第19話呆れる家族
24-019
「小菅と俺は親子に成るのか?」
「そうなりますね、一気に子供が二人か?」
「泊さん二人とは決まっていませんよ」
「どう言う意味だ」と照れる泊の横で真っ赤な顔の香里。
意外と冷静なのは凜香が「本当に弟か妹期待?」
「凜香親をからかわないのよ」と言う香里。
「これ、良い旅館ですね」とパンフレットを見る凜香。
「電車で行くの?」
「車ですよ」
「小菅の軽四?」
「泊さんのボロ車?では行きませんよ、お爺さんがお祝いに車を買ってくれたから、それで行きましょう」
「そんな車見なかったぞ」
「来週来ます、四人乗るにはワンボックスですから、広々ですよ」
「流石資産家だ」と四人の話は香里のボロアパートに笑い声で響き渡る。
三ヶ月前には絶対に考えられなかった光景で、娘は資産家の孫と自分は刑事と再婚に成っている。
スナック(夢)の仕事も結局は殆ど出勤せずに、新人二人に職場を譲った恰好に成った。
泊が自分の仕事を考えたら、妻が夜の仕事をしているのは、良くないと言ったからだ。
二人が付き合っている事を知った伸子も、仕方がないから萌さんと江美さんの二人が入って居るので大丈夫だと言われて、夜の仕事を辞めてしまった。
泊刑事は直ぐにでも一緒に住もうと思ってはいるが、中々言い出せないので今回の旅行をケジメにして、言い出そうと考えていた。
(貴方何故付いて来るの?)
(もうすぐ会えなく成るだろう、幽霊同士仲良くしなければ、一人に成ると恐いからな)
(幽霊が何故恐いのよ、人間が恐がるのよ)
(叔母さんの息子の嫁はもう子供出来ないのか?)
(無理でしょう?まさか息子の子供に成って産まれるの?それって変だわよ)
(俺は子供の子には成れないから、誰だろうな?)
(四十九日過ぎたらどうなるのだろう?)
(それを聞くのを忘れた、おーい安芸津さん)と呼びかけると(何?君達に会えるのも後少しだな)
(えー、もう会えないの?)
(生まれ変わったら、もう人間に戻るから会えないよ)
(四十九日過ぎたらどうなるの?)
(ああ、その時は消える、まあ人間世界で言う地獄行きだな)
(えー地獄に行くの?嫌よ)
(痛くも痒くも何も無いよ、消えるだけ)
(生まれ変われるって言ったじゃないの?)
(その予定だったけれどなあ、まだ判らない、あと少しだから、幽霊を楽しみなさい)と言うと消えてしまう安芸津童子。
二人はその話を聞いたら、もう恐く成って(幽霊でも、死ぬのは恐いな)
(神様が嘘をついたのかな?)
(俺達が遊ばれたのか?)
(今の話だと、誰かのお腹に入らなければ死んでしまうのよね)
(叔母さん、俺達は死んでいるのだよ、足も身体も無いし、お腹も減らない、眠らないだろう)
(でも世間は見られる、貴方と話せるわ)
(でも二人以外は、誰も話せない)
(そうよね、釜江さんが居なくなったら。。。。恐い)
(叔母さんの方が先に消えるよね、地獄行き!)
(止めてよ、脅かさないでよ)
(幽霊を恐がらせても仕方無いな、後十日程でお別れか、酔っ払って階段から落ちて死んだって笑われていたけれど、儚い人生だった)
(過去を見ると恐かったわね)
(そうだよ、五十数年間、反省の連続)
(私は貴方よりも十年以上多いから反省も多い、一番は美男子に惚れた事が失敗だった、昔から色男金と力は無かりけりだった)
(十日間何処で過ごす?)
