのベットで仮眠とかも、全然ありだから。


 一応、そういうのにも理解はあるし。

 ……ティッシュもあるし。


 なんて、言ったらさすがに引くよね。


「そっ、それじゃあ、急ぎ気味でここの背景を描いてくれる? その出来をチェックして仕事を割り振るから。いい?」


「ん。よろしく。あたしはあたしで原稿してるから、出来たら呼んで?」



「ん。それじゃあ、よーい。スタート!」




☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★




「ん~? どうかしたー?」


「……え? もう出来たの!? すごっ! 早いじゃん!」


 えっちな漫画に憧れてるって言ってたけど、実力もあるんだ。


 あたしが言うのもなんだけど、ほんとにすごいじゃん。


「えっと、どれどれ……」


 ん……?


 えっと、これって……、


「もしかしてなんだけど。あたしのベッドを参考にして描いたりした?」


 フレームの形も、布団の色も一緒だし。

 自意識過剰ではないよね?


 ベッドをマジマジと見られてたって思うと、さすがに恥ずいっていうか、えっと……、


「ん? 無意識?」


 無意識であたしのベッドを描いちゃったの?


「そっ、そうなんだ。ヒロインが縛られるベッドを無意識であたしのベッドに……」


 これってさ。つまりは、そういうことだよね……?


 あたしとヒロインを重ね合わせたいって無意識で思った。

 そういうことでいいよね!?



「……へんたい」



 どうしよう。すっごく嬉しいんだけど。


 あれ? あわあわしてる?


 もしかして、へんたいって言われて喜ぶタイプじゃなかった?


「ふふ、うそうそ。へんたいは冗談だから、気にしなくていいよ」


 あたしとしては、喜んでくれると思ったんだけど……。


 とりあえずいまは、仕事に集中した方がいいかも。


「トーンの使い方は問題ないし、線もキレイ。背景はすべて任せていい?」


「ん、よろしくね」


 ドキドキとかそういうのは別で、本当に嬉しいかも。

 頼りになる男の人って、やっぱりかっこいいし……。


 あっ、そういえば、もう1つ解決しなきゃダメなのがあるんだった。


「あと、セリフを悩んでる部分があって。その相談もしたいんだけど――」


 !!!!


 あたし、いいこと思いついちゃった!

 もしかしたら、あたしって天才なのかも!


 でも法律とかギリギリ?

 普通にアウト……?


「あっ、えっと、ちょっとだけ待ってね。ほんのちょっとだけでいいから」


 法律……、ゆうわく……。


 ちょっとくらいなら、いいよね?

 なにが起きても自己責任って、最初に言ったもんね?


 うん。あたしは悪くない!


「えっとね? あんたにしな出来ない仕事を頼みたいんだけど……」


「耳、貸してくれる?」




『あたしと一緒に、ベットに入って……』



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