第16話以前のトラブル

 24-016

小菅は大橋に口止めをして、白井ゆみの交友関係を探そうと、夕食後スナックを聞いて廻っていた。

ゆみの懇意にしている人を聞いている小菅に「何故、飲み屋さんの知り合いを探すの?」と尋ねる大橋。

「だって、あの事件はあのスナックビルで起こったから、嘘の証言をするのは、事件に近い人だと思うからだよ」と答えた。

八時に成って店は殆ど開店して、昼間の暗い町が明るく成っていた。

ゆみの店から数軒離れた店のママが「ゆみのママは確か(梓)に勤めている誰だったかな?叔母さんと親友だったと思うわ」と聞き込んだ小菅は店を出ると「これだ!」と叫んだ。

「やったわね、近いし間違い無いね」

「でもまだ、確実ではないよ、あの絵を描ける人なら、間違い無いけれどね」と嬉しそうに(梓)に向かう二人。

三階に向かうエレベーターで、降りてきた伸子が「小菅君!」と見つけて声をかけた。

「こんばんは」と言うと「流石お金持ちだわね、毎日飲みに出て」と笑うので「少し教えて?」と引っ張り込んで隅に行く。

警察手帳を見せて「え、刑事なの?」とびっくりする伸子に「隣の(梓)って従業員って沢山いるの?」と尋ねる。

「一人よ、どうしたの?」

「その人って絵が上手い?」

「そんな事聞いた事ないわ」

「そうか、上手くないか」

「絵がどうかしたの?」

「戸崎さんの無実が証明出来そうなのです」

「ほんと!協力するわ」

「それじゃあ、隣の従業員の関係で絵の上手な人、探して下さい」

「判ったわ」小菅は口止めをして、ようやく今夜の捜査を終わって署に帰って行った。


自宅に遅い時間に帰る健太を待って居た様に凜香が「お母さん、いつ帰れるの?何か新しい事判った」と次々と健太に質問攻めだ。

昼間も警察に着替えを持って行ったが、香里と会えなかったと言う凜香は不安が増大していたのだ。

「大丈夫だ、もうすぐ釈放されると思う」

「何故?そう言いきれるの?」

「大きな手掛かりが見つかったのだよ」

「何が、何が見つかったの?」と詰め寄る。

顔が健太の顔の前に来ると思わず抱きしめてしまう健太、堪らずキスをすると凜香も待っていた様に健太に唇を合わせる。

二階の健太の部屋に行こうとした恭子が、階段の下から居間に戻る。

あの二人はもう愛し合っているわと思った恭子、早く香里が戻らなければ二人の仲はもっと親密に成る様な気がする恭子だった。

不思議と恭子は二人の交際に抵抗が無いのが自分でも不思議なのだが、何故か応援をしてしまうのだ。


翌日の夕方で、逮捕か釈放を決める事になる香里だが、連日の取り調べに限界に近づいていた。

須賀刑事の尋問の時は二人が邪魔をして、頭を叩くので毎日の様に病院に走って行く須賀だが、香里の犯罪を決める決定的な事はないので、自白以外決め手が無い。

夕方に成って香里は疲れて「もう、どうでも良いわ」と溜息をついて「私が突き落としました」と自供をしてしまった。

(何を言い出すのよ、もう少しなのに)

(本当だ、三人で頑張ったのに)と美千代と勝弘の二人が怒る。

「課長、自白しました」

「そうか、自供したか、やったな」と喜ぶ課長。

「泊君、自供を詳しく聞いて、自供の細部を作り上げてくれ」

「はい、判りました」と二人で取り調べ室に入る泊刑事と書記係。

「頑張っていたのに、急にどうしたの?」と言い方が優しく成る泊刑事。

話を詳しく聞く為の手法だが、香里には優しい言葉が嬉しいのだった。

捜査に出ている小菅達に「もう捜査は必要無い、自供した。後は明日から自供の裏付けだ」

「そんなーー」と小菅は驚きと溜息が出て、一気に疲れが倍増した。

今夜帰って凜香にどの様に言えば良いのだろう?と項垂れる小菅に「何故、話さないの?昨日聞いた話?」と大橋が元気の無い小菅に尋ねる。

帰り始めた時、携帯が再び鳴り響いて「誰だ?初めての番号だ」と言いながら「何方ですか?」

「私よ!伸子、判ったわよ、隣の森永さんの娘さんが絵の勉強をしていたのだって」

「えーー、ありがとうございます」と携帯にお辞儀をする健太は急に明るく成った。

「繋がった、隣のスナック(梓)の森永と云う女が、填めたのだ」と怒りを露わにして、署に戻って行く小菅に「良かったわね」と大橋刑事が労いの言葉を言った。


取り調べ室では香里に泊が尋ねているが曖昧だ。

「何故、突き落としたのだ?」

「咄嗟だったので、覚えていません」

「そうか、彼とはいつからの付き合いだ?」

「判りません」

「何度ホテルに行った?」

「一度も行っていません」

「この写真は?」

「それなら一度です」

(おいおい、いい加減な事を喋るなよ、俺はお前さんのオッパイの形も色も知らないぞ)と怒る釜江。

(急に何故?自供しちゃったのよ)と言う美千代。

(オッパイ見たいの?)と頭の上から聞こえる声に見上げる二人。

(画老さん?)

(安芸津童子様だ)

(助けられないの?)

(大丈夫だ、助かるよ。オッパイも見られるよ、安心して下さい!)と安芸津が話す。

(本当か?風呂場に付いて行こう)

(馬鹿、助平―)

(でも高校生が良いな)

(どうして助かるの?)

(今、助け船が来るよ)

幽霊二人と神様の意味不明の会話の最中取り調べ室の扉が開いて、耳うちをする警官。

「取り調べは後程に成った」と部屋を出た泊刑事に「大変です、小菅が大変な情報を持ち帰りました」と須賀刑事が言う。

小菅が捜査員を前に、自分の調べた事を発表して、一同が驚きの表情に変わった。

「後は森永と戸崎に因果関係が有るのかが問題だな」と泊が言う。

「森永親子を引っ張れ、人騒がせな親子だ」捜査課長が怒りに震えて言い放った。

もう少しで誤認逮捕に成る寸前だったと胸を撫で下ろす。

泊は取調室で、平身低頭で香里に謝ってからスナック(梓)の森永千登勢と何か過去にトラブルが合ったのですか?と丁寧に尋ねた。

しばらく考えて「はい、スナックビルの駐輪場が小さくて、雨の日に何度か自分の場所が無いと、怒って口論に成った事が有ったと思います」

「えー、それだけ?」

「それから、何度か雨の日に私の自転車が、屋根の無い場所に置かれていました、多分彼女が意地悪で外に出していると思って、その後はナイロンを持参して、サドルに被せていました」

「たった、それだけの事で、殺人犯にしたてあげるのか?」

「それ以上の事は判りません」と疲れた様子の香里に「私が自宅迄送ります、本当にすみませんでした」と再びお辞儀をして謝った泊刑事だ。

(良かった、良かった)と美千代が言うと(オッパイはいつ見られるのだろう?付いて行けば良いのか)と嬉しそうに二人について行く釜江だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る