第20話段取り通り

  24-020

数日後「上月君すまないね、二日間休ませて貰うよ」と泊刑事が同僚に話している。

「驚きましたよ、小菅君と一緒に旅行に行かれるなんて、それも将来は親子って聞いた時は驚きで声が出ませんでした」

「私も驚きだよ、この歳で再婚して子持ちに成るとは考えも出来なかったよ」そこに小菅がやって来て「車入れ替えてくれました」軽四を持って帰ってワンボックスの車が来た事を伝える。

「新車か、見に行こう」と三人が駐車場に向かうと、真新しいシルバーの大きなワンボックスの車が置いて在る。

「大きいな」

「乗られますか?」扉を開くと「おお、新車の匂いだ」と上月が息を吸い込んで言う。

「高いだろうな」

「お爺さんは嬉しそうに、義理の父親にも何かプレゼントをしなければと、話していましたよ」

「えー、私にも頂けるのか?」

「はい、義理父ですから」と微笑む。

「この車に四人なら、ドライブも楽だな」

「はい、自宅に八時に迎えに行きます」

「そうか、すまないな」

「凜香さんの自宅に行ってから向かいますよ、高速の入り口近いですからね」

「私はこの旅行が終わったら香里さんに自宅に来て貰おうと考えているのだ」

「凜香さんも一緒ですね」

「そこで、提案だが新婚の家に若い娘が来るのは刺激が強いと思わないか?」

「はあ、それで僕にどの様に?」

「あのボロアパートに一人では無理だろう?小菅君が、娘を貰えば四方八方丸く収まるとは思わないか?」

「えー、まだ高校生ですよ」と驚くが嬉しい小菅。

「それじゃあ、お爺さんの家に住むのは?無理か?」

「結局泊さんは、二人切りで新婚家庭を楽しみたい!そうですね!図星!」

「その通りだ、老い先短い私の願いを聞いてくれ」

「何が老い先短いのですか?邪魔されたくないだけでしょう?」

「まあ、そうだな」四人共神様の悪戯で結婚は決まりに成っているから、決められた時間の中で筋書き通りに進んでいる。


日曜日に成って香里のアパートでも朝から戦争状態、化粧をして昨夜から決めていた服を異なる物に変えて鏡の前は二人が交代で、色が合っていないとか、ネックレスが派手だとか騒がしく、結局食事も食べる時間が無くなってしまう。

「お母さんが迷うから、時間が無くなったわ」

「私じゃ無い、凜香が髪で長い時間使うからよ」

「私お母さんの様な癖が悪い髪では無いから」と口論をしているとアパートの外で、クラクションの音が聞こえる。

「ほら、健ちゃん来たじゃない」といつの間にか呼び方も変わっている。

窓から覗くと「わー、凄い車よ」と喜ぶ凜香が「先に、行くわ」と部屋を出て行ってしまう。

遅れて追い掛ける香里、手荷物を二つ持って車の前に行くと、自動で扉が開く。「わー、凄い」と驚く香里に「お母さんは後ろで、二人で座って下さい」と運転席から小菅が言う。

助手席には既に凜香が座って、サンドイッチの包みを開いて「お母さんも食べる?健太さんが買ってくれたのよ、朝食べる時間が無かったでしょうと言ってね」

「気がきくわね、朝食べてないとよく判ったわね」

「母も同じですから」と笑うと車を発進させた。

「新車は良いわ、この匂い最高」と言うと息を吸い込む凜香。

「高級車よね」とサンドイッチとコーヒーを凜香から手渡されて、車内を見廻す香里。

「お爺さんが、お母さんにも結婚祝いに一台プレゼントすると、話していましたよ」と健太が言うと「嘘!」と大きな声で驚く香里。

「それから、凜香さんは祖父の家に引っ越しますから、お二人で仲良く新婚家庭をお楽しみ下さい」

「凜香、何よ!聞いて無いわよ」

「昨日の夜、メールで話をして決めたの、新婚家庭に小姑は邪魔でしょう?」と笑う凜香に「僕も泊さんに頼まれまして、祖父母に相談したら、大歓迎だと言われたので、凜香に連絡しました」と微笑む小菅。


(段取り通り進みますね)

(私はこの道のプロですよ、狂いは有りません)

(二人共時間通りに?)と画老童子が尋ねる。

(まだまだ産めます、卵は多少老朽化していますが、この親子しか二人を同時に同じ場所で観察出来ないでしょう?)

(安芸津君の能力が凄い事は知っているけれど、親子同時に妊娠は中々意外で、この家族パニックに成るよね)

(まあ、嬉しいパニックだから、宜しいでしょう?)と車の屋根に座って議論の真最中だ。


しばらくして泊の自宅に到着すると、若々しい姿で既に家の前に立って居る。

「あっ、洋さん、大きな家ね」と馴れ馴れしく叫ぶと、洋の後ろの自宅に目が行く香里「こんな、家に一人で住んでいるの?掃除も大変ね」と何だか嬉しそうだ。

「おはよう!」と声を弾ませて乗り込んで来る泊に「洋さんの家始めて見たけれど、大きいわね」と尋ねる香里。

「えー、見えるかな?」と車の外を見る泊が「屋根だけ見える」と指を指す。

「この家では?」と目の前の大きな家を指さすと「違うよ、その大きな家の裏だよ」と言われて肩を落とす香里。

しかし、直ぐに元気に成って、二人の世界で話を始める。

ワンボックスの一番前と一番後部座席で全く異なる世界が作られていた。


(仲良く、楽しんでいるでしょう?)

(安芸津君の能力には感心するよ)

(でしょう、盛り上げないと中々この動物は交尾まで進まないのよ)

(感情が有って、難しい動物だからね)

(あのお婆さんが今夜で、酔っ払いが明日で期限切れだね)

(あの二人、脅かしたから今頃怯えているよね)

(でも近くで見られて、話が出来て驚くよ)

(今度は飛べないから、この親子が会う時に話せるだけに成るよね)

(言葉を覚えるまではね)と高速の風を感じて、室内に入って話会う神様達。


二人の幽霊は無意味な日にちを過ごしていた。

行く場所がお互いに無くなって、公園にお互いが揃って空を見上げている。

(いよいよ、明日だ)

(私は今夜よ)

(もう、未練は無いよ、行く場所もないから、地獄でも良いよ)

(私もよ、子供も駄目、孫も駄目、今夜消えるよ)

(元気でな~~)

(何よ、嫌みなの?)

(あっ、そうだな、元気な訳ないな、既に死んでいるのだから)

(最後に何処かに行く?)

(もう、動きたくない)

(私も、見たく無いわ、何を見ても腹が立つわ)と結局公園から動かない二人。

ベンチにカップルが座って、ラブラブの状況(こんな場所で)と頭を叩くと同じ様に叩く美千代。

「痛い!」

「どうしたの?」

「お前が叩いたのか?」

「何、言っているの?」今度は女性の頭を叩く二人。

しばらくして、二人は気味悪いと言って逃げて行った。

暇な二人は、その後も近くに来る人で遊んでいる。

昼休みは小春日和でお弁当を食べる人達に、意地悪をして遊ぶ、それだけが今夜までの楽しみに成っていた二人の幽霊だった。

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