第11話興味を持つ小菅
24-011
香里は長い取り調べの後ようやく解放されて、自宅に急ぐ途中で夕食を買って帰ると、凜香が「お母さん遅かったわね」心配顔で尋ねた。
「店の事を相談していたのよ」
「このアパート引っ越ししない?」
「えー、何故?」
「だって、古いし先程、蛍光灯が消えたり灯ったりを繰り返して、恐かったのだよ」
「今、何ともないじゃあないの、それより明日休みでしょう」
「もう卒業迄学校に行く日は少ないわよ」
「四月から大学生だから、自分で色々するのよ」
眞一がお金を援助してくれて、凜香は大学に行ける事に成っていた。
「明日は、バイトの面接に行く予定よ」
その時、携帯に伸子から電話が有って、今度の店のローテーションの話をした。
週にもう一日出られないかと聞かれたが、昼間の仕事の関係で今の時間が限界だと答えると、一人か二人増員が必要に成ると言って伸子の電話が終わった。
誰か知り合い居ないかな?とも聞かれて考える香里だった。
翌日バイトの面接に行って自宅に戻った凜香を見計らった様に、須賀刑事と小菅刑事がやって来て凜香に釜江の写真を見せて「この男を見た事有りませんか?」と尋ねた。
「全く知らない男の人です」と答えると「お母さんが誰かにお金を貸して、返して貰えないとか話していませんでしたか?」
「刑事さん、面白い質問ですね、借りる事は有ってもかすお金は有りません」と笑いながら言った。
「高校生なの?」と小菅刑事がたずねると「もうすぐ卒業です」
「働くの?」
「いいえ、大学に行きます」
「お金、必要でしょう?」
「お父さんが援助してくれます」と嬉しそうに言う凜香。
「おい、帰ろう」と須賀が言うと「君、バイトするの?」小菅刑事が凜香に尋ねた。
「勿論です、今日も面接に行って来ました」
「決まったの?」
「まだ、判りません」
「良いバイト有れば、紹介するよ」と小菅刑事が言うと「お前何を話しているのだ?」と須賀刑事が怒った。
それでも小菅は名刺を出して、連絡するから携帯番号書いて欲しいと言うと、自分が去年迄働いていた店がバイトを欲しがっていると言い出したのだ。
凜香は悪い人では無いと思って、名刺の裏に携帯番号を書いて渡すと、もう一枚名刺を出して渡すのだった。
アパートを出ると「可愛い子でしたね」と嬉しそうに言う小菅刑事。
去年の四月から刑事に成った新米。
「お前、いきなりバイトの斡旋をするなよ!」
「でも、四年間働いたお店の人が欲しいと言われたので、探していたのでつい話してしまいました」と笑った。
自転車で二十分程の場所に在る本屋が、小菅が四年間働いていた店だ。
「これから、あの子の母親の職場に行く、同僚に聞いて釜江との関係とお金の動きを調べるぞ」
「はい」三十過ぎの須賀と二十三歳の小菅健太「お前の家って、この辺りでは有名な資産家だろう?何故?バイトしていたのだよ?」
「お爺さんの財産で、僕の物ではないから、それと親父が早く亡くなったから、お爺さんが自分で何でも自立しなければ、自分が亡くなった時困るだろうと、育ててくれたから、それに昔は普通の農家でしたから、今では町が開けて農地が無くなりマンションとか、駐車場に成っていますがね」
「そうか、中々賢い爺さんだな、孫に自立させるなんて」
「お袋も働いているのですよ!」
「えー、お母さんも働いているのか?」
「小学生の時に親父さん死んだから、それから働いている」
「お姉さん居たよな」
「東京の大学出てそのまま仕事しているから、殆ど帰って来ないよ!」
「よし、職場に行こう」
「何処でした?」
「ホームセンタームカイ、本町店」
「えー、ホームセンタームカイ?」
「どうした?」
「そこはお袋の働いている店のひとつです」
「何だって、お母さんに聞けば判るか?」
「店舗が違うので知らないかも、長く勤めていたら別ですが」
「まだ、一年程だろう?」と二人は車で店に向かうが、香里に見つからずに同僚に聞必要があるので様子を見ていた。
しばらく様子を見ていた小菅刑事が「あれ?」
「どうしたのだ?」
「お爺さんとお婆さんですよ」と指を指す。
指の前方には老夫婦が軽トラックに、肥料の袋と土の袋を載せているが重そうだ。
小菅が走って行くと「健太!どうしたの?」
「驚いたよ」と二人が肥料の袋を乗せてくれる健太に驚いた。
車の中から見ている須賀に二人が会釈をしたので、慌ててお辞儀をする須賀刑事。
数分間話をして、軽トラックは駐車場を後にした。
戻って来た小菅が「今日は戸崎さん休みの様です」
「何故判る?」
「祖父母、この店に毎週来ているらしいので、聞いてみたのです」
「そうか、じゃあ安心だ」そう言って店内に入って行く二人。
「それから、戸崎さんって良い人だと祖父母が話していましたよ」
「うわべでは人は判らない」と言いながら店内を見て、誰に聞くか店員を物色していた。
その香里は友人の一人に昨日の警察の事を相談に行っていた。
夕方から伸子の頼みで、店の掃除を手伝う事に成っている。
長い間休むと客が逃げてしまうので、出来るだけ早く開店させたいと伸子が言うので、昼間の仕事を休んでいた。
伸子は美千代の息子の猛と一緒にテナントの所有者の事務所で、譲り渡しの話をして伸子が店を継承する事が正式に決まった。
店に在る酒類は、猛が開店祝いに総てプレゼントすると述べて、酒屋等の支払も猛が終え店舗の備品も伸子の所有に成った。
日頃から美千代が自分の引退後は伸子にと、何度も猛に話していたので意志を尊重したのだ。
店に残った数少ないローンの機材も猛が総て清算して、製氷機、冷蔵庫、カラオケまで、清算して伸子に譲ったのだ。
「お袋が離婚して、この店で自分達を育ててくれたと思うと閉店は心苦しい、伸子さんが今後もスナック(夢)を営業して下さったら母も喜ぶと思います」と握手をして別れた。
その様子を側で見ている美千代は涙ぐんでいたが、勢い余って大泣きに成った。
「何?」と握手の後の手の甲に水滴が当たって、天井を見上げる二人。
「外、雨?」
「雨漏りなの?」と怪訝な顔で二人は真剣に天井を見上げる。
テナント会社の職員が、書類を持って戻って来て「どうかしましたか?」と二人を見て天井を見上げた。
首を傾げる三人を、美千代が微笑んで眺めていた。
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