第30話記憶の残し方

 24-030

(馬鹿ね、お酒を飲むと酔うに決まっているわよ)

(好きな物は死んでも同じなのよ)

(あの刑事二人共上手に馬に乗っているわね)

(お父さんは、乗るのは上手らしい、喜んでいるからな)

(何の話しをしているの?)

(俺がお腹に居ても、関係無いのだよね、好き者だね)

(二人共よね)

(そうそう、一人では楽しめないからね)とお腹の中の二人の会話と同じく、乗馬を楽しむ小菅と泊を二人の妻は目を細めて見ている。

「不思議ね、親子で妊娠して、同じ時期に出産だなんて」

「ほんとうよ、こんなに早く母親に成るとは考えもしなかったわ」

「それを言うなら、この歳で子供を産む私はどうなるのよ?」

「でもラブラブで私でも焼ける程よ」

「そう?そうかな?」と今朝の事を思い出す香里だ。

夕方近くまで遊んで、皆生温泉に向かう四人勿論部屋は別々で楽しむ。

翌日はゆっくり正午に旅館を出て、自宅に帰るのみだから、夜は二人の男性はお酒を飲み始める。

(美味しそうだな)

(駄目よ、また目を廻すから、絶対に飲んだら駄目よ、それでなくても頭悪いのに)

(悪くは無いよ、進学校に行ったから、学生の時は賢い子供だった)

(何処で?酒飲みに変身したのよ?)

(結婚してからかな?テニスしていたから、終わるとよく飲んだからね、女の子も沢山付き合いが有ったから、困らなかったな)

(奥さんとは恋愛?)

(成り行きだな、子供が出来てしまったから、あれが痛恨の極みだよ、今度は酔っ払ってSEXは絶対にしないが、鉄則だな!)

(それじゃあ、酔って出来ちゃったのね)

(その通りでも安芸津童子も、言葉を覚えると過去の記憶が無くなると、教えてくれたよね)

(その様な事を聞いたわね)

(文字は書けない、パソコンも使えないから、記憶を残すのが大変だな)と食事の間中、隣で殆ど話をしている二人。

凜香も香里も二人分食べるから、出された料理を総て食べてしまって「少し足りないわ」

「美味しいから、進むわ」とお互いが言って、追加を注文している。

懐石料理の追加って、殆ど無いと仲居が笑ったが、二人のお腹を見て「子供さんの分が足りなかったのね」と笑いながら注文を聞いて出て行った。


画老童子と安芸津童子が、この部屋に来ているのだがお腹の二人にも全く見る事が出来ない。

亡霊の時は直ぐに見る事が出来て、二人は話しかけただろうが、今は人間に戻っているので判らないのだった。

(この二人、記憶をどの様に残すか考え始めた様だね)

(方法を見つけるのは困難だよ)

(生まれた時は百%で、毎日少しずつ消えていくからね)

(パパ、ママで九十%は消えているよね)

(多分、消えるね)

(異なる生き方は中々出来ないよ)

(過去に何人居た?)

(日本では五人程度が異なる生き方をしたね)

(五百人は蘇って居るよね)

(時代が変わっているのに、同じ生き方をしても駄目な時も有るから、判らないけどね)

(間違いで死んだ人が五百人も居たのよね)

(新米の神様の失敗よ)

(私達は故意に殺したけれどね)

(人口の少ない国に配置換えされたら楽でしょう?)

(失敗の神様はそうよね、田舎の国の担当よ)

(僕はそれの方が良いけれどな)

(でも左遷だよ)

(天使に昇格出来ない)

(もう少しで戦いが始まるね、楽しみだ)

(釜江って勉強は出来たのね)

(酒に飲まれたのよ、人生までもね)と二人の神は、後数ヶ月でどの様に成るのか楽しみに見守っている。


翌月に成って「お母さん予想していた通り女の子よ、お母さんは男の子でしょう?」

「知らないわ、楽しみに沢山名前考えているから、可哀想だから聞かないのよ」

「お母さんの予定日十二月十一日でしょう?私が十日で殆ど同じね、付き添いは出来ないから小菅のお母さんに頼もうかな?」

「女の子の名前ね、多恵に決めたのよ」

「古い名前ね、今時の名前にすれば良いのに」

「閃いたのは美千代なのだけれど、亡くなったスナックのママの名前だから変更にしたのよ」

「何故?美千代って?」

「判らないわ、二人の頭に浮かんだのよ」

「二人って?」

「彼も同じだったのよ」

「変なの」と不思議そうな顔に成る。

「お母さんの考えている名前は?」

「聞いて無いわ」

「名前は御主人にお任せなの?」

「産まれた時に教えてくれるのよ」と嬉しそうな香里。


秋に成って、四人は毎日の様に大きく成るお腹を見て、産まれるのを待っている。

定期検診でも順調と言われて喜んでいたが、香里に医師は高齢だから帝王切開での出産を勧める。

初産では亡いので大丈夫だとは思うが、長引くと母子共に危険だと言われて悩んでしまう。


ある日美千代と一緒に成った勝弘が(腹切るとか話していたが、大丈夫かな?)(一緒に切られて、死んじゃうかも?)

(本当か?)

(だって、普通に産まれないから切るのだよ)

(俺は産まれる前に死ぬのか?)

(その可能性は有るわ)と美千代に脅かされる勝弘、知識が無いのでその様に言われると本当に死ぬ気がしてくる勝弘。

(おい、医者の言う事を聞かないで、大丈夫だよ!安産で飛び出すから、切るのは辞めようよ)とお腹の中で訴える日々に変わる勝弘。


すると香里も「貴方、私切るのは辞めるわ、お腹傷に成るし、恐いから」と先日までの納得した様子から一変してしまう。

「高齢出産で、危険度合いが多いと言われただろう?」

「大丈夫よ、いつも鍛えているから、簡単に産まれるわよ」

「まあ、それはそうだが、あれとこれとは違うのでは?」

「同じよ、道はローマに通じるのよ」

「それ意味違うと思うけれど」

「兎に角手術はしないの、だから今夜も鍛えましょう」

「えー」と驚く泊だが、直ぐにその気に成って楽しむ二人。

しばらくして「ね、大丈夫だと思うでしょう?」

「うん、まあ」と言いながら眠る二人。

(好きだな、この二人子供の目の前でするなよな、目は廻らないけれど狭いよ)と言いながら眠る勝弘。

自分の望みが叶って安心顔に成っていた。


いよいよ十二月に成って、二人はいつでも産まれる準備に入る。

家も新築され、子供の出産準備の品物は総て揃って準備万端だ。

一人は初産、一人は高齢出産と、廻りの人間は気が気でないが、神様の二人は(いよいよだな、楽しみ)

(環境は叔母さんの方が良いな)

(まあ、産まれてみないと判らないよ)と緊張の面持ちに成っている。

美千代と勝弘は生まれたら、どの様にして記憶を残して新しい人生を歩むか?その方法を毎日の様に考えていた。

(これだけ、記憶を暗記しても消えるのかな?)と思う美千代。

(俺は元々頭が良いから、記憶力には自信が有る)と思う勝弘。

いよいよ、誕生の日は刻一刻と迫っていた。



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