仁–第禄夜:楼炎
向こうから何か音がした。
ザッザッザッザッ…
足音。男の物で数は2つ。
こちらに近付いてくる。
「…………か?」
「あぁ………らしい」
足音と話し声が此方に近づいて来た俺慌てて木の裏に隠れ息を潜めた。刀を握りしめる。文字通りの本能が、ヤバいと言っていた。
ザッザッザッ‼
足音が止まった。
どうやらこの桜の前のようだ。
「この桜の木に依頼をなぁ…」
「だけど文がありませんねぇ」
「土方さん」「‼」
ササッ‼
その名前に俺は呼吸が一瞬変になった。
足が滑り、桜の花びらで音をたててしまった。
「何もんだ‼」
此処で言い訳は絶対に通用しない。
ならば…
「…」
喋らない。
見付かりそうになったら喋る動くは禁物だ。獣だってそうする。
すると、「ったく無駄骨か…帰んぞ」
そう声が聞こえて…
「見事に一本折れましたね♪」
そのあとブツッと言う音と「まてっ‼(怒)」と言う怒鳴り声と共に足音がだんだん遠くなっていった。
“土方”と言う奴、思いの外キレやすかったな…
「(もう帰ったか…?)」
桜の木の影から少し首を覗いた。
いない。
あの二人が話し合っている間に読めないところの暗号が分かった。
近くに篝火(カガリビ)があったのが幸いだった。
翳してみると字の無いところからみるみる字が浮かび上がった。
あの“蜜柑”の意味は蜜柑で書いたと言うことだった。
「流石商家。高い蜜柑を惜し気もなく使うとは…勿論知恵も流石だけど」
そして改めて読み直した。
ー…私、藍井屋店主代理の藍鶴と申します。今助けて欲しいのです。日は明日。時は月が家々を越える頃、その時に供の者をそちらに向かわせます。事情と報酬はその時に話します。藍鶴ー
「明日か…」
そう呟き満開の桜の大木を見上げた。
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