第24話新しい生活

 24-024

翌日の夜、二人はお互いが同時に「このアパートを出ようと思うのだけれど」と言って大笑いに成っていた。

凜香はバイト先にも駅にも近い小菅の祖父母の家が理想だと言って、勿論母香里の再婚の邪魔をしたくない気持ちと、健太に毎日会いたいのが大きな理由だ。

「直ぐにでも引っ越して来てと、言われたけれど、片付けも有るからね」

「そうよね、小さな家でも思い出も、荷物も多いわ」

「凜香のお父さんと別れてから、このアパートに転がり込んで、二度と結婚なんかしないと決めていたのにね」

「お母さんは二度目、私は始めて結婚するかもだからね」

「どうなのよ、健太君は?」

「何が?優しいわよ、結婚したいわ」

「高校生でしょう?」

「もう卒業式終わったから、高校生では有りませんよー」

「でも大学生でも無いわよ」

「兎に角、お母さんは早く泊刑事さんと住みたいのでしょう?」

「まあ、そうかな」と言うと、時間を見て二人は荷物の整理をする事で一致した。


(豆腐が食べたい、冷や奴、今日は暑いわ、レモンスカッシュ)今まで眠っていたのに起きると直ぐに何かが欲しく成る美千代。

「お母さん、レモンスカッシュって、有った?」と尋ねる凜香。

「凜香酸っぱい物嫌いだったでしょう?レモンとかも買わないわよ、どうしたの?旅行の時から変よ」

「そう?変かな?今日も暑いね、桜が咲くね、コンビニ行って来る」と出掛ける凜香。

(ああ-、よく寝たな、地獄は寝心地が良いな、腹が減ったな、キムチで飯でも食べたい心境だ)と勝弘が言い出すと、香里は携帯で凜香に「凜香、コンビニでキムチ買って来て」と電話をすると「えー、お母さんキムチ臭いから食べないでしょう?どうしたの?」

「どうもしないわ、キムチが食べたいのよ、買って来て!」と言うと電話が切れた。

この時でもまだ勝弘は蘇ったとは思っていない。

暗闇に薄明かりが見える程度で何も判らないからだった。

唯、女の人の声は聞こえるのだが、直ぐに眠ってしまうので、まだ誰の声とかの判断は出来なかった。


凜香はレモンスカッシュの缶ジュースを、コンビニを出ると直ぐに飲み出す、袋にはレモンと奴、そしてキムチが入っている。

(良い感じだわ、満足したわ、眠たいな)と再び眠りに入る美千代。


洋服の片付けをしながら、礼服は入学式に必要だわとカレンダーを見上げる香里。

後二週間だわ、丁度生理と重なるの?嫌な感じだわ、お出かけの時は嫌よね、無くなったら楽よね~と考えていると「買って来たわよ、急にどうしたのよ」と言いながらテーブルにコンビニの袋を置くと、直ぐに確かめに来る香里。

「何よ、豆腐が二つも?これレモン?嫌いな物が一杯!」

「そう、欲しく成ったのよ、お昼はそれを食べるわ」時計を見る凜香。

「そうね、少し早いけれど食べましょうか?」香里も早くキムチをご飯の上に乗せて食べたいのだった。

しばらくすると、冷や奴にレモンを搾って食べ始める凜香と、白いご飯に一杯のキムチを載せる香里。

「何よ、それー」と同時に叫ぶ。

「嫌いでしょう?」と同じく同時に叫ぶと「最近好きに成ったのよ」と同じ様に言う。

「何故?????」と言いながらも食べ始める二人だった。

(この匂い最高、キムチだろう、イカの塩辛、明太子、が良いな)とキムチの匂いに起きてきた勝弘、香里が食べると自分が食べている様な感覚に成るのが、最高の気分に成っていたのだ。

一方の美千代も(レモンの匂いは最高よ、美容にも良いのよ、どんどん食べてね、私綺麗に育つわ?今度はタレントにでも成れるかも、豆腐にレモンだわ、豆腐も身体に良いのよね)

「凜香、幾つ食べているの?貴女豆腐一丁食べてしまったわよ」

「お母さんも変よ、キムチの瓶空っぽだよ」

「えー、もう無いの?昼から買い物に行って来るわ、コンビニ高いから、何か欲しい物有る?」

「レモン、豆腐」

「凜香馬鹿じゃいの?今食べて夜も同じ物食べるの?」

「麻婆豆腐」と叫ぶ凜香。

しばらくしてテーブルにメモ紙を置いて、買い物に行く用意をし始める香里。

「これ何?」とメモを見る香里に「買って来る物よ」

「お母さんの嫌いな物が沢山書いて有るわね、辛子明太子、イカの塩辛、キムチ?これ買って来るの?」

「変?」

「見るのも嫌だと言っていた物よ、総て」

「そう?気に成らないわ、凜香欲しい物有るの?」

「レモン、冷や奴」

「えー、まだ食べるの?身体変に成ったの?旅行で何か有ったの?」

「何も無いわよ、変なお母さん~」と言うと奥の部屋に行ってしまう凜香。

香里も自分が何故?辛子明太子とかイカの塩辛を欲しいのか?判らなかったが、何故か食べたいのだ。


三月末で、凜香は小菅庄一の自宅に、香里は泊刑事の自宅にそれぞれ引っ越していった。

寂しさも有ったが、香里は泊との新婚生活を娘に邪魔をされたくなかった。

凜香はいつでも健太に会える場所、駅にもバイト先にも近いし、健太の祖父母は凜香を孫娘以上に大事にしてくれる。

尚更驚いたのは、部屋を数日間の間に改造して若い娘が喜ぶ内装にして在ったのだ。


数日経過して、凜香の入学式に出席の為に泊刑事が香里を朝、自宅迄送ってくれた。

「お母さん、御主人様優しいわね」と冷やかすと「優しいわ、とっても」と惚気る。


入学式の帰りに久々に伸子に会ってお祝いのお礼を言った時「変なのよ、終わっちゃったかも知れない」とぼそぼそと言う香里。

「何が?」

「私、凄く正確で今まで一度も遅れた事無いのよ、凜香が生まれた時以外」

「何が?」と意味不明で再び尋ねる伸子に「生理よ、年取ると早く終わる人も居る様だから、折角再婚したのに、女が終わるなんて、ショックなのよ」

「環境が変わると、飛ぶらしいわよ」

「そうなの?過去に無いから、もう四十五歳だからね」と寂しそうに言う。

「新婚生活に、影響有るの?」

「そりゃあ、気持ちの問題よ、伸子さんはもう終わったでしょう?」

「随分前だわよ、変な事聞かないでよ、貴女子供でも産む予定だったの?」

「いいえ、いいえ」と手を振って否定をする香里だ。


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