第29話蒜山高原

24-029

(疲れたな、少し眠ろう)と流石に二人は会話に疲れて眠りに就いた。

車は米子自動車道を大山に向かって、軽快に疾走していた。

いつの間にか、妊婦の二人もお腹の子供と同じく高鼾状態に成って「妊婦は疲れるのですね、二人共寝てしまいましたね」と小菅が運転をしながら泊に話しかけたが、その泊も朝から頑張りすぎてお疲れで眠っていたのだ。


大山

だいせん

は日本の鳥取県にある標高1,729mの火山で、鳥取県および中国地方 の最高峰である。

角盤山かくばんざんとも呼ばれるほか、鳥取県西部の旧国名が 伯耆国であったことから伯耆大山ほうきだいせんと呼ばれて、近くの山とは高さも形も変わっているので、直ぐに目につくのだ。

「おおー、凄い!」と叫んだ小菅の声に「何が?」と目を覚ます凜香が、目の前の大山の山を見て「ほんとね、他の山とは明らかに違うわね」と言って携帯のカメラに撮影をしている。

後ろを振り返ると、二人が重なる様に眠っているのを見て「あの二人、似た者夫婦だわ」と微笑んだ。

「蒜山高原で、バーベキューを食べようか?」

「有名なの?」

「僕も始めてだから知らないけれど、案内には書いてあったよ」と小菅が言う。

今宵の宿は皆生温泉だから、この大山、蒜山で夕方まで遊んで、ゆっくりと間に合う日程にしている。

岡山県北部、標高500mに広がる大草原こそ西日本屈指のリゾート地、国立公園「蒜山 高原」。

ジャージー牛の放牧地に隣接して、様々な娯楽施設が建ち並んで、子供連れの客が多い。

観光バスも蒜山センターに横付けして、多くの団体客が入っていく。

「凄い人ね、酔いそうだわ」とようやく目覚めた香里が、お腹を抱えて車を降りて行く、その体を支える泊。

凜香は若いのか、さっさと降りて小菅が車の駐車を見守っている。

「お腹空いた、ジンギスカン食べようか?」

「ジンギスカンって何よ」香里が尋ねると「お母さん、あそこに放牧されている乳牛の肉よ」と凜香が言う。

「違いますよ、羊の肉ですよ」と小菅が車の廻りを見てからやって来て言った。

「羊って毛布に成る?何処にも放牧されていなかったわよ」と香里が言った。


その昔蒜山では、終戦直後の物資が不足したころに、家庭で綿羊を飼育することが、ブームになった時代があったそうです。

ただ戦後、ニュージーランドからジャージー牛がやって来たことにより、ジャージー牛の飼育が主となり、綿羊を飼育することもすっかりなくなってしまいましたが、綿羊ブームから根強く残ったのが、このジンギスカン料理です。

一般的にはジンギスカンに使うラム肉(羊肉)は、その匂いに独特の癖があり、好き嫌いが大きく分かれる肉ですが、なぜこれほどに蒜山に根付いたのか? それは羊肉が持つある特性があったからです。

昭和30年代に蒜山観光協会が、大山隠岐国立公園に蒜山を編入させてほしいと、要望を行っていたところ、当時の三木行治・元岡山県知事が、広大な蒜山の自然を見て、「その牧歌的な雰囲気を味わえる観光地として…」と言う事で、ジンギスカン料理を家庭料理から、観光資源として広めようと考えられたと言うことです。

終戦直後に蒜山では、羊を飼育するブームがあり、家庭でも羊を飼い食用にもしていた事で、生活の中ですんなりジンギスカンが受け入れられていた事も、ジンギスカンを郷土料理として定着させる一因となったと考えます。


現在では、食肉を目的にした羊の飼育はない状態ですが、「折角蒜山に来たのだから、食事はジンギスカンでしょう!」と言うのは、牧歌的な風景を楽しみながら、ジンギスカンを楽しむと言う事が、すでに蒜山のイメージとして定着している。


四人は早速ジンギスカン料理のテーブルに座る。

その時美千代が匂いに目覚めて(よく寝たわ、釜江さん!)と呼びかける。

目の前に釜江が丸くなって眠って居る様子が見えている。

(あーあ-、誰だ!寝ているのに起こすなよ、あっ、叔母さん、小さいね)

(貴方も小さいわよ、自分は見えないけれど貴方を見ていたら、自分の姿が判るわ)

(チョット待って、向きを変えるよ)

「あっ、動いたわ」と香里が叫ぶと泊が「えっ、動いたのか?」と香里のお腹を触った。

「時々、動くのが判るのよ」と凜香も言う。

(少し向きを変えると、この騒ぎだよ、これで叔母さんの姿が良く見えるわ)

(ここは、蒜山って話していたわね、大昔に来たけれどね)

(昭和の始めか?)

(馬鹿じゃないの?私六十六歳よ、ここで馬に乗ったわ)

(馬?乗馬か?)

(そうよ、お父さんとお母さん、兄と来たわ、死んでも誰とも会えないわね)と少し昔を思い出してしんみりとする美千代。

(焼き肉が入って来たぞ、酒が欲しいな?)と言い出す勝弘。

すると香里が「チョット」と言って泊のビールのジョッキを横から飲む。

「おい、おい、大丈夫か?」

「美味しいわ、急に飲みたく成ったのよ、少しだから大丈夫よ」

(おおー、ビールだ、久々だな)

(釜江さん、酒飲んで大丈夫なの?)

(大丈夫だよ!平気、へ、、い、、)

(どうしたの?)

(目が廻る、日に何回目が廻るの。。。。。。)

(釜江さん!、大丈夫?)

(。。。。。。。)

(返事が無くなったわ、酔っ払ったのね、馬鹿だわね、子供の飲酒は駄目でしょう、知らないの?私は冷たいレモンスカッシュ)と叫ぶ美千代。

「レモンスカッシュ飲みたいわ」と凜香が言うと店員に尋ねる小菅、外の自販機に有ると言われて、買いに走る小菅。

「優しいわね」

「今だけかも?」

「貴方も今だけ?優しいのは?」と尋ねる香里に「大丈夫だよ、俺は香里に惚れているから、いつも優しい」と言い出す泊に「ご馳走さまです」と笑う凜香。

(あの刑事、動きが良いわね、産まれたら一緒にスポ-ツジムに行けるわね)と将来を夢見る美千代は満腹に成っていた。

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