(そうだわね、子供を見て過ごそうかな、孫の京佳も可愛くなってきたからね)(そうかな?小便臭い子供だった)
(別れた主人は美男子だから、血統だけでも、受け継いで居るわよ)
(まあ、あと少しだから、現世を楽しんで、最後の挨拶は頼むよ)
(判ったわ)美千代は自分の自宅に飛んで行く。
純江が廃品回収に美千代の衣類を纏めて袋に詰めて出そうとしていた。
(あれ、私の大事にしていた服、何するの?)
「お母さん、それお婆さんの服でしょう?新しいのに捨てるの?」
「当たり前でしょう、こんなの誰が着るのよ」
「でも高い服だと自慢していたわよ」
「貴女が着るの?」
「嫌よ、気持ち悪い、そんな年寄りの服着られないわ」
「私も、無理だわ、趣味も合わない」と言いながら、荷造りを終わった。
(わー、ショックだわ、惨い、あれ高いのよ!)と嘆く美千代。
「これ何?」京佳が小さな布切れを持って言うと「それ水着よ」
「わー、気味悪い」と放り投げる。
(何が気味悪いのよ)と頭を叩くが一人だと叩けない。
「これも、これも?」と次々と水着を引っ張り出す京佳。
「わあー、八枚も有る」
「お婆さん、水泳好きだったでしょう?」
「温泉でも行く方が似合っているわよ」と京佳は呆れた様子でその場を去って行った。
(可愛い孫だと思っていたけれど、憎たらしいわね)
「結構有るわね、貴方手伝って」と猛を呼ぶと猛がやって来て「沢山のごみだな」と言ったので美千代は完璧に切れてしまう。
(子供も信頼出来ないわ、信樹の処に行くわ)と次男の処に飛ぶと、ここでも「こんな着物貰っても着る機会無いわよ」と信樹の妻翔子が言う。
「でも店で着ていたから高級品だろう?」
「私がこんな、飲み屋の婆さんの着物着られる?」と怒り出して「でも沢山の着物だな、売れないのか?」
「趣味悪いわ、それにこれ相当古いのも有るわ、良いのはお姉さんが貰って悪いのを私の方に廻したのよ」
「そんな事をするのか?」
「店も従業員の伸子とかに、譲ったらしいわ、お金も貯め込んでいたのじゃあ?」
「それはないよ、親父と離婚して苦労したと思うよ」
(ここも大変な状態だわ、私の大切な着物殆ど、ここに在るのに恐いわ、身内でこれだから他人の伸子はどうなのよ)と口走ると伸子の処に飛ぶ美千代。
(店に飛んだわ)伸子と知らない女が店の中に居る。
そこに、カラオケの機材の人がやって来て「すみませんね、来て頂いて」
「義理の妹の片山です」と伸子が紹介をしている。
「昼間、年寄りの為にカラオケ喫茶を義理の妹がするのよ、カラオケの機材を最新の物に変えたいのよ」
「はい、ありがとうございます」
(伸子、中々ね、昼間も儲けるのね)自分が死んで一ヶ月程で自分の廻りが大きく変わっていると感じる美千代。
もう伸子の頭には自分の事は殆ど残っていないのでは?と思うと人生の儚さを感じる。
同じ様に勝弘も自宅に行って両親を見て「馬鹿な子供の事は忘れよう、私達ももうすぐ死ぬから子供は居なかった」
「そうですね、そう思いましょう」と老夫婦が話している。
娘の処に行く勝弘は「もうすぐ、お爺さんもお婆さんも死ぬから、離婚していても二人には権利が有るのよ、財産貰えるわよ」
「お父さん死んでいても?」
「勿論よ、お爺さんの財産は二人が貰えるのよ」
「そうなの、嬉しい」
「早く死なないかな」
(えー、この馬鹿娘達は)と頭を叩こうとするが叩けない勝弘。
自分の廻りが大きく変わっている事を感じて、完璧に疲れた気分に成っている。
幽霊二人は行く場所が無くなって、呆然として後九日目に突入していった。
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