第31話出産

24-031

(もう、いつでも良いよ)と十二月の六日に言う勝弘。

「貴方、何だか変よ、産まれるかも知れない」朝起きると同時に言い出す香里。

「本当か、病院に行こう」小菅の祖父に買って貰った車を玄関に乗ってくる泊。

「歩けないわ」

「判った」と抱きあげるが「重い、腰が折れそう」と言いながら、結局肩を支えて車に乗せて病院に向かう。

「小菅、今日は休みだ、頼む」と電話をすると「産まれるのですか?」

「そうだ、産気づいた」

「予定日より早いですね」

「署には連絡頼む」

「はい」慌てる泊の様子に微笑んで小菅が「お母さん、産まれるらしい」と凜香に言うと「そうなの、私はまだよ!お腹が空くから、もう一杯食べよう」と言いながら茶碗にご飯を入れている。

「弟か、妹が産まれるのに呑気だな」

「慌てても何も出来ないわ、このお腹なのよ」と大きなお腹を触る凜香。


香里は病院に到着して、安心したのか「あれ?産まれない」と痛みが止まってしまう。

「貴方、仕事行けば?」

「いいよ、今頃から行けないよ、事件も今は無いから、もしも事件が発生したら、今でも呼び出しがかかるよ」と二人が話していると小倉女医が「もう今日産まれますよ、本当に自然に出産されるのですね」と確認した。

「はい」と言う香里だが、泊は「もし、母子に危険が及ぶ様でしたら、その時は手術でお願いします」と言った。

(大丈夫だよ、切らなくても)とお腹から言う勝弘の言葉に「大丈夫だ、、、、あっ痛いわ」と言い出した香里。

看護師がやって来て香里を分娩台の部屋に連れて行く。

大丈夫かな?手術の方が安産だと書いて有ったのに、大丈夫かな?とそわそわ、ドキドキの泊は落ち着かない。

喉が渇いて自動販売機を探すが、診察時間に成って患者が待合室に数人やって来て、自分は夫なのか?祖父なのか?変な気分で落ち着かない。

病院を抜け出して外のコンビニに走って行く泊、適当に飲み物を二つ買って帰る。

何故?二本買ったのだ?香里の分か?と気が落ち着かなくて要らない物まで買っていた。

一本を飲み干して、ゆっくりと戻ると「泊さん、おめでとうございます」と看護師が笑顔で話す。

「えー」と驚く泊まりに「元気な男の子ですよ」

「えー、もう産まれたのですか?」

「もの凄く早い安産でしたよ、もうすぐ子供さんに対面出来ますよ」

「そんなに安産だったのですか?」

「記録に残りそうな、早さですよ」

「は、ははは、ありがとうございます」と言った泊は力が抜けて、椅子に座ってしまった。


しばらくして、病室に行くと「貴方、男の子よ」と笑顔で元気な香里に「安産過ぎたね」と泊が微笑みながら言うと「日頃から鍛えていたからよ」と笑顔の香里は泊が持っている缶ジュースを袋に見つけて「貴方気がきくわ」と手を差し伸べる。

袋から慌てて差し出すと、勢いよく飲み始めて「美味しいわ」と微笑む。

そこに看護師が「可愛いですよ」と抱き抱えて赤ん坊を連れて来た。

「勝弘!」と叫ぶ泊に「何よ、死んだ人の名前だわ、この子にその名前を付けるの?」と怒り出す香里に「私達を結んでくれた恩人だよ、彼が居なかったら私達は無かったのだよ」と真剣に言う泊に「そうか、あの釜江さんが亡くなって、私達が結ばれたのよね、そう考えると縁結びの神様ね」と香里も昔を思い出している。

(そうだよ、俺がその張本人だよ)と勝弘が言うと「貴方、笑ったわ、笑ったわよ」と赤ん坊を見て言う香里。

「名前が気に入ったのかも知れないな」と今度は泊が覗き込む。

笑っている様に見えた二人。

(今度は刑事の息子の泊勝弘に成るのだな)と言う勝弘に(そうだ、今度はこの夫婦の子供として真面目に生きて欲しい、前世の行いを改めて、歳老いていく夫婦の力に成るのだ)と何処からともなく聞こえる。

(安芸津童子さん?)と尋ねる勝弘に(安芸津は人間に戻った者には、話が出来ない)

(言葉を覚えると前世の記憶が無くなると聞きました)

(お前には特別に、永久に前世の記憶を残そう)

(えー本当ですか?)

(但し、この事実を誰にも話してはいけない、勿論亡霊の友人美千代にもだ)

(話すとどうなるのですか?)

(その時点で総てを忘れる、この事を肝に銘じてこれからの人生を送る様に!)

(貴方は何者ですか?)

(お前の人生を遊んだ償いだ、これからの人生は前世の教訓が有るから、素晴らしい人生に出来るだろう、頑張れ、お前を育ててくれる二人に感謝をして、長生きをして親孝行をしなさい)

(。。。。。。。)余りの突然の話しに呆気にとられる勝弘。

(今のは?誰?姿も何も良く見えなかったが、光っていたな、俺は前世の記憶を忘れないのだ、じゃあ天才か?)と考え始める勝弘。

「また、笑ったわ」

「そうだな、笑っている様に見えるな」と泊が言うと、看護師が母乳を飲ませてあげなさいと微笑んで言うと、部屋を出て行った。

(おお、おっぱいが吸えるのか?そうか俺は赤ん坊だったな?何か卑猥な事を考えているな、恐い赤ちゃんだな)勝弘は目の前に香里の乳房が有るのが感覚で判る。

産まれるまでは目が見えていたのに、今は何も見えない事に、この時初めて気づくが、感覚では判るし話し声は聞こえる。

普通の赤ん坊に成っていると思う勝弘だが、母乳を飲むと眠ってしまうのだ。


大きなお腹を抱えて、凜香が病院にやって来て名札を見て「えっ、この子の名前勝弘ですか?」と驚きながら泊まりに尋ねる。

経緯の説明を聞いて凜香も納得して「お母さんが男の子を産んで、泊さんも跡継ぎが出来ましたね」と微笑む凜香。

(あれは、猿だね、おい釜江さん!寝ているの?)

(。。。。。。)

(あれ?反応が無いな)側で見ている画老童子と安芸津童子は(もう、場所が違うから、話は出来ないよね)

(産まれたら、また話が出来るよ)と対決の準備は整ったと思っていた。

天使様が勝弘に話をした様子は、この二人には見る事は出来ないので、全く知らない。

二人の悪戯の上をいくから、この二人には何が起こるのかは把握出来ない。

しばらくしてから、叱られる事も知らずに楽しみにしている画老童子と安芸津童子だった。


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