第2話 約束を守ってくれたら……

「ん? アシスタントの秘密保持契約?」


 だから、学校とか周囲に広まる可能性は低い?


 うん。それは、そうなんだけど、


「えっと、意味はわかるよ? でもさ、それって2人でえっちな漫画を描くのは変わんないでしょ?」


「男の人と2人でって、万が一のことがあるかもじゃん」


 別に信用してないとかじゃなくて、一般常識的にね。


「えっちな漫画って、ほら、……むらむらじゃん?」


 そうなるために描くんだし。


 普通はダメじゃない?


「ん? ──ちょっ! ちょっと待って! 本望でしょって!!」


 新田さん! なに言っちゃってるの!?


 え? ちょっ、ちょっと待って!


 なんで――


「あっ……」


 そういえば、打ち合わせの時に……。


 そっか。


 ……うん。あたし、相談しちゃったかも、新田さんに。


「えっとね? 相手は間違ってないよ? 間違ってないんだけど……」


 だからダメって言うか。

 暴走しそうなのは、あたしって言うか……。


「ん? 2人きりの、チャンス?」


 うん。それはたぶん、そうなんだと思うけど……、


「なんか、卑怯じゃない?」


 仕事だからって言って、あたしの家に入ってもらうんでしょ?


 それも、ふたりきりで……。


「ん? ふたりきりの行き着くさき?」


 それって。つまりは、そういうことだよね?


 あたしが描いてる漫画、みたいな……。


「でも、それってさ」


 あたしが頑張れば、いけるの?


 頑張れば……。


「えっと、いってみたい、けど……」


 ……うん。


「え? 他にアシさんがいない? ……そっ、そうだよね! ほかに頼れる人がいないんだもんね!」


 それなら仕方ないよね!


 うん!


 ふたりっきりだけど、仕方ないもんね!


「わかりました! 頑張ります!」


「あっ、漫画を! 漫画を頑張ります!」



 ……うん。


 がんばろう。まんがを。




「……ごめんね。いろいろ、行き違いがあったっぽくて。編集さんと話はついたから」


 やばい、どうしよ。

 すっごくドキドキしてきた。


 とりあえず、部屋に入ってもらわないとどうしようもないよね?


「これからどうするかの話をしようかなっておもうんだけど、聞いてくれる?」


「いい? うん、ありがと」


「ホントはお茶がいいんだろうけど、そんなのないんだよね。ジュース……は、なにかあったかな? まあいいや。はいってはいってー」


 大丈夫、おちついて、いつものように。


 余裕のある大人はえっちに見えるって、先輩のえっちな漫画家さんも言ってたし。



「あっ、──でも、その前にひとつだけ忠告していい?」



 ほんとは言わない方がいいんだろうど、これだけはどうしても。



「ここから先はアンタの意思で入ってくれないかな? えっと、なにが起きても自己責任ってことで」


「理由は、えっと、言えないんだけど。来たら後悔するかも」


 断られたら、あたしが後悔するんだけどね。

 でもやっぱり、危険って言うか。


(あたしが我慢できなくなって手を出しちゃっても。自己責任だから)


「ん? なっ、なんにも言ってない! あんたの気のせいだから!」


 やっば! ウソでしょ!?

 小声で言ったのに聞こえてたの!?


 でも、全部は聞こえてなかったみたいだし、大丈夫、かな?


「えっと、最終確認なんだけど。本当にあたしのアシスタントになってくれる?」


 あたしがえっちな漫画家だって言うことは承知してると思うし。

 聞こえてても聞こえてなくても、自己責任だから。


 あたしも頑張るけど、どっちの方面で頑張るかって聞かれると……。


「ん? あたしのためならどんなことでもする覚悟で来てる? そっ、そうなんだ。えっと、その、ありがと」


 なによ。普通にかっこいいじゃん。


 ほんとに危ないんだからね?


「えっちな漫画家として最初の命令。あたしのことは亜由美あゆみって呼び捨てで呼ぶこと。変な気遣いとかもウザいから禁止。わかった?」



「ん。わかったならいいの。これからよろしくね」


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