第仁夜:紅い夜の龍
ーそんな辰のもう1つの顔になるのは主に夜中であるー
辰は一人、提灯も付けずに夜中の市内を歩いていた。
ザッザッザッザッ…ザッ‼
「さて…と、ご自由にどうぞ」
そう言い立ち止まった場所は寺だ。
門前の板には“壬生寺”と書かれている。
月は空高く昇っていた。
すると柳の木々から男が5、6人出てきたが、その姿は異様だった。
眼はみな赤く、あるものはこめかみに角を、またあるものは四肢に鋭い爪を、あるものは脚が異様に長く、服の間から長い毛がはみ出ていた。
『“用心棒”‼てめぇに頼みたいことがある。とりあえず此方に座ってくれ』
口から牙が4本覗いている男が嗄れた声で話しかけた。
“用心棒”はその姿に臆さず、眉1つ動かさずにその話を聞いていた。
「…ほぉ、頼み事は立ってするもんだけど…いいぞ話は聞く」
そう言い、男に指図された場所にしゃがみこもうとしたその時
「…リャァァッ‼」
脚が異様に発達している1人が刀を上段に構え文字通り飛びかかってきた。
その剣先にいる“用心棒”は後ろを見て、その魂胆に気付いたのか
「…ちっ‼」
と、1つ舌打ちをし…
ザクッッ‼…ドッ‼
もんどりうって倒れた。
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